第39話 看破

 ハッピーバースデー!


 あ、私の誕生日でした、今日。(6/5)

 祝ってくれてもいいのよ?


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 どうにか事態も収束し、演習場では『じゃあ帰るかー』みたいなノリで全員が帰り始める。

 軽く挑んでいた俺が言うのもなんだが、随分と気軽だなホント。


 「イブ、一緒に帰ろーぜ!」

 「誘いは嬉しいけど無理。レオンは学生寮だろ? 俺は宿屋通いだから、方向が真逆だよ」

 「マジか! じゃぁ……まぁ、仕方ないかぁ」

 「悪いね」


 声をかけてきたレオンに、俺は残念だが断りを入れる。仕方ないだろう、ルナとミレディが居るから俺は宿屋なのだ。学生寮も気になるけどな。


 にしてもこの感じだと、ほぼ全員が学生寮か。何となく疎外感を感じる。学園ライフを満喫するならば、やはり学生寮に住むのは必須だと思うのだ。

 ルームメイトとの他愛もない雑談……最近そういうの全くしてない気がするし。


 レオンが『んじゃなー』と手を振って帰って行くのを見送り、一先ず今日のところは俺も帰るか、と演習場から外へと出る途中。


 くいっと、控えめに袖が引かれた。


 「……あれ、どうしたの?」


 振り返れば、そこにはリーゼロッテが居た。

 そう言えばミリア先生に預けたあと放置していたな。てっきり帰ったと思ったが、何か用があるのだろうか。


 何だか慣れないことをするように、モジモジとしたり、チラチラ俺のことを見たり、何ですか?

 袖をちょこんと摘んだままだから、まるで子供のようだ。変に顔も赤くしてるし。


 ただ、こういう時は大抵待つものだと俺は学んでいる。


 だから急かしたり、俺の方から聞いたりはしないのである。


 「………その、さっき………」

 「さっき?」


 そして、リーゼロッテは俯きながら、とても言いづらそうに、小さな声で。


 「………あ、ありがとう………」


 そんなことを言ってきた。


 かあぁぁっ………リーゼロッテはの顔がみるみるうちに赤くなっていく。


 ははぁん、なんだ、先程俺が抱えて助けたことに対して、わざわざお礼を言いに来たのか? と俺は心の中でにやける。

 てっきり俺は、むしろしらばっくれるというか、特にお礼も言わずに去るかなとも思っていたのだが、律儀なところもあるではないか。


 「そ、それだけ!」


 俺が心の中でうんうんと頷いている間に、リーゼロッテは強めに言って走り去って行った。

 もう耐えられない、という感じだろうか? お礼一つ言うのにあんなになる必要は無いというのに、難儀な性格だなぁ。

 それでもしっかりお礼を言いに来るからこそ、いいものがあるんだけれど。それに、これってもしかしなくても、良好な関係を築くための足がかりになりそうだし。


 やっぱ人助けはするものだな。あぁいうのを見ると気分的にも良いし、知り合い相手だと関係が縮まるし、あと可愛い。(つまり助けるのは女子ということ)


 先程の袖を掴むリーゼロッテの姿が目に焼き付いて、若干にやけながら、俺も帰るかと足を動かす。


 うん、ネイビーだから黒系統に近い色合いで、ロングの髪の毛をもったクール系の少女に、まるで子供のような仕草をされる……オタク風に言えば、萌える。

 ギャップ萌えだ。初対面の印象が印象だけに、中々のギャップ萌えだろう。


 馬鹿なことを考えながら、もうほとんど誰も残っていない演習場から出て、校門に向けて歩き出すと、今度は横から俺の視界に誰かが入り込んでくる。


 「わっ、拓磨。今帰るところ?」


 入ってきたのは拓磨だった。女の子の方が喜ぶんだけどな、叶恵とか美咲とか。


 「わざとらしく驚かれてもな。俺は、お前を待っていただけだ」

 「つまり帰りのお誘いか。拓磨は宿屋?」

 「明日か明後日には学生寮に入るがな」


 ほほう、仲間か。俺達は校門に向けて歩きながら話す。

 

 「他の三人は?」

 「先に帰った。というより、帰らせた。少し2人で話がしたかったからな」

 

 2人で、話……えっ………え?


 「ゴメン、俺ノンケだから」

 「俺もだから変な思考をするな」


 真剣な表情で拓磨に謝ると、ため息を吐かれながら言われた。

 少しボケただけでこれだ。全くなぁ。


 そして拓磨は、言った後にフッと笑う。別に俺のボケが面白かった訳では無いだろう。


 「……やはり、似てるな」

 「ん? 俺が刀哉って人に?」

 「そうだ。そのボケ方や、反応が特に似ている」


 ……意識したつもりはなかったが、やはりわかるのだろうか。

 拓磨は歩速を少し落とす。速度を合わせて隣を歩くことに、特に意識は必要ない。


 「でも俺は、その刀哉って人じゃないよ。前にも言ったけどね。多分、雰囲気が似てるからそう思えるんでしょ」

 「そうか?」


 そうだとも、というのは嘘だ。俺は刀哉そのものなんだから、姿を変えていても、刀哉という人間の本質は変わらない。


 そして拓磨もまた、俺の言葉を聞き流すだけだ。口を動かし続ける。

 否定語を重ねて、俺に言う。

 

 「……だが、イブ。お前はな……」


 俺の隣を歩く拓磨は、全てお見通しだという目で、俺を見た。


 「────誤魔化し方も、同じだぞ」

 「………」


 ………カマ、だろうか。それとも……確信?


 俺は自分の行動を逐一把握しているわけじゃない。今は[完全記憶]があるが、それ以前はなかった。だから、同じかどうか言われても、肯定も否定もできない。

 しかし、拓磨の目は疑いではなく、本当にただ俺の反応を待っているだけの、そんな目だった。


 俺は拓磨から視線を外した。だがそれはむしろ、答えを言っているようなものだろう。

 代わりに、後頭部に手を持っていって、掻く。


 「……ハハ、参ったなぁ」


 そんな、苦笑いと共に。

 困った時に後頭部に手を持っていくのは、俺が自覚している癖のひとつだ。


 俺の友人を名乗る拓磨は、恐らくそれも知っているだろう。俺だって拓磨の細かな癖は何となく知っているし、勿論他の奴らも。

 伊達に数年、こいつと、こいつらと付き合っている訳では無いのだ。


 拓磨が今度は足を止める。

 俺もまた、足を止めて、しっかりと向き直った。


 「イブ……もう言ってしまうが、お前はやはり────」

 

 ─────"刀哉"、なのだろう?


 確信を持った声で、拓磨は俺に言葉を放った。

 



 

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