第51話 面白い看板

シュペルクの街を出て、帝都に向かう街道をのんびりと徒歩で移動して

いる、俺とティーナ。 と言ってもティーナは俺の肩の上だけれどね。


“ねぇ、ジョン”

“どうしたの、ティーナ”


ティーナが指差した方向へと視線を向ける。


“ねぇ、あの看板の謳い文句気にならない”


そこに書いてある文面を読んでみると。


“君も一攫千金を目指して、穴掘りにチャレンジしてみないか”


如何やら、穴掘り作業員募集の看板のようだ。


この国では通常、重大犯罪を犯した人達が、刑期を短くする為の労働

奉仕だった筈なのだが???


この看板の、謳い文句を読む限り、そうではないようだ。


“ねぇねぇ、面白そうだから少し寄り道して行きましょうよ”

“それは、いいけど。 穴掘りはしないよ”


ティーナが面白がったので、取敢えず行って見る事にした。



看板の設置されていた所から、左に曲がって山の方へと歩いて行く。


2時間ほど歩いたところで、関所のような建物が見えてきた。


その建物に近づいていくと、門の傍に立っている背の低い男性が居た

ので声を掛けてみた。


「済みません、街道の方にあった看板を見てやって来たんですけど、

ここはどういった所なんですか?」


「お~、あの看板を見て来たか。 よう来たな!

ここはじゃな、ドワーフの集落なんじゃよ。 御主は冒険者かの?」


そう聞かれたので、俺はギルドカードをその男性に提示した。


「ほうほう、ゴールドランクの冒険者でジョン殿か。

それなら、わしが集落の中を案内する事にしようかの」


俺は、集落の中を案内してくれるという男性の後に着いていく。


「この集落の名前は何という所なんですか?」

「あ~、この集落か。 ここはな、ヴァレーチェと言う集落じゃ」


“ヴァレーチェか、何処かで聞いた事があったような???”

“ロジャーの所じゃないの”

“そう言えば、ロジャーさんてドワーフだったね”


「済みません、ドワーフのロジャーさんてご存知ですか?」

「なんと、ロジャーじゃと。 あ奴は、わしの弟じゃ。 生きとったか」


「はい。 ライプリッヒの街でお会いしました。 凄く、お元気でしたよ。

それと、俺のロングソードを作って貰いました」


「そうか、そうか。 それなら、わしの工房に真っ直ぐ行くとしよう」


そう言うと、先程よりも足早に歩き始めた。


「ここじゃ。 そのままで良いぞ、中に入ってそこの椅子に座っといてくれ。

おい、帰ったぞ。 お客さんじゃ、茶の用意を頼むぞ」


工房の奥の方へ大声で指示を出すと、俺の対面にあった椅子にドカッと腰を

下ろした。


「わしは、ロジャーの兄で、ベイツじゃ。 よろしくな、ジョン殿」


「改めて、よろしくお願いします。 ベイツさん」


挨拶が済んだタイミングで、奥の方からお茶とお茶請けをトレーに乗せた

女性が出て来て、テーブルに置くと奥へ下がって行った。


「そう言えば、街道の看板は何か理由が有るんですか」


「あ~、あれはだな。 同族のドワーフに対する宣伝文句じゃな。

ドワーフ以外は穴掘りには興味がないじゃろう」


「確かに」


「そうじゃ、ジョン殿はゴールドランクの冒険者じゃったな。

一つ頼まれ事を受けてくれんかな......」


この後、俺はベイツさんから詳しい話を聞くのだった。

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