第66話 浜離宮

海辺の街を一通り満喫した俺とティーナは、海岸沿いを辿りながら帝都を

目指すことにした。


理由は、魚介類の料理が思っていたよりも美味しく地元料理の味も種類も

豊富だと聞いたからだ。


食いしん坊バンザイ‼


“旅の醍醐味は、やはり景勝地の散策とその土地のグルメだね”

“それだけじゃないわ。 人との出会いもでしょう”


“そうだね。 今回はそれが一番だったよね”


俺とティーナは、大海原を左手に見ながら海岸沿いの道を徒歩で南下して

行く。


“そう言えば、人魚の調べはあの場所でしか聞けないのかしら”

“如何なんだろう。 人魚の人達も広い範囲で生活している筈だから、

もしかしたら違う場所で聴くことが出来るかも知れないよ”



海沿いの道を南下して七日目......。


ここ迄に立ち寄った集落とは大きく異なった造りの集落いや庭園のような

造りの人工物が見えてきた。


いまは、海岸沿いの小高い丘の上にいるので、その人工物全体が良く見え

ている。


“ティーナ、あれはどう見ても庭園だよね”

“そうも見えるけど......中にある建物の外観が凝った造りに見えるから、

何処かの保養施設かも知れないわよ”


“あそこで、道が分かれているいるみたいだから、下りてみようか”

“そうね、行くだけいってみましょうか”


俺とティーナの意見が一致したので、小高い丘を下りて見る事にした。


丘を下りながら、人工物に徐々に近づいていく。

そして、近くになるにつれ見えている外壁もしっかりとした造りをしていた。


丘からの道沿いをそのまま進んで行く、すると朱に塗られた立派な門構えの

扉の前に到着した。


“中を見学出来ると思う”

“特に警戒が厳重という訳ではないみたいだから、聞いてみればいいんじゃない”


“でも、呼び出し方が......どうやるんだろう?”

“そこの大きな鉄の輪っかで、門の扉を叩くのじゃない”


“えっ、そんなことしたら門に傷が付かないかな。 弁償なんて出来ないよ”

“大丈夫よ。 だって鉄の板で輪っかを受けるようにしてあるもの”


ティーナの言葉を信じて、鉄の板を大きな鉄の輪っかで、軽く叩いた。


ゴツッ...ゴツッ


重みのある金属同士のぶつかった音が響く。


すると、大きな門の扉の横にある小さな扉が開き、一人の女性が出て来た。


「どちら様でしょうか」


「あっ、突然すみません。 旅の者で冒険者のジョンと言います」


「さようですか。 私はここの管理を任されている雅と申します。

本日はどの様な御用件で、こちらに......」


「え~とですね、丘の上を歩いていて偶然この施設が視界に入ったもの

ですから、それで興味が湧きまして、如何いった施設なのかなと思い、

訪ねて見たわけです」


「そうでしたか。 中をご覧になりますか?

小一時間程でしたら、私が施設の中をご案内して差し上げますので」


「入って大丈夫ですか?」


「はい、よろしいですよ」


この施設の管理を任されているという雅さんから、許可を貰ったので素直に

中に入ってみる事にした。


「こちらの施設は、浜離宮と呼ばれています」


「浜離宮ですか。 という事は、王族の方の私設ですか?」


「そういう事にはなりますが、王族の方々が一般の方も利用出来るようにと

作られた施設となります」


「随分と国民を大事にしている王族の方なんですね」


「そうです。 ですから、私もここで管理を任されている事を誇りに思って

おります」



そうして施設の中でも、部外者の俺でも見る事が出来る場所を、雅さんは全て

案内してくれた。



「今日は突然来てしまいまして、済みませんでした」


「いいえ、私もジョンさんを案内するのは楽しかったですから。

また、こちらに来ることが有りましたら、遠慮なさらずにいらして下さいね」


「はい、ありがとうございます」


道を左の方へ進むと、先程の丘の上に戻るという事で、雅さんに挨拶を済ませ

ると、俺とティーナはそちらの方へと歩き始めた。



“ジョンさん......面白い方でしたね。

この施設は、普通の方では認識出来ない筈なのですが、出来たという事は......

私では見えませんでしたが、おそらく妖精様が一緒におられるのでしょうね。”

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