第6話 今後の方針
ふと、今疑問に思ったことがある。
[気配遮断]のレベルが高いのと、この黒マントのお陰で、俺は周りに気付かれずに行動していた。
だが、よく良く考えればおかしいことだ。
まず"気配"とは何か。『漠然と感じられる様子』ってのを辞書で調べたことがある。なんでそんなことを調べていたのかまでは覚えてないが。
今回の場合は、"人の気配"だ。『背後から気配を感じる』『こっちの方に気配を感じる』といった事が、身に覚えはないだろうか。漠然としていて、あくまで"気がする"程度なので、そういうことなのだろう。
つまり、[気配遮断]の効果とは、その気配を少なくするために、『見つかりにくくする』というのが概要であると結びつく。
では問題だ。
貴方の目の前に人がいる。尚、貴方はなんの訓練も受けていない地球の平凡な一般人とする。
そんな貴方が、目の前の人から気配を感じることが出来るか?
答えは、否だ。普通の人は目の前に人が居る状態で気配を感じ取ろうとはしないし、気配を感じるのも難しい。
後ろにいるなという気配を感じても、前にいるなという気配を、実際に人が前にいると分かった状態で感じることは、普通ないだろう。目を瞑ったりすれば別だが、そんなことやる意味もないし、恐らくやらない。
次。例え目の前に人が居ても、気配が無いとその人が見えないのか?
これも否だろう。気配を如何に殺していようと、目の前に人がいるというのを認識するのは、気配などといった漠然なものではなく、視覚である。
つまり、本来の言葉の意味なら、[気配遮断]というスキルでは、誰かの後ろを気付かれずに通るということは出来ても『普通に門を通っても門番に咎められない』という状況を作り出すことは不可能なはずなのだ。
だが、と俺はそこで再び疑問を出す。
世の中には"影が薄い"、"存在感が無い"と言った人種が存在する。
学校に一人はいるのではないだろうか? 何故かいつの間にか後ろに回られていたり、『あれ? おまえいたのかよ!?』というような人物が。
それを俺的解釈に当てはめるならば、その人物は『気配を消すのが上手い人種』というのになる。それなら近づかれてもわからないのも納得が行く。
だが、視界に入っているにも関わらず居たのに気づかなかった、というものも存在する。
事実、隣のクラスに居る
正確には無視されたのではなく、会話に参加していることに誰も気が付かなかったのだ。
当然途中で、その瞬間だけ気配が復活したとでも言うのか誰かしらが気づくのだが、声を出していてなお気づかないというのは明らかに不自然すぎる。
勿論声量は普通に聞き取れるぐらいだ。
さぁ、ここで一つの回答に結びつく。
まず俺は基本的に佐藤一平という男を認識していた。なんせ今言ったように、『佐藤が会話に参加してるのに無視されている』『佐藤の声は普通に聞き取れるぐらいの声量だ』というのを認識できているのだ。
これは何故か。答えは俺が佐藤に意識を向けていたから。
そう、あれは高校の総合テーマで、『気配を消すにはどうしたらいいか』というようなものに取り組んでいた時だ。
あ、この時に気配について調べたのか。
と、それはともかく、そんなテーマに取り組んでいた俺からすれば、佐藤はまさに『身近な
ここまで言えばわかると思うが、俺と、佐藤を無視して会話をしていた奴らの違いとは、"佐藤に注意を向けていたか否か"というものになる。
そして、ようやく俺は[気配遮断]の謎を解くことが出来た。
つまり、このスキルは気配を遮断して、見つかりにくくするのと同時に、"周囲が俺に向ける注意を逸らす"という効果もあるのだろう。
会話中の奴らは佐藤の存在を気配が無いために気づけず、また注意を向けていなかったため、会話に参加していた佐藤の声が聞こえなかった。
それと同じように、俺が門を通るという行動に対し、門番は注意を一切向けていなかったんだ。
だからこそ、そんな馬鹿なというような行動が可能となったわけだ。
かくして[気配遮断]の原理を、納得出来る形で証明できた俺は、ルンルンと口ずさみながら王都の外へと続く門を問題なく通り抜けることに成功した。
やはり声を出していてもあまり関係ないらしい。[気配遮断]と黒マントのコンボは凄まじいな。高レベルというのもあるだろうが。
「さてと、これからどこ行くかなぁ」
門のすぐ側には王都に入ろうとする人の列が出来ていたが、それも少し離れれば無くなり、現在は周りに人がいない。
ゆっくりと考え事をするには、お
そして俺は取り敢えずどこに行くか考える。行動自体は既に決まっているのだ。他国に行く、それが現在の目標だ。
問題は、どの国に行くかというもので、俺は頭の中からこのルサイア神聖国周辺の地図を引っ張り出しつつ考える。
この国が『ルサイア神聖国』
北は魔法が有名な『マグノギアン』
西は迷宮が有名な『ヴァルンバ』
南は多種族が入り乱れる『アールレイン共和国』
そして、東は『ヴィジー』に、その奥には『深淵の森』と呼ばれる森。
はてさて、一体どうするか……。
北の国【マグノギアン】は、魔法が有名な国だ。
最新の魔道具はもちろん、どうやらこの国には、個人の魔法の属性に対する適性を見ることが出来る魔道具があるらしく、それによって魔法使い達は効率的に魔法を習得できるのだとか。
だからこその、魔法が有名な国なのだろう。
詳しいことは、このルサイアでは分からなかった。まぁ他国の情報だし、少ないのは仕方ないか。
特に、この国は情報の流通が少なそうなイメージがあるし。
西にあるのは【ヴァルンバ】。迷宮国家という二つ名があり、その名の通り国土内に数々の迷宮があり、その迷宮はなんと街中にあるらしい。
簡単に言うと、迷宮が元々あって、そこを中心に街を作った感じか。冒険者なら一度は【ヴァルンバ】に行くという暗黙の了解まであるらしいが、正直なところは不明だ。
また、有名かつ最も大きな迷宮として、【ヴァルンバ】の王都にある『
何でも世界で最初に作られた迷宮とかで、その階層数は優に3桁を超えるとか。
なお、たまに
んでもって、東の小国【ヴィジー】は、冒険者の練度こそ他国より高いものの、何か特産品があったり、名所があるわけでもない国だ。
だが、唯一の特徴として、【ヴィジー】の王族である"ソカレント家"に特殊な力が宿っているらしく、それがヴィジーの更に東にある【深淵の森】へと繋がる。
この【深淵の森】は、俺が読んだ書物の内容を俺的に要約すると、『手を出すな、死ぬぞ!』である。
まず名前からして仰々しいこの森だが、規模が半端ではない。ルサイア神聖国の国土が大体オーストラリアくらいだとしよう。【深淵の森】はロシアである。一国を凌駕するほどの面積がある。
というのも、大陸の東は【深淵の森】が広がっていて、どこまで続いているのかすらわからないらしい。よって、大陸の東側は現状では全て【深淵の森】となっていて、大陸の形すら定かではない。
そのため、一国を凌駕する、というのも実際には不明なのだが。
更に次は生態系だ。【深淵の森】の魔物は控え目に言って『魔王を軽く超える強さ』らしい。人類の災厄と言われている"魔王"を軽く超えてしまうような相手が、まるで
まぁ魔王の強さがあまりピンと来ないのだが、前にルリから貸してもらった、八百年前の勇者直筆らしい『勇者の英雄譚』の知識から言わせてもらうと、魔王のレベルは
それに加え、勇者以上のステータス上昇値と、魔王固有の『能力』を複数持ってるとかなんとか。
話を聞いてるだけで全く勝てそうにないだろ? そんな相手を
で、ここで疑問に思うだろ? そんな奴らがいる森が近くにあったら、とっくに【ヴィジー】滅んでるのでは? と。
そこで最初の"特殊な力"に繋がる。【ヴィジー】の王族は、まるでその【深淵の森】のために生まれてきたんじゃないかというユニークスキルを持っているらしい。
【深淵の森】の魔物だけにしか作用しない特殊な結界を作り出すスキルらしく、内側……この場合は森側からは一切の干渉が不可能らしい。結界を壊すことは勿論、触れることも叶わないのだとか。
代わりに王族は【ヴィジー】から離れられないらしい。一応、効果範囲はあるらしいからな。
そのため、【ヴィジー】は小国ながら、周りの国から多大な援助をしてもらっている。もちろん【ルサイア神聖国】も例外ではない。なんせ【ヴィジー】が無くなれば文明が滅ぶといっても過言ではないのだ。最大限協力するのは当たり前といえよう。
まぁ、逆に言えばそれだけで、俺が【ヴィジー】に行くのはまだまだ先になりそうだな。
さて長々と話したが次が最後。南にある【アールレイン王国】だが、ここは簡単に言うと『みんな仲良くしようぜ』という国だ。
種族に関係なく寛容で、その方針上、基本的に奴隷の売買も禁止している。更にある程度の迷宮と、結構な人口と国土や名所を誇っているため、まぁ観光に訪れたい場所だな。
とはいえ、奴隷の売買は禁止していると言ったが、別に持ち込みを禁止しているわけじゃないから、国内に奴隷がゼロ、ということは無い。
まぁそれでも十分に魅力的な場所で、そのうち行ってみたいと思う。
「んで結局どこに行くのか……」
ここまで頭で反芻して、俺は再度思考を走らせる。
レベル上げなら迷宮がある【ヴァルンバ】だが、魔法で有名な【マグノギアン】も気になる。だがゆるさを求めるなら【アールレイン王国】だろうな。【ヴィジー】は今のところは無し。
これは、中々難しい選択だな。
ふむ……だがやはり力はあった方が色々と対処しやすいから、まずは西の迷宮国家【ヴァルンバ】へと行きますか。
「そうと決まれば有言実行か。いざ、ヴァルンバへと出陣だってな」
俺はそう言って意気揚々と歩み出す。
……って、西ってどっちだっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます