第5章 幕間

夏休み


 はい、キリが悪いけど前回で5章が終わりまして、幕間です。合計4話ですので、ご了承を。

 あと、基本的に幕間は本編より会話文多めの軽い(雑とも言う)感じで書いているので、よろしくです。


──────────────────────────────


 「なぁ刀哉」

 「あん?」

 

 家でゴロゴロしていれば、ふと、遊びに来ていた樹が俺に声をかけてきた。

 仕方なく携帯から顔を上げると、樹はテレビで『大乱闘スマッシュシスターズ』、略して『スマシス』をやりながら俺に言ってきた。


 「お前夏休みの宿題終わってる?」

 「ん? あぁ終わってるけど、なんで? まさか樹終わってないのか?」

 「いんや終わってる。というか俺は宿題やら課題やらは初日の週で終わらせるタイプだから」

 「じゃあなんで聞いてきたんだよ」


 俺が聞くと、樹は少し考えてから口を開く。

 相変わらず『スマシス』はやったままだが。あ、死んだ。


 「……いや、暇ならどっか出かけようぜって思ってさ」

 「あぁ、そゆこと。でも、どっか出かけるって言ってもなぁ……」


 樹の言葉を聞いて、俺はちらりと壁にかけられたカレンダーを見る。

 

 今は学生全員が大好き夏休み期間。最後の最後で宿題が終わらないという事態を避けるために、ドリルやら漢字やらは勉強会を開いて5人とも終わりにし、自由研究は樹と共同、その他も即行で終わりにしているのだ。

 樹の方は聞かずとも終わっていたようだが、果てさてと思いつつ、今日の日付を見る。


 8月21日 火曜日。


 割と夏休み後半である。今週と来週で終わってしまうのかと思うと、少し世界がモノクロに見えてくるな。

 世界に絶望した時の見え方じゃん。気をつけよ。


 「行くったってどこに。割と限られてんだろ」

 「まぁな……でも夏休みの思い出欲しいじゃん?」

 「ま、確かに欲しいっちゃ欲しいが……俺と樹だけ?」

 「いつものメンバーでだろ普通。行くなら旅行がいいしなぁ」

 「男2人の旅行は嫌だな……」

 「だから、いつものメンバーだっつーの」


 行くなら行くで、ちょっとアイツらの予定やら宿題の進捗やらを聞かなきゃな。

 携帯から連絡用アプリ、『RAIN』を起動して、三人に送っていく。


 『多分明日か明後日辺りに樹とどっかに泊りがけで行くと思うんだが、行くか?宿題とか用事とかが問題ないなら』


 さて、すぐに既読が付くとは思わないので一旦閉じて……



 ブー! ブー! ブー!



 ……速い。携帯が3連で通知をお知らせしてるんだが。


 『本当?行く行く!夏休みどこにも行ってなかったもんね~』


 『行くわ。特に用事があったわけじゃないし、そろそろどこかに遊びに行きたいと思ってたところなのよ』

 

 『スマン、明後日なら行けるんだが。明日は先生に呼ばれて学校に行かなければいけない』


 「樹、全員行けるってよ。拓磨は明後日なら行けるってさ」

 「お、イイね。つか、拓磨は何で明日ダメなん?」

 「先生に学校にお呼ばれしてるらしい。用件は知らん」

 「……あ、この時期だとアレじゃないか?学校説明会の準備」

 

 あぁ、あの来年入ってくるかもしれない新入生への説明やらなんやら。保護者同伴。

 2年がやらなきゃいけないとか意味わからん。3年にやらせるんだよ。どうせ部活も終わってるんだしさ。

 俺、そもそも部活入ってないが


 「アレめんどそうだわ。俺校長室に放送室に会議室に生徒会室に技術室の説明」

 「いや多いな! パートナーはどうしたよ」

 「人見知りな女の子でな、リハの時めっちゃ厳しそうだったんでつい受け持ってしまった。場所が近いから出来ないことは無いんだが」

 「お人好しめ」

 「先生の準備に呼ばれる拓磨程じゃねぇよ。俺だったら適当な理由つけて断るな」

 「そう言って結局引き受けるじゃんかよお前」

 「まぁな」


 困ってる人は見過ごせない善人なんだ、俺は。

 善人は自分を善人と語らない。語ってる間はアウトな気がします。


 「行くならどこがいい?」

 「夏だし、海とか?」

 「はい今水着を想像した貴方は罰ゲームでーす」

 「してないしてない。叶恵さんの水着なんて想像してないから」

 「何気無い風に言ってるが、別に叶恵とは言ってないからな? もう手遅れか」

 「うるせぇよ」


 想うだけ想って、残念な奴だなぁ。ああいう奴には一言ズバッと告げた方がいい気がするんだが。

 例え振られても叶恵なら変に気にせずいつも通り接してくれると思うがな。とはいえ、叶恵が樹の事を好きな可能性があるかは別だが。


 「……あぁ、今更なんだが、叶恵が泳げんわ」

 「え!? ウソん!!」

 「あいつ運動音痴だからな。カナヅチだ」

 「クソ! 海の線はなしかよ……」


 諦めろ樹。叶恵は運動系は苦手なんだから。

 唯一軟体系の体操やらそっち系は得意なんだが、身体能力を生かすやつは基本無理。体の動かし方が分からんのだと。

 

 「……あぁ、でも叶恵は泳げなくても海行きたそうにするな」

 「え? マジ!?」

 「おうマジマジ。多分浮き輪を持って行くんじゃねぇの? 前に海いった時は泳げないのに楽しんでたしな」

 「そっか、じゃあ海でいいんだよな?」

 「俺は構わんが、一応聞いてみるからな」

 「おけおけ」


 再び『RAIN』を起動し、全員に海でいいかという主旨のメッセージを送る。

 そして数秒後、すぐに既読がつき、高速で送られてくる文章。


 「……問題ないってさ。叶恵も楽しみと言ってるし、海で決まりじゃないか?」

 「うしっ! んじゃ細かな予定を決めてくかね。『RAIN』そのまま繋げといて」

 「はいはい」


 

 その後少し打ち合わせのようなものをして、行くのは明後日、電車でということになった。

 宿泊場所はこういうのに慣れてそうな拓磨が取っておくということになり、明日は水着を買いに行くことになった


 「水着買いに行くのか……」

 「変なことするなよ。俺らは付き添いだかんな」

 「わーってるって。目の保養だけだって」

 「それは言えてる」


 客観的に見て美少女なのは分かっているし、水着を試着するのを見れれば目の保養に……いや、美咲が阻止しそうだな。


 「ま、俺達も買わなきゃいけないしな。樹、お前はブーメランタイプにしておけよ」

 「しねぇよ! あんなキワモノ誰が履くかっつーの! 普通にトランクスタイプを履くっつーの」


 1人ぐらいバカがブーメラン履いてきてもいいと思うんだがな。つまんねぇの。

 こう、頭脳キャラがバカっていう矛盾。しかしなぁ、バカな行動するのって樹だけなんだよなぁ。

 叶恵はあくまで天然なだけで、頭はいい方だからな。天然と頭脳が両立できるのかは知らんが。

 



 ◆◇◆

 


 

翌日。


 拓磨は学校へと向かい、俺は朝、妹に今日は出かける主旨を『RAIN』で伝える


 『悪い、今日は買い物に出かけるから、午前中は居ないぞー』

 『はーい。楽しんできてねー(´∀`*)ノシ』

 『クーファにも伝えといてくれ』

 『刀哉にぃの愛の言葉を、ちゃんと伝えておくね☆』

 『頼むから普通に伝えろ』

 『わかってる分かってるー』


 本当に分かってるのか正直不安だが、まぁここで何を言ったところで仕方あるまい。


 外用の服───普段は別に気にしないのだが、叶恵や美咲と一緒にいる時は、2人が舐められないように俺もある程度のオシャレは意識していかないといけない───を着て、バッグを片手に俺は玄関から外へと出る。

 ちなみにだが、服のコーディネーターは金光とクーファ……妹達であるので、センスに関しては問題ないと思いたい。

 

 「よっ」

 「おーっす刀哉。てか、寝癖があるぞ」

 「それは天パだ」

 「そうか」


 玄関から外に出れば、既に待っていた樹が朝の挨拶を告げてくる。

 そして指摘される髪の毛。それは天然パーマだから気にするなとね。

 今日は運悪く髪の毛のひねくれ具合が高いので、寝癖のように見えなくもない。

 緩やかなウェーブなど所詮幻想なのだ。ストレートの髪の人がたまに俺の髪の毛を見て『天然パーマが欲しい』と言うこともあるが、正直理解できない。俺からしたら真っ直ぐストレートが欲しいぜ。


 「叶恵さん達はまだか」

 「約束一時間前だしな。まぁいつもの事だろう。中入るか?」

 「じゃ、お邪魔させてもらって、『スマシス』借りるわ」

 

 そんなにやり込むんだったら一層の事買ってしまえばいいのに。


 「金がないから無理だ。俺んちは一般高校生のお小遣いなの」

 「……そうかい」


 口に出していないのにも関わらず、樹は俺の疑問になんてことないように答えた。

 ……実は樹はエスパーなんじゃないかと思った瞬間である。

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る