第13話 未熟さの痛感
110階層を走り抜ける。この迷宮は一階層がとても広いのにも関わらず、俺の場合迷うことなく行けてしまう。というか基本的に何も考えずに走ってたら階段に着く。
相変わらずどんな力が働いているのか気になるが、全部幸運の一言で片付けられるのがあれか。
それ以上に、幸運すぎる故か宝箱を発見する前に階段についてしまうから、今の所
今回の場合は階段ではなく
「今度のボスは誰なのか……」
百階層以下の階層はほとんど情報がなく、
俺の場合どうしてもとなったらステータスを全て鑑定してしまえば手の内は見えてくるから良いが、普通の場合はゆっくりと時間かけて対策を練ってから討伐するのだろう。
そう思うと結構ズルしてるなと思わなくもない。[鑑定]がユニークスキルである理由がわかる。
中へと入り、いつも通り閉まっていく扉を背後にして、待つ。
魔力の奔流が、中央で姿を形作る。そうして見えてきたのは、三面六臂の大男。先ほどの巨人と比べると小さいが、それでも2m後半はあるだろう。
『──────』
表現出来ない、甲高い音をあげるこいつの名は『阿修羅』。地球にも存在したが、三つの顔に六つの腕がある魔物だ。
その六つの腕には、それぞれ一つずつ曲刀のようなものが握られている。無論、体格に見合った大きいものだ。一つ一つが俺と同じぐらいの大きさはある。
というかさっきの
『──────!!』
「おっと、早速だなっ!」
見た目に似合わない速度で距離を詰めてくる阿修羅。振り下ろされる2本の曲刀を1本の剣で受ける。
重い金属音が響き渡る。体格的にどうしても俺の方が下に来るのだが、俺はタダでさえ高い【筋力】を[ステータス倍加]で引き上げているためにビクともしない。
「───チッ!」
しかし、空いていた他の腕が攻撃してきたので一旦剣を滑らせて回避。俺の居た場所をものすごいスピードで3本の曲刀が通り過ぎていく。
「流石に1本じゃきついな」
厳しいと見た俺は、呟きながら、『
二刀流なんか、上の方の階層で遊びでしか使っていなかったが、ここらで訓練するには丁度いい。
『────!!』
今度は連撃を繰り出してくる阿修羅を、俺も2本の剣で防いでいく。
その度に激しく金属音が鳴り響き、火花が散り、手数の違いに段々と後退していく。
(流石に6本の剣を2本で完全に防ぎきるのは無理があるか……)
防ぐこと自体は問題ないが、どうしても距離をとるために後ろへ後退してしまう。更に時間差で3本から攻撃されてしまうと、2本の剣では防げない部分も出てきてしまうのだ。
一本一本の速度がグレイさんよりも速い。今の俺なら余裕で避けられるのだが、それでは剣術での勝負にならない。
回避していいのなら、相手の攻撃を喰らわないようにするなど楽勝だ。
(せめてもう1本ぐらい剣が使えたら……)
二本同時に繰り出される攻撃を受け流す。真正面から受け止めてしまうと、動きを止めることになるからだ。
[真剣術]になったお陰で、俺の技術はうなぎ登りではある。受ける度に相手の剣戟が身に染みて、記憶され、体が覚える。まるで武術の達人にでもなったかのような気分だ。
それでも技術だけではどうしようもない部分は出てきてしまうのだ。
両側から迫ってきた曲刀を受け止めてしまい、そこに更にもう一本、上段から斬り下ろされる。
こうなったら……少し力任せになるが、土俵を変えるしかないか。
『────!?』
一旦左右の曲刀を跳ね除けて、上段から斬り下ろされる曲刀を裏拳で横から叩く。
逸らされた曲刀の軌道。その間にも新たな腕が襲ってくるが、それら全てを攻撃が始まる前に、剣で軌道を逸らす。
目に見えないほどの速度で相手の剣に衝撃を与えて、攻撃の機会を潰す。たとえ3本以上来ようと、それを超える速度で相手に衝撃を与えれればどうにか防げるのだ。
本当は最後まで相手の速度に合わせて戦いたかったのだが、どうも難しい。パラメーターが上がってしまうとこうやって頼り切りになってしまうのはよくないのかもしれない。
それだと、自身より強い相手と相対した時に、なす術なく負けてしまうだろう。
早急に改善すべき点ではある。魔法を使っていないというハンデはあるが、それは相手と同じ土俵で戦うための最低限の事だ。
少なくとも、同レベルでの戦いは阿修羅が勝ったと認める他ない。
「ここからは少し意地が悪いぞ?」
左手の剣は全て防御に使い、右手の剣は攻撃へと走らせる。
阿修羅はそれに対し、先程よりも更に速度を増した連撃で対応する。
普通なら腕同士が当たってしまいそうになるが、そんなことは有り得ないほどに洗練された動きの阿修羅は、まさに武の達人。これが違えば、俺ももう少し楽だったかもしれないのに。
意を決して、俺はスピードのギアを一瞬だけ一段階あげる。刹那の隙を作り出すために、6本全ての曲刀に衝撃を与える。
同時に6箇所から襲う衝撃は、さしもの阿修羅と言えど、たたらを踏まずにはいられなかったようだ。その隙をついて、[魔刀]で魔力を纏った剣で潜り抜けるように脇腹を一閃していく。
『─────!!??』
ブシュ!! と勢いよく血が吹き出し、阿修羅が甲高い悲鳴を上げる。振り返った三つの顔にはそれぞれ憤怒が浮かんでおり、俺から見える四つの目が、射殺さんばかりに俺を睨む。
(……やっぱりどうにかして同じ土俵に立てないか? 剣を後一本増やせばある程度行けると思うんだが………………あ!)
ふと、頭の中にあることが閃いた。もしそれが可能となれば、確かに同じ土俵に上がれるだろう。
「『
『
『
空中で静止した剣は、俺の背後へと来る。どうやら上手くいったらしいな。
合計3本。『
「フッ!」
俺の剣が一本増えたことを脅威と捉えたのか、阿修羅がとうとう全部の腕を使って攻撃してくる。
その攻撃を手元の剣で防ぎつつ、[多重思考]で操作した『
がしかし、やはり対応が出来ない腕が出てきた。
─────まだ、足りない。
「『
先ほどと同じ手順で、更に追加で一本取り出す。
通常の腕とは違い、可動域が全方位である『
2本の曲刀をはじき飛ばし、左側の時間差で来る2本をこちらも2本で相対しつつ、右手の剣も防御へ回す。
これでようやく、防御が可能になった。
6本に対し4本、これが現在の俺の可能な対応だろう。それ以下となると、やはり魔法や力押しの戦法となってしまう。
傍から見たら、恐らく目に見えない速度だと思う。戦っている当人である俺からしたら、酷く緩慢に見えるのだが、それは集中しきっている証拠か、実力差か。
もちろんこちらの動きもその分緩慢になる訳で。
右側2本の剣で受け流しつつ軌道を逸らし、左側一本の剣で防ぎ、最後の剣でがら空きとなった胴体へ攻撃を届かせる。
『────!!?』
浅い。だがしかし動きが鈍る原因とはなるはず。
現に、先程までと違いスピードが一段階落ちている。それでも普通の人にとっては脅威に違いないが、俺との戦闘ではそれは命取りである。
「ッ!!」
懐へと一気に入り込み、走り抜ける。今回は脇腹ではなく、腹回り全部を剣で斬るように。
スルリと俺の体が阿修羅の腕の下を通って背後へと抜け、足が止まる。それと同時、阿修羅の体が上下でわかれ、ズルリと胴体が地面へと落ちた後に下半身が倒れた。
「……次は2本で相対できるように頑張るよ」
既に聞こえないであろう阿修羅へと、俺は告げた。何となく、魔物相手と言えど1人の武人への尊敬の念を感じていたのだ。
阿修羅の体が消えていき、代わりに放出された魔力が、阿修羅の魔石と宝箱を出現させた。
「魔石は
現れた宝箱を開けてみると、中から出てきたのは、青色に光る何かの塊だった。
「これは……『オリハルコン』?」
鑑定してみたところ、それはファンタジー物質の代表格であるオリハルコンだった。
この世界でのオリハルコンは、やはり伝説級の鉱物であり、使用される素材の中では最高級に位置するものらしい。
「さてさて、これを扱える鍛冶師なんか探すのめんどそうだし……」
取り敢えず『
武器に使用するのは間違いないのだが、最高級の素材というだけあって並大抵の鍛冶師では到底扱えないのではないか。
……一層のこと自分で作ってみるかね。俺が幾らスキルを取得しやすいと言っても、やはりそれは適性のあるものだけで、専門知識が必要な鍛冶までは及ばないかもしれない。
でも持っていた方が便利なのは確かで、ここらでやってもいいのだろう。
「迷宮から帰ったらやりますか。自前武器とかカッコイイし」
聖剣を超える武器を幾つも作るとかカッコよすぎる。スキルレベルさえ上がれば出来そうな気はするんだがなぁ。
「まだ時間はあるよな。帰るのはもう少し後になるか」
体感的に現在は昼頃といったところか。さっき干し肉も食ったし、1時とかそこらだな。
まだまだ時間はあるようなので、現れた魔法陣へと乗って次の階層へ移動することにした。
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