救出と変化

 最初にツバキが、白いレインコートの少女へ攻撃しようとしたモンスターの魔の手に放った攻撃。それが弾かれてしまったのは、彼の攻撃が通用しないのではなく、生半可な攻撃では通用しないとい事を示唆していたのだ。


 大きく体勢を崩したモンスターへ畳み掛ける攻撃を行いたいところではあったが、モンスターの大きな身体を吹き飛ばす程の強烈な一撃を放ったツバキのガジェット自体にも、ダメージを負ってしまっていたのだ。


 魔石に溜め込まれた魔力を一気に放出したことにより、本来の可動域を超えた力を発揮してしまい、大きなクールタイムを必要としてしまっている。


 それに加え、新たな魔石への交換を行わなければならない。全てを出し切った右腕と、モンスターの攻撃を掻い潜る為に、常人では果たせない動きを可能とした両足のガジェット分。


 つまり、こちらは攻撃を一度与えるだけでも、これだけの代償を支払わなければならないという事だ。


 そして何より、モンスターにダメージを与える事はできたが、その一撃だけで瀕死に追い込むということはなく、すでに体勢を立て直そうとしていた。


 「チッ・・・!この調子じゃぁ、こっちが先にイカレちまう。それに魔石の残量も残りすくねぇ・・・。どうする」


 彼の言うように、こちらに残された選択肢は少ない。一時的に上位の武闘家レベルの身体能力を得たツバキだが、あくまでそれはガジェットと魔石ありきの事だ。


 どちらかでも使い物にならなくなって仕舞えば、レインコートの子供達と同様にただの戦闘を行えない少年に過ぎない。多少動けたとしても、ここの子供達とそう変わらないだろう。


 そうなれば、最早打つ手はない。ガジェットの酷使と魔石の使用量をこれまで以上に見極めていかなければ、あっという間に敗北してしまう事になる。


 先の一撃は、攻撃が通用することを確かめるものと割り切り、ツバキは右腕のガジェットが回復するまでの間、モンスターの攻撃手段や弱点、その性質などを見極める為の時間に使う事にした。


 しかし、これまでよりも遥かに大きい身体をしたソウルリーパーの攻撃は、地上で戦った者達とは攻撃範囲が大きく異なり、生身で避ける事さえ難しいものが多い。


 「でかいってだけで随分な差じゃねぇかッ・・・!」


 さっきまでの激情に駆られた彼とは違い、冷静にモンスターの攻撃を必要最低限の動きで避けていく。身体が大きい分、攻撃の予備動作やタイミングが小さい個体に比べ見極めやすくなっている。


 だが、避けているだけでは結局ジリ貧になるのは変わらない。


 そこでツバキが目をつけたのは、このモンスターが最初に姿を現した場所だった。その存在に初めて気が付いたのは、白いレインコートの少女と話している時の事だった。


 モンスターの腕は、ツバキが背を向けていた人の入ったカプセルの方から伸びてきた。つまり、あの時彼の後方にあった物や空間から現れた事になる。


 しかし、施設の地下にあった更に地下へと続いた隠し通路を歩む中で、他に通じる道や部屋はなかった。ここが施設の最も深い場所であることは間違いない。


 それとも単純に、地下にまでその透過の性質を利用して降りてきただけなのだろうか。自分の立てた仮説に疑問を抱きながらも、モンスターの動きに注意しつつ、先生の入ったカプセルの方に視線を向ける。


 するとそこには、いつの間にか別の色のレインコートを着た子供が、カプセルの中から先生を助け出そうと、装置をいじっていたのだ。


 「ッ!?おいおい、それって無理にひっぺ返していいものなのか?」


 「イマノウチ・・・イマノウチ・・・!」


 どうやらその子供は、ツバキがモンスターと戦う隙を窺っていたようだった。自分達の力ではどうしようも出来ない、この大型のモンスターを抑えられる存在を彼らも待っていたのかもしれない。


 「しょうがない・・・あっちはアイツに任せて、俺はこいつを引き剥がすかッ・・・」


 子供の行動の意図と思考を察したツバキは、彼が安全に作業できるように、出来るだけモンスターを装置の方から離れた位置へと誘き出し、多少無茶をしつつも、モンスターに気付かれぬよう努めた。


 節約していた魔石を余分に使ってしまったが、無事にレインコートの子供はカプセルから先生を引っ張り出す事に成功する。


 「センセイ・・・センセイ・・・」


 しかし、その人物は子供の声に応える様子はない。死んでいるとは思えないが、何らかの方法で仮死状態になっているのか、或いはされているのか。どちらにせよ、このままでは彼が目を覚さないのは事実。


 そして変化が訪れたのは、彼らの状況だけではない。動きがあったのは、ツバキが相手をしていた大型のソウルリーパーだった。

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