第103話 冬のなごり  

港町ロレンツォで、雪の無い暖かな冬を過ごした俺とティーナ。


“ティーナ。 そろそろ旅を再開出来る気候になったかな”

“そうね。 もう大丈夫でしょう”


“ディアーノまでは定期船で戻って、その先は徒歩での移動にしようかと

思っているんだけど、どうかなぁ...”


“ディアーノより北はまだ雪が残っているだろうから、いいんじゃない。

のんびりと進む方向で行きましょう”


木々や草花が芽吹いて、新緑の若々しい葉が元気な姿を顔を見せ始めた早春。

俺とティーナの二年目の新しい旅が始まろうとしていた。



四日後......。


ディアーノまで定期船で戻って来た俺とティーナ。


街には滞在せずに北門を抜けて、北へ向かう街道を徒歩で移動していた。


“ティーナ。 まだまだ、この地域は寒さが残っているね”

“でも平地の雪は融けてしまって残っていないから、まだましね”


そう、ティーナの言う通り。

この冬は雪の降る量が少なかったのか、平地ではすっかり雪は無くなり、東側の

山の頂上付近に薄っすらと残っている程度だった。



“ねぇ、ジョン...、

ここ迄旅を続けて来たけど、ジョンの故郷までは後どれ位掛かるの...?”


“そうだねぇ~。 何事もなくこのまま進めるなら、秋口には着くんじゃないかな”


“そう。 ジョンの故郷に行くの楽しみだわ”


“何も無い所だけどね...。

俺もティーナを早く家族に紹介したいから、何事もなく行けるといいね”



ディアーノの北門を抜けてから、14日目......。


俺とティーナは、西海岸最北の街ラッシオに到着した。


“ジョン。 南のロレンツォと違って、このラッシオは少し活気がないわね”


“北の方が冬が長いから、もう少ししたら活気も戻って来るんじゃないかな”


先ずは、いつもの如く宿の確保に向かう俺とティーナ。


そして、宿の受付で聞いた話だと、やはりこの冬は例年より雪の降る量は少な

かったらしい。


それから宿の人によると......、

昨日から春先の漁業が再開したので、港近くの市場では出航を祝って出初式と

いうお祭りを開催しているらしい。


そして、なんとそこでは美味しい魚介類の料理が食べ放題になっているらしい。


それを聞いた俺とティーナは早速、港近くの市場まで行って見る事にした。



“ジョン。 私、もうお腹いっぱいだわ”


ティーナが、まぁ~るく膨らんだお腹をさすりながら、俺の方を見て笑っていた。


“そうだね、俺も満腹だよ”


俺も、膨らんだお腹をさすりながら、ティーナの方を見て笑顔を返した。



俺達は、漁船を留めて置く護岸に用意されたテーブルで食事をしていたのだが、

海からの潮風はまだまだ冷たく冬の名残を感じさせた。


それでも、熱々の磯料理は身体を芯から温めてくれたのだった。

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