#08-08: あなたが幸せでも、私は哀しいんだ!

 突如として戦闘が始まった。私とアルマを無視するように、ヴェーラと運命を共にする歌姫セイレーンたちがレオンたちの方へと突撃していく。その中にはクララ先輩とテレサ先輩の駆る軽巡洋艦、ウェズンとクー・シーの姿もあった。


「待って、いかないで!」


 私の声は届かない。彼女らの内側に響かない。ヴェーラの圧倒的なの前に、防波堤に砕かれる波のようにもろくもついえていく。


 ヴン——そんな音と共に、私の意識がヴェーラの内側に引きずり込まれた……ような気がした。


 そこにはアルマが独り立っていて、泣きじゃくっていた。私は駆け寄ってその華奢な身体を抱きしめる。それしかできなかった。


「ははは、泣くなよ、アルマ。幸せだよ、わたしは。きみたちには伝わった」


 ヴェーラが、いた。昔のままの美しすぎる白金の髪プラチナブロンドと、整いすぎるほどに整った顔のヴェーラだった。ヴェーラは一瞬私たちから目を逸らし、どこか遠くへ小さく手を振った。その時に見せた安堵のような微笑みを、私は生涯忘れられないだろうと思った。


「さぁ! わたしはきみたちの未来のためにここにいる! わたしを、撃て!」


 ばちっと頭の中で何かがスパークした。その瞬間、私の意識は暗いコア連結室へと戻っている。不思議なことに、私は私を見下ろしていた。


 が言う。


「セイレネス発動アトラクト・モード・白銀の女神レウコテア!」


 何を言っているの、私……!?


 私の視界が再び上空に戻った。


「え? え? なに……?」


 制海掃討駆逐艦アキレウスが変形していた。艦首に突き出た砲身にエネルギーが集まっている。その筒先は、セイレーンEM-AZを捕らえていた。並走するパトロクロスも同じだった。


「やめて! ヴェーラが死んじゃう! だめ、やめて!」

『止まらない……なにこれ……』


 アルマの呆然とした声も聞こえてくる。


 二隻の駆逐艦は水滴が融合するかのようにして、一つの輝きへと融合した。目の前には薄緑色の光を纏うセイレーンEM-AZの巨体がある。


「やめて! やめて! お願いだから!」

『止まれよぉぉぉぉぉ!』


 私たちの叫びは、この上なく虚しかった。


 セイレーンEM-AZのオーロラのような。その直後。


 セイレーンEM-AZは爆炎を上げていた。


『アルマ、マリオン、よくやった』

「ヴェーラ・グリエール! 脱出を!」


 生きてた。そのことに私は歓喜した。しかし――。


『もういいだろ。わたしはすっかり疲れ果ててしまったんだ』

「まだだめです! あなたにはがあるんです! あなたの理想を叶える方法はきっと――」

、か。本音が出たな、マリー』

「えっ……?」

『冗談だよ。さて、そろそろベッキーの所へ行くよ。幸せだったんだな、わたしは』


 うそ。うそ。うそ!


 私は必死で手を伸ばす。だが、弾き返される。それはヴェーラによる明確な拒否の意思表示だった。


 私は絶望と共にその想いを受け容れた。この気持ちを、どう表現したら良いのか。私にはわからない。

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