第52話 名前

 実は私女装に興味があるんですね。はい。それはもうなんというか、女装して女の子の中に混ざって見たい見たいな?


 まぁ無理なんですけど。私女顔ではありませんし、毛深いですし、肌は白い方なのかもしれないけど体付きが男ですし。

 あ、ちなみに毎度のように小説とは関係の無いことですよ? ……でも刀哉に女装させるのはありかもな、みたいな。刀哉、肌白い毛も少ない美少年ってことですし、女装させたら光ると思うんです。

 

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 「そう言えば、その子、ご主人様の話だと武器なんだよね?」

 「あぁ、そうだな」


 右手で俺の腕を掴むティソティウスを見ながら頷く。


 「ティソティウスって名前は、多分武器なんだろうけどさ……女の子の名前にしては、ちょっとアレじゃない?」

 「長いな」

 「可愛くないって言いたいんだけど」


 ふむ、言われてみれば確かに。魔剣ティソティウスは武器であるなら大して気にならないが、女の子の名前としてはどうだろうか。

 少なくとも可愛い系統の名前ではない。


 「だが名前は名前だ。勝手に変えるのはどうかと思うぞ。なあ?」

 「……………」


 ティソティウスはどうやら、そこは気にしないようだ。特に頷きも否定もしなかった。


 「いやいや、そもそも変えるとかじゃなくてさ。あだ名を考えたらどうかなって」


 あぁなるほど。あだ名なら良さそうだ。

 それなら良いだろ? ティソティウスも意味はわかるのか一度頷く。


 「あ、えっと、私、ずっと思ってた名前があります……」

 「ん? 何?」


 すると、いざ考えようとした矢先に、ミレディが声を出した。やはりミレディもティソティウスという名前には違和感を覚えていたのだろうな。


 「ティソティウスという名前ですから、"ソティ"さんでどうでしょうか……?」


 ほう、ティソティ〃〃〃ウスで、ソティ……。

 ミレディが出した名前は、文句なしの完璧なものだった。


 「良いね。ソティって次から呼ぼうか」

 「ほ、ホントですか? 良かったです……」

 「ソティちゃん……うん、呼びやすいし、可愛いし。アタシもいいと思う」

 「じゃあ次から、なにか名前を決める時はミレディに頼むよ」

 「は、はいっ! ………え?」


 うん、もう返事は聞いた。


 「じゃあ、ソティって呼ぶんでいいか?」

 「……………」


 ティソティウスは、少し俺を見上げて、コクリ。

 どうやら気に入ったようだ。


 そういうことで、この子の愛称はソティとなった。


 


 ◆◇◆





 気がつけば時間はお昼を回っていたので、俺たちは食堂で昼食を食べた。


 ソティの体はあくまで擬似であり、維持しているのは魔力によるもののため、食べなくても問題は無いようだが、普通に食べていた。

 スプーンやフォークは扱えていたので何よりだが、箸は後で覚えさせなくては。俺か食べさせなきゃいけなくなる。


 「さて、と。それじゃあソティの散歩も兼ねて、少しハルマンさんの所に行ってくるよ」

 「んー、何で?」

 「そろそろハルマンさんを一度元の店に連れて帰らなきゃ行けないからね。元々そういう約束で来て貰ってたし」

 「いや、ソティちゃんの方」

 「あっ。そっちか」


 ソティの方は、単純にヴァルンバに寄るついでに迷宮に行くから、そこでソティの強さを見ておきたい。

 あと、本当に武器に戻れるのかもな。


 「そっか。誰もいないからって、迷宮でソティちゃんに変なことしないでしょうね?」

 「変なことって?」

 「それは……え、エッチなこと、とかぁ?」

 「俺からはしない」

 「何か、含みのある言い方……」


 そんなつもりは無いんだがな。だが、ちょっと不思議なところもあるし、ソティが何もしてこないとは言えないな。

 

 「いつも通りグラは置いてくけど、ちょっと距離が距離だし、気をつけてくれよ」

 「はいはーい。と言っても、別に私達部屋から出ないと思うけど」

 「一応だよ」


 今のところ俺の問題遭遇率は結構高い。ルナやミレディに降りかからないように祈るばかりだ。


 それじゃあ、と俺はソティと共に部屋から出る。『お土産よろしく~』とルナが最後に言ってきたが、この世界に土産っていう文化があるのか?

 そもそもヴァルンバの特産品を知らん……まぁ、適当に何か買っていけば取り敢えずはやり過ごせるだろう。


 ちなみに扉を開けた先は、すぐにハルマン商会の目の前だった。


 「……………」


 俺の腕を掴んでいたソティが、キョロキョロと辺りを見渡した。背後に既に、扉はない。


 『転移テレポート』を応用し、ある一定の指定した空間と空間を繋ぐ、某猫型(と言う名のタヌキ型)ロボットが良く使用するピンクのドア的魔法だ。

 名付けるなら『どこでも……いや、これは流石にやめておこう。

 『転移扉ワープドア』と安直な名前にしとくか。元々俺に捻った名前なんて付けられん。

 その点、『霧氷の宿り木ミストロテイン』は結構いいと思うのだがな。


 っと、その魔法によって、俺はアールレイン王国王都にある、ハルマン商会奴隷店へと来ていた。ちなみに来るのはこの街に着いた時以来だ。


 ソティの手を引いて中へとはいる。ソティは周囲の喧騒が気になるのかまだ目を周囲に動かしていたが、俺が動こうとすると、自分から速度を合わせてきてくれた。

 まるで親についてくる雛鳥みたいだな……もう可愛いとかそういう言葉は言わなくていいだろう。口癖になってしまいそうだ。


 「いらっしゃぃせ、ハルマン商会へようこそ」


 店へと入ると、柔和な笑みをした店員が俺達を迎えてくれた。

 ここは支店だが、内装はほぼヴァルンバにある本店と変わりはせず、煌びやかな造りになっている。


 店員は最初、俺の顔を見て、体を見て、ソティを見て、と瞬時に視線を走らせた。多分、客の身なりから色々と推測することがあるんだろう。


 今回の場合、ソティの立場を店員は『奴隷』もしくは『魔法使い』のどちらかと見たはずだ。身の綺麗さを測るのであれば、恐らく後者。


 そして俺のことは……貴族と見たようだな。俺の服は現在は結構上質かつ綺麗なものだ。これは偽装によるものであって、本来の服装は普段通りのワイシャツなのだが、それを知ることは出来まい。


 「トウヤ様、とお見受け致しますが、相違ないでしょうか?」

 「はい」

 「分かりました。店主は応接室でお待ちになっているので、ご案内致しますね」


 事前にハルマンさんに伝えてあったからか、従業員にも俺が来ることは伝えてあるようだ。スムーズに進んだことを嬉しく思いつつ、興味津々、とまではいかないが、気になっているように周囲を見回すソティを連れて、俺は応接室へと案内される。 


 従業員が扉をノックし、すると返事が返ってきて部屋の中へと招かれる。


 何度目かの対面。そこにはもちろんハルマンさんが居た。


 「ありがとう。下がっていいですよ」

 「わかりました、失礼します」


 ハルマンさんの一言により、従業員は俺とソティ、そしてハルマンさんに礼をして退室した。

 

 「どうぞ、座ってください」

 「はい、いつも唐突に押しかけてすいません」

 「いえいえそんな。それに、今日はどちらかといえば私の方から出向くようなことですし」


 お互いにお世辞を言う。まぁ、気の許せる中だし、本当に形だけの社交辞令だ。

 座って、いつも通り出された紅茶のような飲み物に一度口をつける。ちなみにソティは俺の隣に座っているが、俺が飲んでいるこれに興味津々。


 自分の方に出されたカップよりも、こっちの方が気になるらしい。


 「ところでトウヤ様、そちらの少女は?」

 「詳しく話せば少し長くなるかもしれないんですが、まぁ曰く付きの子です。ちょうど今日に拾ってしまいまして」


 ソティに俺は自分のカップを渡しながら、ハルマンさんに言う。今更関節キスなど気にするか。好きに飲め。

 

 「いやはや、それにしてもとても可憐な少女ですね。トウヤ様の周りには、本当に見た目麗しい女性が多い」

 「やめてくださいよ。そもそも、俺と一緒にいる女の人をそんなに見た事があるんですか?」

 「商人としては、情報は命綱ですからね。目立っているトウヤ様の情報はすぐに耳に入ってくるんですよ」


 つまり、クロエちゃんや御門ちゃん達なんかのことを言っているわけか。

 いや、確かに美少女達なんだが……どれもこれも複雑なところがあるからな。


 「それでトウヤ様、どの程度でヴァルンバまで行けますか?」

 「あぁ、心配しないでください。それこそ、一瞬と言える時間ですよ」

 「それは、頼もしい。それと、幾らか新しく購入した奴隷が居ますので、彼らを連れていくことも可能ですか?」

 「もちろんです。何人でも何十人でも問題ありませんよ」

 「相変わらずですね」


 何故こうもできるのか自分でも不思議ですよ。


 俺が言うと、ハルマンさんは『奴隷を連れてきますので、少し待っていてください』と席を外した。何度か俺の実力を見せているからか、ハルマンさんももう完全に慣れてるな。俺が出来ることを疑っていない。

 必然的に、俺とソティの二人っきりになる訳だが。


 ソティは俺が渡したカップを飲み干していたにも関わらず、まだ口を付けていた。何がしたいのだホントに。

 俺は元々ソティ用に出されていたカップを代わりに飲むが、するとソティがまた俺の方を見た。


 「飲むか?」

 「………………」


 コクリと頷き、また俺からカップを受け取るソティ。なんだろうな、俺は毒味をさせられているのか?


 コクコクと紅茶のような飲み物を飲み干し、ソティは満足気。美味しいのなら何より(俺が淹れた訳じゃいけど)だが、ロリコンを後押ししてるだけな気がする。


 いやいや、ソティの身長は小柄とはいえ、150を超えている。年齢は0歳と表記されているが、それはこの体になってからであって、実際には八百何十歳と俺より年上だ。


 ……多分、言い訳してる時点でダメなんだろう。それに、確かに幼さも含んだ容姿であることに変わりはないし。


 せめてこれは不可抗力であると、自分を納得させるだけしておこう。

 

 





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