三つの視点
現代のオルレラに残る嘗ての研究所から、宿泊していたエディ邸へ帰ったミアは、先に戻っていたツクヨからこれまで眠ったままだったツバキが目を覚ました事を告げられる。
ガラクタの山での作業による疲労と汚れを洗い流し、夕飯を温めてくれているパウラのいる食卓へ向かい、食事を済ませる。その際、目を覚ましたツバキも一緒に食卓へ誘ったが、起きたばかりで食欲がないと、彼はこれを断った。
一通りエディ邸での用事を済ませたミアは、ツクヨの待つ彼らの宿泊部屋へと向かう。屋敷内はすっかり静まり返っており、エディや使用人も既に眠りについていたのだろうか、パウラの他に顔を見ることはなかった。
そしていよいよ、目を覚ましたツバキと、現実のオルレラで繰り返しの日々を過ごしていたミアとツクヨの三人が顔を合わせる。
「ミア、ツバキが目を覚ましたのは君が帰ってくる少し前の事だった。別にこれといって体調や様子におかしいところはなかったけど、彼も眠っている間におかしな体験をしていたようなんだ・・・」
「おかしな体験・・・?」
二人はツバキの様子を伺うように、彼の方を向いた。それに気づいたツバキが顔を上げ、眠っている間に体験していたことを彼らに語った。
そこは無人で、見た目はここと同じオルレラそっくりの街中。外では凍えるような冷たい雨が降っており、そのまま濡れてしまうと暖を取ることが出来ず凍え死んでしまいそうな程の中、ツバキはとある気配に気づき後を追う。
彼の前に現れたのは、レインコートを着た子供達だった。
「子供?なんで子供がそんなところに・・・」
「丁度、俺も二人に聞いておきたかった事があるんだ・・・。こっちで子供を見る機会はあったか?」
ツバキの言葉に、二人は記憶を遡りオルレラやその近郊の様子を思い浮かべる。しかし、いくら記憶を探ろうとも、その中に“子供“のような小さな人の姿は見えてこなかった。
意識していたことでは無いにしろ、一つの街でここまで子供に出会わないのもおかしい。そんな事にさえ気づけぬ程、二人の記憶への影響は大きかった事が窺える。
そしてツバキの話が続くにつれ、その子供がこのオルレラの街を取り巻く不思議な現象に大きく関わっている事を、ミア達は知る事となる。
三人の話をすり合わせていけばいく程、ミアとツクヨが体験した事や不可解に思ったことが紐解かれていくように繋がっていく。
先ずはミアが資料館で見た、嘗てのオルレラの記事。そこには嘗て、宇宙計画の為ロケットの発射を行う為の施設と研究所が設けられる事になったという記事があった。
それは、ツクヨがギルドの依頼で向かっていた、オルレラ近郊にある大穴に位置するところであり、その大穴には当時の施設で使われていたであろう機材や、建物の鉄骨などがまるで隠されるように埋まっていた。
極め付けは、そこにやって来ていたアークシティからの修復士、ニコラという人物にある。彼は掘り起こされた物の修復と復元の作業の為、大穴の現場から少し離れたところに拠点を構え、修復を行なっていた。
だが彼の本当の目的は、どうやら他にあるようだったのだ。
ツクヨの経験したことと、彼の所持していた布都御魂剣による影響で失うことなく持ち帰ることのできた記憶の中に、ニコラという人物が怪しく思える部分が多々見つかる。
記憶の改変が起こる耳鳴りの兆候を知っていたかのような発言と、薄れ行く意識の中倒れる彼らに向けたニコラの言葉と悠然な態度。そして目を覚ました彼らに対する態度と、何よりギルドが護衛をしていた作業員達の作業内容が大きく変わっていたのだった。
既に用は済んだかのように振る舞うニコラと、大穴を調べる名目で掘り返していた作業員達は、まるで今までの作業をなかったかのようにする為に、今度は大穴を埋め始めたのだ。
一部記憶の改変の影響から逃れられたツクヨは、それをニコラや周りの者達に悟られぬようミアの元へ持ち帰った。
一方のミアの方でも、ツバキの話と一致するとある重要なものを見つけていた。それこそ、ガラクタの山で見つけた施設の地下から更に下へと通じる、未確認のハッチの存在だった。
その先にあったものこそ、ツバキが眠りの中で彷徨った研究所の地下に隠された、オスカーの秘密のラボだったのだ。そこでミアとイクセンが開封したカプセルこそ、オスカーの眠る装置であり、中から飛び出したのは子供達を守ろうとするオスカーの行いを、邪魔しにきた者達を振り払う為に仕掛けた奥の手だった。
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