新たな存在
自らの意思でフードを外して消えていった、ピンクのレインコートを着た少女。彼女の残した情報を元に、ツバキは自分のおかれている状況を打破する為には、彼らの協力が不可欠であることを、改めて思い知ることになった。
ツバキは少女の消えた後に残されたレインコートを回収し、最初に入った受付の奥の部屋にある物品を粗方調べ終えると、別の部屋へ向けて移動を開始した。
最初の部屋で見つけた研究日誌と同じように、この施設やオルレラの街について知ることのできる資料が他にもあるかも知れない。その事で、あのレインコートを着た子供達の素性や、彼らにとって何か救いになる事が分かるかもしれない。
彼えらに命を救われたツバキは、彼らのことも出来ることなら救ってやりたいと思い始めていた。
「他にも何かあるかもしれねぇしな、早いとこ調べに行かねぇと・・・」
通路に出た彼の足が止まる。明かりの無い施設内は、奥が見えないほど黒い闇に覆われており、無音というのが更に恐怖を助長している。
「なッ・・・なめんなよ・・・怖くなんかッ・・・!」
動かなくなる身体を奮い立たせるように息巻くツバキだったが、真っ暗な廊下の先を見つめていると、肌に感じる寒さとは異なる寒さを感じ、まるで吸い込まれるような引力を感じる。
気が滅入る前に次の部屋へ向かってしまおうと、足早に壁伝いに足を運び次の部屋と思われる壁の変化を指先に感じる。
するとその時、不意に何かに見られているような気配を感じ取ったツバキ。音を立てないように扉を開き、半分身を隠しながら気配を感じた廊下の奥に視線を向ける。
暫く見ていると、僅かに聞こえてくる人の呻き声のようなものと、暗闇の中から現れる薄っすらとした煙を纏う、不気味な人型のモンスターがいた。
それは下半身が無いのか見えないのか、下の方が煙に覆われており、音を立てずに施設内を彷徨っているようだった。
息を殺して動向を伺うツバキ。モンスターはこちらに気づいていないようで、ツバキとは逆側の壁沿いを移動しながらこちらに移動して来ている。
見つかると面倒な事になると、彼はそのまま部屋の奥へと入り込んでいく。唯一の救いは、僅かに呻き声が聞こえてくるということ。これによりある程度の位置を予想できる。
「何だよ・・・ありゃぁソウルリーパーだ・・・。なんでこんなところに?」
雨の降るオルレラの街には、子供達の他にもモンスターが存在している事が新たに分かった。だがこれは、嬉しい発見ではない。
ミアやツクヨのように戦闘を得意としないツバキにとって、見つかれば命の危機に関わる厄介な存在。
これまでは寒さにだけ気をつけていれば良かったが、ソウルリーパーというモンスターの存在は、更に気にしなければならないものが増えただけの、厄介で危険なものでしかない。
ツバキは万が一に備え、見つかってしまった際の抵抗手段として何か作れるものはないかと、情報の他に彼の技師としての能力を活かす発明を試みようとしていた。
幸い、先ほど見つけた研究日誌によると、この施設は別の場所から機械の部品も取り寄せているようだ。それらがまだ残っているのなら、戦闘を行えないツバキにも、モンスターの対抗手段を入手することが出来るかもしれない。
彼が入った部屋の中を、先ずはゆっくりと見渡す。最初に入った部屋とは違い、ここには書類ではなく何かの薬品を扱っていたであろう入れ物が、多く収納されておりあまり荒らされている形跡もない印象だった。
彼の得意分野である機械とは関係のない部屋。薬品も一見した限りでは、ほとんど残されてはいないようだ。
いくつか形を留めていた箱を開けてみると、研究の段階で余ったものだろうか。固形の薬品はまだそのままの形で残されている物が多かった。付随されていた薬品の効果に関するものであると思われる説明書に軽く目を通し、どうせならと幾つかの薬品を拝借していく。
「何か役に立てばいいが・・・いや、そんな事態になるのは御免だが・・・。薬のことはわかんねぇしな・・・。とっとと次いくか」
ツバキのいる部屋は隣と繋がっているようで、入ってきたところとは別に奥へと続く扉があった。音は聞こえないが、廊下にはモンスターもいる。警戒することに越したことはないと、彼は静かに扉をあけ次の部屋へと向かう。
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