施設の内情
エルフ族の戦力として最も考えるべきは、その特殊な魔法による援護や支援、何より限られた範囲と質量を別の場所へ転移させられるという能力。これが一行の脱出の鍵を握ると思っていいだろう。
理想を言えば、施設の機能を停止させられるポイントに的確に爆弾を仕掛け、そのまま気づかれることもなく脱出し起爆する。これが成せれば最善だが、実際に施設の見える場所にやって来ると、その内部に多くの生物反応がある事が分かった。
ここにいる者全てが研究者やその関係者であるかは分からないが、誰にも気づかれる事なく全てを成し遂げるのは至難の技になるだろう。
隠密を行う際、一行の中で最も光る能力を挙げるとするならば、それはシンの影を操るアサシンのスキルだろう。転移とは違うものの、壁や床を透過するように移動できる能力は、入り組んだ室内を誰にも気づかれる事なく進むにはもってこいの能力と言える。
その上、足音を消したり獣の力を得たことで自身の発する気配すらコントロール出来る様になったことで、更にその能力に拍車がかかる。
シンの能力を考慮し、彼とツクヨは施設の最深部付近を担当し、アズール達には施設の外側から攻めてもらう事を提案した。彼の能力はアズールも目にしている。それが説得力にもなり、話はスムーズに進んだ。
「さて、それじゃぁ早速中へ入るとしますか・・・」
一行は周囲に警戒しながら建物の外壁にまでやってくる。正面を避け、迂回するように茂みの中を進もうとしたところで、シン達が分かれる事なくついて来ることに気がついたアズールが、彼らに自分達とは反対の方へ向かうよう指示する。
「だが外壁は守りが堅いだろう?俺のスキルがあれば・・・」
シンはアズール達の侵入をスムーズに行うため、内部へ潜入する第一歩を影で送り出そうと考えていた。しかし、アズールはこれを拒否し、シン達に一刻も早く最深部を目指すよう言い付ける。
大事な仲間を置いてきたアズールは、すぐにでも目的を果たし仲間の元へ戻りたいといった様子だった。エイリルはその様子に不安の表情を見せつつも、潜入は自分達の力でなんとかすると言い、アズールの主張を後押しした。
それならばと、一行は最初に決めた二班に分かれ、建物の外周を左右に分かれて近づいていった。
シンとツクヨの部隊が外壁に到着すると、早速周囲を警戒しつつ、壁の向こう側に人の気配がするかどうかを確認する。最初に手を当てた部屋には幾つかの気配があったが、そのまま壁伝いに歩いていくと、気配のない部屋に行き着く。
「よし、ここから入ろう。念の為、エルフ達も確認してくれるか?」
獣の力により気配を察知する能力が上がったとはいえ、万全を期す為により鮮明に生命反応を探る事ができるエルフ族が、壁の向こう側の気配を再度確認する。その間にシンは影のスキルを用いて、先ずは中を確かめる為の一人分が通れるゲートを繋げる。
エルフ達の確認が取れたところで、術者であるシン自ら影の中に入り、壁一枚を隔てた向こう側へと向かった。恐る恐る中を覗き込むと、そこは書物庫のような場所だった。
明かりはついておらず人の姿は見当たらない。アサシンのクラスのパッシブスキルである暗視で当たりを見渡してみると、物が移動した形跡すらあまり見当たらず、近くの棚には埃が被っていた。
内部の安全を確認したシンは、外で待つツクヨとエルフ達を中へと招き入れる。
「うわっ・・・真っ暗・・・」
「我慢してくれ、明かりはつけられないんだ。その内目も慣れてくるさ」
暗視の出来ないツクヨは、まるで突然盲目になってしまったかのように、足先で物がないかを確認しながら前へ進もうとしている。対してエルフ達は、特に気にする様子もなく周囲を飛び回る。
「見えているのか・・・?」
「私達が感知できるのは、生物だけではありませんので。あぁそれと、飛び回っても私達の羽が風を起こす事もなければ、音も立ちませんので安心して下さいね」
「流石妖精!羨ましいねぇ〜」
「まぁツクヨは目を慣らしておいてくれ。俺はその間に、通路の方を調べて来るよ。人の気配がなくなったタイミングで、別の部屋へ向かおう。ここには何もなさそうだ・・・」
順調に潜入していくシン達は、その後も部屋や通路を確認しながら奥へ奥へと進んでいく。だが、建物内を巡れば巡るほど彼らの中である疑問が湧き始める。
それは、施設内にある研究の様子が彼らの想像していた悍ましいものとはかけ離れていた事だった。オルレラで行われていたような、子供を燃料とした研究やダマスクのように身体という器に、別の意思や感情を再構築する研究など、人体実験が行われたような研究や実験、資料などのその全てが見当たらない。
あるのは植物や怪我をした自然の中に生きる動物の治療や薬の開発などといった、一見なんの問題もなさそうなクリーンな研究ばかり。本当にこの施設が彼らの探していた敵の本拠地なのかと、目を疑ってしまうほどだったのだ。
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