白衣の者達

 人里離れた森の中。動物や魔物達も近付かぬ開けた草木の一角に、白衣を着た数人の人間が集まっている。一人の男が地面を撫でるように触り、土の様子を確かめるように指を何度も擦り合わせている。


 「ここでは駄目なのか?」


 「あぁ。ここは街に近過ぎる。それに我々の調査でモンスターが近寄らなくなったことをいい事に、立ち入る者が増えたそうだ」


 「立ち入る・・・?何だってこんなところに・・・」


 「食べ物や薬の素材となる植物を採りに来てるのだそうだ」


 「ふぅ〜ん・・・そんなに困ってるのかねぇ。いや、待てよ・・・巷の噂で聞かぬということは、それはギルドを通したものではないということか?」


 モンスターが蔓延るWoFの世界で、人通りの少ないような危険な場所に採取や採掘といった資源の調達を行う場合、安全を確保する為に冒険者ギルドと協力して現地の護衛や、魔物払いを行うのが普通のこと。


 だが、そのような動きは彼らのいる森には行われていない。冒険者ギルドが動いているのなら、街の子供ですらその事を知っている筈。それが無いということは、ギルドを通さぬ個人的な行いである可能性が大きい。


 またはギルドを通さずとも、モンスターを追い払えるだけの力を持った者達の仕業か。どちらにせよ少数での行動であることを、男は察していた。


 「まぁギルドは通して無いだろうねぇ。つまり、ここがモンスターの近寄らぬ場所と知った者が、他の者達に気付かれぬようこっそりと行っているようだ」


 「ほうほう・・・それは興味深いな。少し様子を見るか」


 そういって彼らはその場を離れ、暫くの間姿を見せることはなかった。彼らが何者かは分からないが、彼らが去った後もその場所にはモンスターが近寄ることはなかった。


 数日後、ガレウスとリタは採取した物を引き取ってくれているダランに呼び出される。どうやら彼らの採って来た素材から作られた薬の売れ行きが良かったようで、再度素材の調達を頼みたいのだと言う。


 「何だよ、もう売れちまったのか?まぁ金になるなら俺達は構わねぇけど・・・。なぁ?ガレウス」


 「そうだな。これなら今度こそ贅沢できそうだ!」


 二人にとっては願ってもないことだった。貧しい彼らが金になる話を断るはずがなかった。するとダランは、いつもの様子とは少し違い、申し訳なさそうに二人へ仕事の依頼を出す。


 「それでなぁ、今回は少し量が必要で。他の連中にも話して来てくれないかい?ほ、報酬は弾むからさぁ」


 「えぇ〜、そんな急ぎなのかよ?人数が増えると一人当たりの報酬が減るから嫌なんだけどなぁ〜・・・」


 「いいじゃないか、リタ。この前の蓄えはまだ十分に残ってるんだろ?今度はパーティーでも開こうぜ!」


 金を持っていても、使わなければしょうがないと考えていたガレウスは、リタのように貯蓄して買いたい物もなかった為、新たな仕事で美味い物を食べられると乗り気だった。


 「そうだよリタ、今回は臨時だからねぇ。いつもの報酬に更に上乗せしておくよ。これでどうだい?」


 「へぇ、随分と気前がいいじゃないか?そんなに景気がいいってのか・・・。まぁいいぜ?んじゃ早速、他の連中にも声かけてくるか!ガレウス、手分けしようぜ。声かけたらいつもの場所で集合な!」


 「おう!」


 「助かるよ二人とも。き、気をつけてな」


 慌ただしく準備を済ませて出掛ける二人を見送った後、それまでの騒がしさが嘘のように静かになる店内で、扉のガラス越しに映る二人の後ろ姿が見えなくなるまで見送るダラン。すると、店の奥から何者かが姿を表す。


 仲間を募ったリタとガレウスは、街のすぐ外で待ち合わせると他の者達に気付かれぬよう迂回していつもの森の中へと入っていった。


 集まったのは二人を除いて三人。みんな人間の子供だった。孤児はリタだけだったが、みんな同じく貧しい家系の出身のようで、街で暮らす他の子供達よりも薄汚れた格好をしている。


 何故ガレウスだけが獣人なのか。人間と共存しているからといって、違う種族の子供達と頻繁に遊ぶのはガレウスだけだった。そのせいで獣人の子供達から省かれてしまっていた。


 彼がそんなことを気にすることはなかったが、リタはそのことを知って孤児である自分とどこか重ねていたのだろう。他の者達以上にガレウスと共に時間を共有するようになる。


 「さぁ、さっさと集めちまおうぜ!」


 「いっいつモンスターが来るかも分からないしね・・・」


 「大丈夫だって!俺とリタが毎回ここで採ってんだから。いつもモンスターどころか動物だって近づきやしないんだから」


 口ではそう言いながらも、離れる事なく固まって採取し続ける彼らの元に、それまで全く気配の感じなかった動物が一頭だけ現れる。唯一気配を感じることのできるガレウスでさえ、その気配に気が付かなかった。


 「おっおい、何だこいつ・・・いつの間に」


 「ガレウス?気配があったら言えって言ってるだろ」


 「知ってるよ。けど俺達以外に気配なんて感じなかったんだ。嘘じゃない!」


 一見オオカミの子供のような姿をしたその獣は、彼らを警戒することもなく近づいて来る。トボトボとした足取りでやって来たその獣は、採取する彼らの輪の中に入り込む。


 「でもモンスターじゃない。ただのオオカミじゃないか?」


 「ほっホントだ。なら大丈夫だよね?」


 「あぁ、ガレウスがいれば何ともなさそうだが・・・。群れから逸れちゃったのか?」


 心配するようにリタがオオカミに近づくと、その小さな身体の内側に子供のオオカミのものとは思えぬ邪悪な気配をガレウスが察知する。

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