第8話 兄を想う妹の道
失礼、昨日投稿を忘れてしまいました……。
こ、今回は刀哉視点では無いです。はい。タイトル通りでございます。
──────────────────────────────
「───えぇ!? アールレイン王国には行けない!?」
「え、えぇ、この先の道は現在盗賊が出没するらしく、冒険者が倒してくれるまでは馬車を出せず……」
ヴァルンバから意気揚々と飛び出してきたのも束の間、金光達はアールレイン王国に入ることすら出来ずに、早速つまづいていた。
何でも、今現在いる街からアールレイン王国国境の関所までの道に、盗賊が出没するようで、そのせいで馬車を出せず立ち往生していたのだ。
金光は何度も自分達が居れば安心だという事を伝えたが、残念なことに金光は中学生で容姿も幼く、立夏は気が弱い。
それでは実際に戦っているところを見せない限り、冒険者になりたてのひよっこが息巻いている、という風にしか見えない。
もちろん、黒髪黒目であることから勇者であるということを伝えることは容易であるが、一応二人は国にバレないように来ている身であり、あまり足がつくようなことはしたくなかった。
そのため現在は簡易的に髪と目の色を、各々が光魔法で変化させていた。
その結果が足止めであるのだが。
「幸先悪いなぁ、もぅ……」
「ま、まぁ、仕方ないよ。盗賊さんに会っても、私たちじゃどうしようも出来ないんだし」
それは、『私達じゃ人を殺せない』ということを言外に伝えていたのだが、金光は立夏の方を振り返る。
「え? 何言ってるの? 刀哉にぃに会うためだったら盗賊ぐらい倒すよ? というかぶっ殺だよ?」
「じょ、冗談はやめてよカナ……」
立夏は振り返った金光の目が据わっていることに気づき、少し引き気味に言った。その表情は本当に盗賊など殺してしまいそうな勢いだ。
(お兄さんに会えなかったのがそんなに辛かったのかな……)
そう考えることが出来たのは、金光の現在のストレスと、その反動がそこから来ていることを知っているからだった。
そうでなければ、引くどころの話ではなく、恐怖すら覚えていただろう。
だがどちらにせよ、金光が今すぐにでもアールレイン王国に向かいたいという思いは最大限汲むべきだ。ようやく元気がなかった金光が、元に戻り始めたのだから。
それが多少危ない橋だったとしても、立夏は一緒について行くつもりだ。何より、立夏も刀哉とは少なからず交流がある。同学年よりもずっと頼りになる。
金光のことは抜きにしても、会っておきたいのは確かだった。
「それで、結局のところどうするの? 本当に盗賊さん達を私達で倒しに行くの? 自慢じゃないけど、私戦えないと思うよ」
「それはわかってるよ。でも、んー、どうしよっかなぁ……」
金光は街を歩きながら思案した。一応選択肢としては、冒険者が盗賊を倒してくれるまで待つこと、自分達で盗賊を倒すこと、こんな中でも馬車を出してくれる人に乗せてもらうことが考えられる。
この3つが現状考えられる選択肢で、歩いていけば迂回も可能ではあるが、それだと結局時間がかかり本末転倒である。
そして一番最初の選択肢は最悪の手段であり、結果的に現在選べるのは後者2つ。
「なんか居ないかな、盗賊なんて知ったこっちゃない、私は通らせてもらう! みたいに馬車を出してる人」
「そ、そんな簡単には……」
否定しかけた立夏だが、その言葉は途中で途切れた。
「何かお困りですか?」
「わぁっ!?」
背後から声をかけられ、立夏は驚いて飛び跳ねてしまったのだ。
慌てて振り返った先には、凛とした佇まいを見せる……メイドが居た。
「……えっと、どちら様ですか?」
思わずそう聞き返してしまったのも仕方ないだろう。まず、初対面なのだから。どこからどう見ても、立夏には見覚えがない。
「あ、すいません。何やらお困りのようでしたので、使用人の
メイドは立夏が聞くと、淡々と答えた。立夏よりも歳上に見えるそのメイドは、見るからに年の離れた立夏達に対して敬語で続ける。
「私、とある場所でメイドを務めています、サラと申します」
「あ、ご丁寧にどうも。えっと、立夏です」
サラと名乗ったメイドは、挨拶の際に深々と頭を下げた。それを見て、立夏も慌てて頭を下げると、背後から金光も続く。
ちなみに名字を言わないのは、金光と立夏で考えた一種の案だった。名前だけならともかく、名字を言えば、勇者であるとバレてしまう可能性があるからだ。
「私は金光です。サラさん、でいいですか?」
「構いませんよ、カナミさん。それで、先程の件なのですが、失礼ながらお話を聞かせてもらったのですが、馬車が必要なのですか?」
「えっと、はい。アールレイン王国に行きたいんですけど、盗賊が居るらしくて、乗ってきた馬車は盗賊が退治されるまで出せないって言われて……」
金光はサラに、現状の説明をした。すると、少し思案した後、サラは金光と立夏に向けて口を開く。
「でしたら、私がお送りしましょうか?」
「え? 良いんですか?」
思わぬ言葉に、立夏が聞き返す。金光も同じことを聞きたかっただろう。サラは一つ頷いた。
「えぇ、現在私は、仕えている主より
「ほ、ホントですか? じゃ、じゃあ是非お願いします!」
サラが改めて肯定を示したので、立夏は喜んだ。それを金光と共有しようとしたのだが、金光は何かを考えているような仕草をしていた。
とは言っても一瞬のことだ。立夏に同調し、金光も頷いて「よろしくお願いします」と頭を下げる。
「では、馬車まで行きましょうか。付いてきてください」
そういって、サラは歩き始め、その後を金光と立夏が追った。
◆◇◆
金光達はそのままサラが所有するという馬車に乗せてもらい、早々に街を出ていた。
馬車の移動速度は今まで金光達が乗っていた馬車よりも早く、それでいて揺れも少なかった。
メイドということだが、お金持ちに仕えているからか、サラの所有する馬車は見るからに質が良かった。
別にゴージャスという訳ではないのだが、とても綺麗かつ、何かの
揺れが少ないのもそれに由来するのだろう。
御者はもちろんサラが務めているが、馬車を引くのは馬ではなくもう少し大きい狼のような動物だった。(それでは馬車ではなく狼車のような気がするが)
「そういえば、カナミさんとリッカさんは、どのようなご用件でアールレイン王国へ?」
ふとした瞬間にサラは気になったのか、荷台に居る立夏達に聞いてきた。
立夏は金光に目を向ける。一応行動を起こした金光に発言を譲ったのだ。わざわざ隠すものでもないのだし。
「私は、兄がアールレイン王国に居ると聞いたので、兄に会いに……立夏は付き添いです」
「お兄さんに会いに、ですか……?」
「はい。もう、1ヶ月以上会ってませんから……」
まるで恋する乙女のような表情で、しかし切なげに言った金光に、立夏は特にツッコミを入れることも無かった。
金光が兄を、刀哉のことを家族以上に意識しているのは、普段の会話からも刀哉を前にした態度からも理解していたし、金光自身それを立夏に隠す気はないようだった。
しかし、サラはそうではないだろう。
「カナはお兄さんが好きなんですよ」
「は、はぁ、なるほど……」
サラは立夏の言葉をどう捉えたのか、やはり少し困惑しながらも頷いていた。
立夏自身、金光が刀哉を
それを珍しいとは思うが、変だとは思わない。立夏は純粋に、金光の気持ちを捉えていた。
そういう部分が、金光が立夏に心を許している理由の一つなのかもしれない。
「……そういう理由は予定外ですね……」
「サラさん、何か言いました?」
「いえ、なんでも……ですが、お兄さんにお会いになる事ができるといいですね」
サラが振り返って向けてきた笑みに、金光は少しだけ間を開けた。
「……はい、本当に。早く、会いたいです……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます