第58話 仲間はずれはよくなかったね



 「えいっ!」


 とても〃〃〃長いように〃〃〃〃〃思えた〃〃〃訓練を終え、お手並み拝見。そんな気持ちで陽乃ちゃんの魔法発動を見届ける。


 無詠唱で3種類の中級魔法(『光槍ホーリーランス』『氷槍アイスランス』『氷壁アイスウォール』)を2:2:1の割合で発動してみせた陽乃ちゃん。二種類の槍を、氷の壁に当てて威力のテストも兼ねていた。

 共に及第点、いや、上出来というべきだろう。

 傾向的には、雫ちゃんと御門ちゃんを足して2で割った感じか。


 無詠唱で違う魔法を4種類同時発動した御門ちゃん、詠唱破棄で同種の魔法を7つ発動した雫ちゃん、陽乃ちゃんはその中間に位置している。


 被りというのを知らないな、ホント。


 それにしても……最早、急激に成長しても感激が薄くなってきてしまった。

 そりゃ既に3人もやってますし、心のどこかで、最初から『このぐらいまでは行く』と期待してしまっているのだから、感激も薄いだろう。


 慣れというのは本当に面倒なものだと、俺は認識させられた。


 「や、やった! すっごいよトウヤさん!!」

 「うん、おめでとう」


 しかしそれも本人に限っていえば別の話で、別人のように成長した陽乃ちゃんは、その成長を実感したことで目に見えて喜んでいた。

 嬉しさが表しきれない、そんな言葉が似合うような笑みだった。


 「トウヤさんにかかれば、誰でもこんなに魔法が上手くなっちゃうんですねっ!」

 「いやいや、誰でもじゃないよ。教えてる相手が勇者だから出来るのであって、一般人には無理だと思うよ」

 「そんなことないですよ! トウヤさんにかかれば多分誰でも魔法使いになれますよ!」


 本人でもないのに断言する陽乃ちゃんに、俺はなんとも言えず曖昧な笑みを返した。

 流石に普通の人がこんなに急激に魔法が上手くなるとは思えない。勇者だからこそであって、普通の人はそこまで豊富な魔力もないし、訓練自体が難しいだろう。


 俺の、魔力を同調させて回復させる荒業も、相手の魔力の器が小さいのでは難しいところだ。例えできたとしても、回数が多くなる分、相手の疲労も沢山蓄積するだろうし。


 精神的な疲労は、今のところ回復不可能だ。だが、頑張れば出来そうなのが怖いところか。

 どうしても必要にならない限り、方法の模索はやめておこう。なんというか、今更な気もするが、魔法に頼りきりなのもどうかと思う。


 「でも、ここからは努力の領域だから、鍛錬は怠っちゃダメだよ。あくまで出来るのは、今練習した特定の魔法だけなんだから」

 「わ、分かってますよ! 怠けたりしません!」


 うーん、この動揺した感じでは説得力が無いのだが……俺は見逃すことにした。

 この先は本人次第で、俺の入る域ではないからだ。下手に干渉するよりは、近くにいる人物に任せた方がいいだろう。

 

 「……はぁ」


 本音を言えば、もう少し相手をしていたい。というか、陽乃ちゃんに付きっきりでいたい。

 だが、それではさすがに不公平であるし、何かあるのかと下手に勘繰られる。

 さっきの今でそんな真似をすれば、京極君からの信頼もどん底だろう。


 だが、この先の事を考えれば胃がキリキリと痛くなってくるのも事実……この世界は医学発達してるの? 頼むから胃薬をください。


 まぁ、そんな思いには誰も気づいてくれるわけがなく、しかしそれと同時に、俺の良心が勝手な行動を許してくれるはずもなく。


 見かけ上は普通で、しかし内心では、枷を付けられた囚人のように重い足取りで、俺は近い雫ちゃんの方に歩いていった。



 ◆◇◆




 とはいえ───

 訓練自体は終わってみれば大したことは無く、昨日一昨日と同じようにことを進めることが出来た。


 なお、魔力回復の荒業は封印しているので、あんな声やこんな声は聞いていない。さっきも言ったように、京極君に『そのつもりは無い』と言った以上、そういうことは控えていくべきだと思う。

 軽いラッキースケベは仕方ないな。そういうの、未然に防いだり感知したりは難しいからな。うん。


 クズの極みここに見参。まぁ男子高校生ですし、そういうお色事は欲しいのですよ。

 やむを得ない限り、自分から変なことはしないということで。


 そして、2人には悪いが、訓練内容は前者3人以上に変わり映えがなかったので端折らせてもらう。

 いや、会話などはあったが、現在特筆すべきものは何も無かった。普通に楽しかったけどね。

 

 ただ、レベルが上がったのか、魔力は随分と増えたようだった。今日は魔力回復をしないようにと、あまり魔力を使わせないようにしたが、それを含めてみても、昨日より明らかに多く思えた。

 まぁ、俺からすれば微々たるものかもしれないが、もちろんそんなことはおくびにも出さず、素直に褒めておいた。

 

 「……あ~、疲れたな」


 少し訓練場の椅子に座って休憩。今は入れ替わりの時間だから、恐らくそろそろ門真君達が戻ってくるはず。

 御門ちゃん達には、グラを連れてから行くように言ってあるから問題ないだろう。


 だから少し休憩。どうやら疲労は蓄積しているようで、精神的に疲れている。

 そりゃ、一昨日から働き詰めだからな。いや、その前も迷宮にこもったりなんなりでろくに休んでいない。


 そろそろ休日があってもいいと思うが、それはこの十日間を乗り越えてからだな。

 それを乗り越えるまでは、まぁこのブラック企業並の待遇に甘んじるしかないか。

 どうせ精神的な疲れは幾らでも誤魔化しがきく。


 「……ま、大丈夫、か」


 一息吐き、俺はパンっと弾かれたように立ち上がる。

 休憩しようと思ったが、少し眠くなってきた。流石にそれはダメだと思い立ち上がったのだ。


 まぁ、俺が寝ても恐らく誰かが起こすだろうし、いつ魔物が来てもおかしくないような場所で寝ていたことのある俺なら、襲われる可能性も少ない。

 だから寝てもいいのだろうが、気持ちの問題だ。


 門真君達にそんな無防備な姿を見せる訳には行かないからね。




 「あ゛~疲れたなぁ……」

 「帰ってシャワー浴びてー」

 「いや、ここにシャワーは無いでしょ」

 

 それから少しすれば、疲れた様子で門真君達が帰ってきた。それでもこの場所に来るあたり、全員が全員真面目だなと思う。

 なんだかんだいって黒澤君も真面目に取り組んでるしね。俺は彼が真面目だとわかっていたよ。


 「シャワーなら水魔法で再現できるだろ。っと、どうもトウヤさん」

 「やぁ京極君、身体を洗う時はしっかりと暗幕ブラインドをかけなきゃダメだよ?」

 「アドバイスどうもです。それにしても、眠そうな顔をしてますね」

 「ちょっと休憩してたら眠くなっちゃってね、誰か俺の眠気覚ましにならないかい?」

 

 ちょっと冗談っぽく俺は言ってみる。勿論どちらの返答もあり得ると思うが……実際はどうか。


 「トウヤさん! 私の訓練に付き合って下さいよ!」

 

 うーん、どちらでもなく無視ときたか。いやまぁこの娘はあまり話を聞かないタイプにも思えるから、意外ではないが。


 「よ、夜菜……はぁ、すみませんトウヤさん、こんなので」

 「なかなか酷い言い草だね。別に気にしてないよ。あてにされてるのは悪い気分じゃないからね」


 そう言うも、俺も少し苦笑い気味だから効果があったかどうか。


 そう言えば一昨日辺りに夜菜ちゃんに、『練習に付き合ってあげる』と言った気がする。[完全記憶]があるから"言った気がする"ではなく"言った"なのだが、まぁ細かいことは気にするまい。


 それに、彼女だけ仲間外れは良くないだろう。丁度魔法の訓練をするつもりであったし、好都合だ。


 「飛鳥さんや御門さんにもやっている訓練があるから、それをやろうか。昨日はギルドマスターに任せっきりだったし」

 「やったぜ! ありがとうございますっ!」


 さてさて、昨日教えてたギルドマスターには悪いけど、夜菜ちゃんを魔改造させてもらうとするか。半ば反則技だが、強くなるのだから文句はあるまい。

 ま、それを本当の実力と錯覚しないことも、ある意味では重要なんだけど……俺が言えたことじゃないな。

 

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