街の外でのクエスト

 先にエディ邸を出て行ったミアを追うように、ツクヨも先日お世話になっていたギルドへ向かおうとしていた。使用人の人の見送りを受け玄関へと向かうと、ふと壁に掛けられた写真に目がいった。


 そこには大人の人が二人と、その間に挟まれるように小さな女の子が一人写っていた。恐らく記念日にでも撮った家族写真だろう。


 だが、この屋敷を訪れて一日経つが、写真に映る女の子にツクヨ達は一度も会っていなかった事に気がつく。少し奇妙に思ったツクヨは、出掛ける前に使用人の男に、写真に映る少女について尋ねた。


 「あの・・・この写真の女の子って?」


 「こちらの方は、ローヴェン様のご息女で名を“アン“様と申します。今はパウラ様のご実家の方に預けられていらっしゃいます」


 「なるほど、それで屋敷にいても見かけなかったんですね。ありがとうございます。では行ってきますね」


 ツクヨの抱いた疑問はすぐに解消した。彼が心配するようなことではなく、如何やら事情があって今はいないだけだった様だ。


 使用人に会釈をしてエディ邸を後にしたツクヨは、その足でオルレラのギルドへと向かう。朝食の時にエディが言っていた、ギルドマスターであるルーカスの力を借りたい事とは一体どんなことなのだろうか。


 道のりはそれ程長くない。ギルドの建物はエディ邸からも見える位置にあり、街の中でも一際目立つ外装をしている。


 その大きな建物の入り口からは、多くの人の出入りが確認できる。今日もまた、クエストを受けに来ている冒険者や街の人がいるのだろう。ツクヨもその流れに乗って、意気揚々とギルドへと赴く。


 賑やかなロビーには、様々なクラスの冒険者がおり、ツクヨ達と同じくパーティを組んでいる人達が多くいる。


 その幾つもあるパーティの中の一つに、ギルドマスターであるルーカスのいる大人数のパーティがあった。エディが言っていたこともあり、ツクヨは真っ直ぐ彼の元へと向かった。


 「おはようございます、ルーカスさん」


 「おぉ!ツクヨ君、来てくれたか」


 「はい、エディさんから話は伺っています。何かあったんですか?」


 如何やらギルド宛に、オルレラの街の近くに出来た大穴の整地依頼がきている様だった。近くにはモンスターもおり、作業を行おうにも邪魔が入って進まないのだという。


 そこで多くの人が訪れるオルレラの街のギルドに依頼が来たのだ。作業自体は重機で行うようで、その間モンスターを近づけないようにして欲しいのだという。


 「大穴?前からあったものなんですか?」


 「いや、ここ最近出来たものらしい。それも、その穴の中にはすごい量の鉄骨や機材があったらしい」


 「鉄骨・・・?昔そこに、何か建物があったと言うことですか?」


 「いや・・・そんな記憶は無いが・・・。我々にも一体どういう事なのかまだ分からないのだ。これから調査を兼ねた作業の防衛を行う。広範囲での防衛になるだろう。一人で戦闘を行う場面も多くなることが予想される。準備はしっかり整えておいてくれ」


 ツクヨはルーカスに言われた通り、ギルドのカウンターの一角にあるショップでアイテムや道具を買い足す。そしてルーカスのいるパーティの元へ戻ると、全員が揃い準備が整った後に、大所帯での移動が始まった。


 気さくな性格をしていたツクヨは、目的地に着くまでの間に様々な冒険者達から話を聞いていた。何処から来たのか、何処を目指しているのか。それに、オルレラの街での事や、これから向かう突然出来たという大穴についても聞いてみた。


 しかし、目新しい情報はなく、新しく聞けたことと言えばオルレラの街周辺の国や都市などの、名前や特徴の情報くらいなものだった。


 再び妙に思ったのは、大穴について誰も知らなかったことや、穴にあると言う鉄骨や機材が何に使われていたのか、嘗てそこに何かあったかなど、その一切の情報がなかった事だった。


 そうこうしている内に、一行は目的の場所へと到着する。現場は話に聞いていた以上に、広範囲にわたる大穴で多く古びた鉄骨などが散乱している、放っておくには危険な場所だった。


 他の参加者達もツクヨと同じことを思っていたのだろう。現場に集まった冒険者達は、目の前に広がる光景にざわついていた。


 「これは・・・ちょっと想像していた以上だな・・・」


 一行がその光景に驚いていると、それを待っていたかのように、大穴の隙間や上空にモンスターがちらほらと集まり出して来る。


 「さて、まずは露払いだ!みんな!力を貸してくれッ!」


 ルーカスの号令で、ギルドに集まった冒険者達は一斉に攻撃を始める。空を飛んでいるモンスターには弓矢や銃、魔法といった遠距離攻撃を得意とするクラスの冒険者達が攻撃を開始し、地上では穴から現れたモンスター達を近距離クラスの冒険者達が相手にする。


 空には羽を持つ小型のドラゴンや鳥類のモンスターがおり、穴から現れたのはアンデッド系のモンスター達だった。


 「スケルトン!?何故穴から人型のモンスターが・・・?」


 「考えるのは後にした方がいいぜ?兄ちゃん。俺達は討伐したモンスターの数で報酬が変わるんだ。うかうかしてっと、一体も倒せずに終わっちまうぞ?」


 考え事をしていたツクヨに、近くにいた冒険者の男が発破をかける。男の言う通り、報酬が欲しいのなら誰よりも多くモンスターを倒す必要がある。それに、相手の様子を見る限り、上空も地上も苦戦している様子はない。


 この分だと、思ってる以上に早く討伐が終わってしまいそうだった。


 「まぁ、作業は暗くなるまでの間だ。時間はたっぷりある。増援も呼んであるから、無理に戦わずに後半へ温存っしておくのも有りだろう」


 「ふふ、手ぶらで帰ったらエディさんに申し訳が立ちませんよ。折角来たんだし、稼がせて貰いますよ!」


 ギルドマスターのルーカスにも煽られ、ツクヨも考えるのをやめて今は請け負った任務に集中することにした。

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