第63話 潮風を感じて
駅馬車を使った移動で8日、ついに海沿いの街までやって来た、俺とティーナ。
徒歩だと多分、倍の日数は掛かっていたかな。
トルシェの宿で聞いた通り、面白いことがある街だと嬉しいのだけれど。
取敢えずは、宿の確保に向かおう。
“ティーナ、この街は独特の匂いがするね”
“これが、海の匂いなんじゃないの”
“そうか、こういう感じの匂いなんだね”
俺とティーナは、海を見たいので海岸線に近い宿を探す事にした。
駅馬車の停留場から海岸線に向かう駅馬車を探すが、出た後の様で50分ほど
待つことになった。
そこへ......。
「お兄さん、海の方へ行きたいのかい」
荷馬車を操る女性が、気さくな感じで話しかけてきた。
「はい、そうです。 駅馬車が出てしまったので、次の便を待っている所です」
「そうかい、何なら乗っていくかい」
「え~と、こちらとしては嬉しいんですが、いいんですか?」
「いいよ、丁度帰る所だから。 遠慮しないで乗っていきな」
「ありがとうございます。 では、お言葉に甘えて」
声を掛けてくれた女性にお礼を言って、俺は荷馬車の後ろに座った。
パカラッ...パカラッ...
少し速足の馬の蹄のリズムが耳に響いてきて心地良い。
後方に流れていく景色を眺めながら、海辺の情景に思いを馳せていた。
「お兄さん、着いたよ」
静かに荷馬車が停止した。
俺は荷馬車の後ろから降りると、御者席にいる女性の方へと行きお礼を言う。
「乗せて頂いてありがとうございました」
「ついでだったから、気にしないでおくれ。 ここからなら海辺まで10分と
掛らなよ。 気を付けて行って来な」
「はい」
返事を返して、ここまで乗せてきてくれた女性に手を振って別れた。
“人情味溢れる人だったね”
“そうね、とてもいい人だったわ”
“先にどっちにしようか?”
“んっ、何が......?”
“あっ、ごめんごめん。 言葉足らずだったよ。
海を見に行くか...泊まれる宿を探すか...だよ”
“先に、海を見に行きましょう。 最悪、宿は取れなくても野営が出来るし”
ティーナのわくわくした表情を見ながら、それはそうだと...俺も思った。
女性が10分も掛からないと言っていたし、遠くには既に海が見えていたので
その方向へ、俺はティーナを肩に乗せてのんびりと歩き始めた。
10分後......。
俺とティーナの目の前には、大きな湖、いや海が遮るものもなく広がっていた。
“これが......海か......”
“私の泉なんて、ちっぽけなものね”
暫くその圧倒的なスケールに、俺とティーナはその場でただただ見惚れて見て
いるだけだった。
“来て良かったね”
“そうね”
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