第17話 ベタな展開

 昨日は失礼しました。例の如く……申し訳ない。


 えと、この後10時にもう一話、と言っても溜まってきたスキルの紹介というあまり面白くはない話ですが、投稿致しますので……はい。昨日と今日の分ということでございます。


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 結局ルナは白のワンピースに、それの上に羽織るカーディガンを、ミレディは俺が勧めたキャミソールと甘ロリィタの、計4着を購入。代金は金貨5枚(およそ50万円)と、中々のお値段。


 他にも買っていいのだが、2人なりに遠慮をしたのだろう。「これで十分」とのことなので、ひとまずは俺も頷いておいた。


 服屋を出て、ブラブラと道を歩く。ウィンドウショッピングというやつをしているのだ。

 

 ちなみに買った服はそのまま着ている。ミレディは慣れない服に気が気でないようだが、服自体は気に入っているのか、たまにたまに自身の服を見て顔をにやけさせている。


 メイド服は女性から見てもやはり可愛いのか。いやまぁ、実際にはさっきも言ったようにロリィタファッションなのだろうが。

 俺にはどうもメイド服というのがしっくりくる。カチューシャをつければ、まさに『メイド喫茶』に居そうな……いや、ミレディほどの幼さでメイド喫茶で働く人はまずいないだろう。


 「あ、ちょっとあそこでご飯食べていい?」

 「ん? そっか、もうそんな時間か。まぁ、たまには外食もいいか。ミレディもいい?」

 「はい、私もその、お腹減ってるので……」


 普段から宿のご飯だったりするので、そういう意味では普段から外食であるが、飲食店で食べるというのは久しぶりだ。


 ルナに手を引かれるように、そして俺が(真っ赤になった)ミレディの手を引き、指さしたお店へと入った。


 


 ◆◇◆




 「はぁ〜、なんか久しぶりにちゃんと食べたって感じ」

 「最近は簡素なものばかりだったからね」

 「でも、ミレディが思ったよりもいっぱい食べたのは面白かった」

 「ちょ、お姉ちゃん言わないで……さっきは、その、お、お腹、空いてたからぁ……」

 「ハハハ。まぁ、食べ盛りっていうのもあるだろ」

 

 うむ、こう言ってはなんだが、意外にも沢山食べていたミレディ。普通に俺より食べていたが、そこは指摘しちゃダメだろう。

 俺があまり食べなかった、ということにしておく。


 ちなみにこちらの代金は銀貨数枚(数千円)と普通。


 そうして店から出ると、時間は大体昼過ぎ。時刻を指すなら1時、2時辺りか。


 「さて、次はどうするか」

 「んー? 適当に目に付いた店に入るんで良くない?」

 「それでもいいんだけどね……」


 少しいい淀む俺へ、ルナとミレディが怪訝な顔をする。

 それに答えるように、俺は言い淀んだ原因へと目を向ける。視線の先、少しだけ人垣が割れている場所へ。


 「あれ、なんだろう……」

 「何か問題でもあったのかな?」


 つられて目を向けた2人もそれに気がついたのだろう。そちらに意識を向ければ、何だか言い争っているような声が、周囲の喧騒に紛れて聞こえてきたはずだ。


 「そんな所かな。よし、あそこ行くよ」

 「えぇ? 自分から首突っ込むの?」

 「ちょっとね。それに、少しはこういうイベントもあった方が、いいでしょ?」

 「知らないってそんなの」


 「まぁそう言わず」と俺は2人の手を引く。

 やはり、争いだろうがなんだろうが、突然起こる事態は非日常感を思わせて、気分を高揚させる……それも、この力ありきのものだが。

 2人にはすまないが、少しだけ付き合ってもらうとしよう。それに、目の前の事態が、この先自分達に関係ないことかと聞かれれば、確信を持って首を横に振ることなど出来ないのだから。


 巧みに人を避けて、2人と共に俺はその場所へと歩みを進める。

 少しだけ威圧も放ちながら進むことで、自然と周りの人が俺を避ける。楽に前まで出ることが出来た俺達は、人垣の真ん中に、対峙する2つの集団を発見する。


 「───ふぅん、なるほど」

 「え、なに?」

 

 それらが目に入ったと同時に、俺は頷いた。零した言葉を、拾ったルナが反応する。


 「いや、なんでもないよ。それにしても、片方は黒髪……てことは、勇者か」

 「え、勇者って、あの勇者ですか? 異世界から召喚されたって言う………」

 「そう、ミレディよく知ってるね。いやぁ、こんな所でお目にかかれるとは、来た甲斐があった」

 「……勇者が何言ってんだか」


 ミレディは俺の事を勇者だなんて知らない。多分、この子は俺の事を『強い』とか『凄い』としか認識してないんじゃなかろうか。

 俺が勇者だとは露ほども思っていないだろう。そういうのを疑う子じゃないし、なにより見た目が違う。


 まぁ、コロコロと見た目を変えてるから、そこに疑問を抱かれたら結論が出る可能性もあるが……良くも悪くもこの子は純粋だ。


 さて、目の前には、黒髪と茶髪の、男女二人ずつの四人組の集団。もう片方は、金髪に少し丸い身体をした、装飾の施された服を着た男。その周囲に数人の、同じような姿をした男達。


 勇者でない方は、どうやら貴族のようだ。そして、勇者4人の後ろには、小学校高学年ぐらいの子供が、まるで隠れるように居る。


 「うっわ、なんかベタって感じ」

 「まぁ、確かにね。あの子供が貴族にぶつかったとかかな」

 「なんかそんな気はする」


 テンプレといえばテンプレ。俺はどうするかなと考えつつ、とりあえずは見守ることにする。


 「────だから、この子は謝っている。それなのに金を寄越せと言うのか? たかがぶつかっただけなだろう?」

 「そのガキはマルコ様にぶつかって、そのお召し物を汚したんだ。平民風情がそんなことをして、許されるはずがない!」

 「そっちにだって不注意はあったはずよ。この子が一方的に悪いわけじゃないわ」

 「マルコ様が不注意などなさるはずがないし、平民であるだけで我々より下なのだ。当然であろう? 分かったら口を出すな」


 イケメンな茶髪勇者が硬い口調で言うと、周りの、恐らくマルコと呼ばれた丸い貴族の腰巾着のようなものなのだろう男が、傲然と返す。

 すぐにサイドテールの、凛とした雰囲気の勇者が指摘するが、それにも理不尽な理屈で返す始末。

 

 「いや、ここまで典型的っていうのも中々だな」

 「なんか、怖いです……」

 「大丈夫よ、きっと成敗してくれるわ……ご主人様が」

 「つっこまないからね。それに、まだ介入するとは決まったわけじゃない」

 「嘘よ。もう入る気満々じゃない」


 さて、どうかな。まぁ、この状況を目にした時点で、俺は間に入ることを決定していた訳だが。


 そもそも、俺は既にこの状況を理解している。この場の魔力を読み取って、数分前の出来事を分析したのだ。


 以前までならば、沢山の人がいて魔力の混在するこの場所でそんなことは出来なかっただろう。だが、現在は『過負荷の指輪』を外している。ゆえに、魔力操作はその時とは比べ物にならないほどにまでなっている。


 数分前の出来事を読み取ることなど、造作もない。


 そして、あのマルコとかいう貴族が自分からぶつかったことを俺は把握した。


 ────ようは、これはわざと起こしたことである。


 たまたまそこに、4人の勇者が遭遇し、今に至るという訳だ。

 普通なら周りの者のように、見て見ぬふりか、野次馬となるだろうが、生憎その4人は、それが出来る人間ではない。


 それにしても、やはり見に来て正解だったな。これは、俺にも関係のあることだから。


 「貴族ってのはそんな横暴も許されるのか? 俺の記憶じゃ、貴族はある程度の権力が許されている代わりに、国の繁栄や、市民の安全につくすっていう存在のはずなんだがな」

 「我々はしっかりと国の繁栄に身を尽くしているさ。こうして有害な者を粛清することでな。それを、言うに事欠いて横暴とは」

 「そんな、酷い……」


 そんな相手に、淡々と正論を言った黒髪黒目の男勇者。よくそんなことを知っているなと俺も感心するが、返ってくるのはやはり理不尽な言葉。

 長い髪の、優しそうな、美少女勇者が口に手を当てる。


 「さぁ、分かったらそのガキをこちらへと渡せ。安心しろ、命までは奪わんさ」

 「悪いが、それは出来ない相談だ」

 「ふんっ、別の世界から召喚された勇者如き〃〃が、我々貴族に歯向かうか」


 男と茶髪のイケメンが対立する。マルコという貴族は興味などないのか、さっさと終わりにしろとばかりに、手を組んでつまらなそうに見ている。


 勇者は地位自体は高いが、権力はない。実力で負けるとは思わないが、実力行使に出れば、国の方から恐らく何かしらのお咎めが来るだろう。

 相手が伯爵という立場であることを考慮すれば、それ以外のことも考えなければなるまい。


 「その勇者如きを求めたのは国なんだけどな。それはつまり、汚点になる……国の汚点は、その国に属する貴族の汚点でもあるように思えるな」

 「っ、貴様っ!」

 

 相手の言葉を使って煽った勇者は、嘲笑するかのように笑う。それに対し、とうとう男が腰に差していた剣を抜く。

 ギャリッ! と鞘と剣が擦れる音が響き、抜き身の刃物に周囲から幾つか悲鳴が上がる。


 「マルコ様、この者を斬る許可を!」

 「ラルゴ、相手は仮にも勇者だ。流石にそれは許可出来ん……が、攻撃するのは構わないぞ」


 いや性格悪いな。殺さなければいいと実質的に良いと言う。

 答えるマルコは、気だるげだ。なんだか小物という印象はない。もう少しこの腰巾着のようにイキっていて欲しいのだが。


 マルコの言葉に反応し、周囲の腰巾着達も剣を抜く。今にでもこの場で戦闘が起きそうだ。


 臨戦態勢となった貴族達に、勇者達も警戒する。剣を抜かないのは、黒髪勇者が注意したからだ。往来で剣を抜けば、不利になりかねない。


 一触即発の雰囲気。恐らく無手でも制圧はできるだろうが、どう頑張ってもその後を丸く収めることは出来ないだろう。


 しかし膠着状態は長くは続かず、痺れを切らした腰巾着の1人が駆け出した。

 それに対応しようと手を伸ばす茶髪イケメン。


 ────よし、このタイミングが丁度いいな。

 

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