#07-02: 憧れのあなたと、もっと話をしたいと思っていました

 私たち第二艦隊は否応なしに統合首都の港から出撃させられていた。誰も彼も状況をよく理解できていない。レスコ中佐を始めとする先輩V級たちも何も教えてくれなかったし……どうやら私とレオンは蚊帳かやの外に置かれているようだった。疎外感というか、なんというか、とにかく居心地の悪いなにかを、私は覚えていた。でも私は今やアーメリング提督を除けば最強の戦力。ぼんやりと見ているわけにはいかない立場だった。それは、理解できている。


 その時、メインスクリーンの中にいたアーメリング提督が私を呼んだ。


『シン・ブラック上級少尉』

「は、はい!」

『イズーが何でこんなことをしでかしたのか。それは考えないようにしましょう。勝てば訊けることです』


 それはそうなんだろうけれど。でも、私は――。


『イズーは歌姫セイレーンたちに本当に慕われています。今、彼女の下にいる子たちは、誰一人として離反することはないでしょう。つまり、私たちはまず、その子たちから討たねばなりません』


 クララ先輩、テレサ先輩もいる。クワイアたちも数多い。


『本来ならば、それはエディタたちの役目でしょう。ですが、今回は。今回に限っては……私たちでやりましょう』

「私たちで……」


 タワー・オブ・バベル……私の意識の中にあの映像とが蘇る。あれを使えばクララ先輩やテレサ先輩は無事では済まない。C級歌姫クワイアたちなど言わずもがなだ。私はアレか、アレ以上の殺戮をすることになるのか。私は少なからず混乱している。だから――。


「なぜ自分が」


 そんなことを口にしていた。逃げ腰と言われようとも仕方ない。


『なぜあなたが。それはね、マリオン。あなたがソリストだからです。そして、あなたが次世代の歌姫たちを率いることになるからです』

「しかしそれは……あまりにも――」

『あなたの苦悩は理解できる。それはね、私たちがずっと味わってきた苦さ。でも、私たちがやらなければ、私たちに従ってついてきてくれている歌姫たちは、少なからず死ぬ。死ぬことになる。に犠牲をいておいて、あなたはその責任や悪夢から逃れられると思いますか?』

「それは……」


 できない。でも、やったとしたって、私は……。


『あなたが歌えば。あなたの歌があれば、イズー以外の子たちはあっさりと沈む。そうすればエディタたちはアーシュオンの、本来の敵に意識を向けられる。彼らアーシュオンの艦隊は、明確にして明白な敵です。あの子たちにをさせてはならないのです。咎人とがびとは――』

「提督と私だけに留めておけと……いうことですか」


 私が唾を飲みこむ間に、アーメリング提督ははっきりとうなずいた。


『私はイズーと一騎打ちをすることになるでしょう。あなたは血の十字架を背負う。最悪の事態に陥ったとしても、あとのことはマリアが。大丈夫です』

「しかし、提督は、私は……!」

『迷わずに』


 提督は静かに言った。私の胸の内側が熱くぎらつくもので占められていく。


『迷っても後悔は大きくなるだけ。しかしね、イズーたちは覚悟を決めているのです。あなたに討たれることも理解しているでしょうね。しかし、あなたが迷えば。あなたが迷ってしまったなら、あの子たちは全力で襲ってくるでしょう。そうなれば、多くのが死にます。躊躇ためらえば、あなたは殺しという汚名すら着せられることになるのです』


 私は唇を噛んだ。切れても良いと思った。


『つらいとは思います。理解しています、マリー。しかしね、これが歌姫セイレーンの頂点に立つ者の役割。そして同時に、責任でもあるのです』

「しかし、イザベラ・ネーミア提督は、こんなことを望んだのでしょうか、本当に」


 私の問いに、アーメリング提督は悄然しょうぜんたる表情を見せた。


『イズーはね……目的のための手段を選べなかった』

「かばうのですか、反乱の事実を……」

『いいえ』


 アーメリング提督は静かに首を振る。


『事実を述べているだけです。私は』

「事実……」


 単語の一つ一つが私の胃のあたりを抉っていく。心が少しずつ冷めていくのを感じる。私は自分のつま先を睨みつける。拳が痛いほど握り締められている。


『マリー、私はあなたに謝らなければならないのです。こんな未来しか遺せなくて。……ごめんなさい。私たちと同じ痛みを繰り返させてしまうことになって、ほんとうに――』

「いいんです、提督」


 私はたまらず遮った。だってたぶん、これ以上聞いてもつらくなるだけだから。お互いに苦しくなるだけだから。それに私にだって自分の役割は理解できている。ただ、納得できていないだけだ。


「私は、逃げません」

『マリー……』

「私も軍人です、これでも。もう軍人なのです。守るべきは国家。守るべきは未来。は理解しているつもりです」

『そう……』

「私は――」

『甘えてしまって、ごめんなさい、マリー』


 提督は静かに頭を下げた。


「ただ、提督とはもっとお話をしたいと思います。軍人としても、というのは置いておいて、単に私の憧れの人として。もっとお話をしたいんです。ですから」

『そうね』


 ようやくアーメリング提督は表情を緩めた。


『帰ったら、たくさんお話をしましょう、マリー』

「はい!」


 敬礼した私は、全てを振り切っていた。と、思う。思いたい。

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