知恵による生存本能

 彼らが会場へ到着していた頃、シンと別れ峰闇らの元へ急いでいたMAROは、会場を目指し建物内を進んでいた彼らと行き違いになってしまっていた。


 「あ・・・あれ?みんな何処へ・・・?」


 上空から周囲を見渡しても、それまで彼らがいた場所とその周りには、彼らの姿はない。代わりに目につくのは、友紀のステージから溢れんばかりに現れたモンスター達だった。


 何気ない日常の光景に、食に飢えた獣のようなモンスターがあちらこちらへ蔓延り、赤レンガ倉庫周辺にいる覚醒したWoFユーザーを探し回っているようだった。


 シンがプレジャーフォレストで体験したように、人の多く集まる場所にはそれなりに覚醒者も集まってくる。


 もしこんなところでモンスター達に襲われてしまえば、戦闘の仕方や現実世界での先頭に慣れていない者は、初めのマキナのように何も出来ずに襲われてしまう。


 彼ら親衛隊にとっても、少しでも戦える者達との関係を築いたり、連絡を取りたいと思っていた。それを根絶やしにされてしまっては元も子もない。


 「あっちには峰闇がいんだ、何か策があってのことだろう・・・。なら俺は、みんなが少しでも動きやすくなるように、盛大に戦闘をかまして注意を逸らしてやるッ!」


 MAROは懐から取り出した紙を、紙吹雪のように上空から盛大に撒き散らす。そして両手を合わせて呪文のようなものを唱えると、散らばった紙はたちまち姿を変える。


 周囲に蔓延るモンスターと同じ四足獣のものから、二足獣や鳥型、人型にオーガ種のようなやや大型のものまで。その種類は様々で、それぞれ地上に降り立つと、モンスター達との戦闘を始めた。


 戦火に引かれてか、建物の中からもモンスター達が姿を現し、戦闘に参加するように集まり出す。


 「釣れた釣れた!やっぱり最初の龍や巨人みたいに、賢くはないようだな。これなら俺の式神でもいい勝負が出来そうだ・・・」


 彼の狙い通り、モンスター達が炙り出されるように集まり出したことで、知らないうち峰闇達の道を切り開いていた。


 だが、肝心の本人は上空でいくら探そうと彼らを見つけることは出来ず、遂には峰闇へ連絡を取ろうとする。


 しかしそこで彼の脳裏に過ったのは、イルという男のデータ化のことだった。もしあの男が強かで策を巡らせるような者だった場合、彼ら覚醒者の連絡手段を検知する何らかのトラップを仕掛けている可能性があるのではないかということだった。


 現にイルは、すぐに自ら会場を襲撃するような事をせず、モンスターを送り込み敵対者の戦力を測るような行動をとってきた。


 そして極め付けは、あの男にしか出来ぬ特異な移動手段、データ化という聞いたことも見たこともない能力を隠していた。


 シンや蒼空、天臣らを含め彼らの知り得ない知識を有していることからも、他にどんな奥の手を隠しているかすら想像できない。


 余程のピンチでない限り、連絡を取るのは控えた方がいいのかもしれない。そう考えたMAROは、余計なことをして仲間や協力者達の足を引っ張るくらいなら、今自分に出来る事をするべきだと、峰闇らと合流することを諦め、もっと多くの式神を地上へと放ち、モンスターの注意を逸らすことに尽力した。


 MAROの式神の数は、イルの作り出した門から現れたモンスターの数には劣っていたものの、質ではやや有利といった戦況だった。


 野生のモンスターのように連携の取れないものに対し、式神達は高度ではないものの互いに支援し合ったり、協力する行動で数という力に争っていた。


 だが同時に、数が減り始めた戦場でとある現象が見られるようになった。それは、一部の個体が式神を凌駕しているというものだった。


 それは戦いが始まったばかりの戦場には見られず、しばらく経ってモンスターの数が減少し始めると起こる、逆転現象だった。


 「やはり連戦は厳しいか・・・!持ち堪えられる時間にも限りがある。それに、俺自身の魔力にも限度が・・・」


 MAROの読みは正しかった。確かに一体で複数のモンスターを相手にする式神の消費が激しく、最初は圧倒していても次第に失速していき、残り少ないところで倒されるという戦闘が目立つようになる。


 直に彼が戦闘に参加すれば、戦況を変えることもできるだろう。しかし、不安要素の原因を解明しないまま前線へ赴くのは、自ら死地に飛び込んでいくようなもの。


 まずはその現象の謎について、もう少し観察し見極める必要があると判断。丁度数の減り始めた戦場を見つけ、その戦場を集中して観察してみると、モンスターの群れの中で、とある不自然な動きを見つけた。


 MAROの差し向けた式神と戦う中で、とある個体が倒れたモンスターを引き摺り群れの中へ消えていく。暫くすると、先ほど姿を消したモンスターが口の周りを血に染めて戻って来ていたのだ。


 おかしな行動をとる個体に注目していると、そのモンスターは群れの中で瀕死のモンスターを食らっていたのだ。


 どこで得た知識なのか、その個体は恐らくモンスターやWoFのユーザーを食べることで、新たな力を得られるということを知っているのだろう。それが他の戦場でも同じように行われていた。


 要するに、傷ついた同胞にトドメを刺すことで、レベルアップを図っているのだ。そして力をつけた個体によって式神が倒されていたのだ。


 「野郎ッ・・・!共食いしてやがったのか!」


 野に放たれたモンスターに式神をぶつけることで注意を逸らしていたMAROだったが、一部の個体はそれを利用してレベルアップをし、強力な力を得ようと明らかに普通のモンスターでは見られない行動をとっていた。

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