第113話 後始末はしっかりと

二日後......。


領主のウィリアムさんから、領民たちに奥様のダイアナさんの病が全快したと

発表された。


そして領都の中は、ダイアナさんの快気祝いでお祭り状態となっていた。

街が賑やかになって、活気が戻ってくるのはとても良い事だ。


その陰で、ウィリアムさんには俺の事は内密にしてもらっている。

勿論、最高級の万能薬もしかりだ。


ダンジョン産の普通の万能薬一本でさえ、オークションなどに出すと金貨数千枚

はする代物だからだ。


そして、俺とティーナは未だにお城の中で過ごしていた。


領都のお祭り騒ぎが収まるまでは、城の中にいた方が落ち着いて過ごせるだろう

からと、ウィリアムさんが気を使ってくれた結果でもある。


ただ、お城暮らしなど一度たりとも経験した事の無い俺にとっては多少の息苦し

さはあった。



「ジョンさん。 テラスでお茶でもしませんか」


ダイアナさんも気を利かせて、お茶に誘ってはくれるのだが申し訳ない気持ちも

ある。 なんせ、お城に泊るつもりでやった事ではないからだ。



それから、二日......。


領都内も落ち着きを取り戻したようで、やっと普通の宿に移ることが出来た。


ウィリアムさんとダイアナさんは旅を再開するまで居てくれても良いと言って

くれたのだが、俺とティーナが落ち着かないので丁重にお断りをしてお城から

お暇をした。



“ふぅ~、やっと落ち着いて過ごせるね”

“ふふっ、そうね。 あんなジョン、初めて見た気がしたわ”


“実家だと全然砕けた感じだからね、家族自体が...”

“早く会いたいわね、ジョンの家族。 面白そうだもの‼”


さらに、二日......。


十分に休養が取れた俺とティーナは、北部辺境伯爵領の領都ヴァルタを出立した。



「あなた、良かったの。 御薬代あげなくて?」

「本人が必要ないと強情を張っていたから、仕方が無いだろう」


「そうね。 でも、何かしらのお礼はしなくてはいけないわね」

「そうだな、ルドルフと相談でもしてみるか」


「それから、残りの2本の御薬は如何されるのですか?」

「それはだな、家宝として厳重に管理するようにしておくよ」


二人は敢えて御薬として会話をしていた。

どこで聞き耳を立てられているか分からないからだった。


最高級の万能薬、世には出してはいけない類のものだった。



その頃、とある山奥では......。


「駄目だ、どんなに探しても見つかるもんじゃねよ」


「もう諦めて帰るか」


領主の依頼した薬草が手に入らなかった冒険者達は落胆していた。


“金貨1000枚”


その言葉の魔力には、手が届かなかったからだ。


一攫千金は幻の夢として、儚く消えて行った。

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