分断と引き剥がし

 最も攻撃の通りやすい部位である眼球。ほぼ全ての生物の弱点と言っても過言ではないだろう。それがこれだけ大きければ、スナイパーやアーチャーなど命中率に優れたクラスでなくても、当てるのは容易だった。


 ただ、巨人にとってマキナの銃から放たれた銃弾など、目に入ったゴミ程度にしかならないのか、然程痛がる様子もなく、僅かに瞼を震わせる程度に収まった。


 しかし、彼らにとったの狙いは寧ろこれからにあった。にぃなの光もマキナの弱点付与も、全てはシンの攻撃へ繋げる為の準備に過ぎなかった。


 シンはアサシンのパッシブスキルによる、弱点部位の強調表示を確認し狙いを定める。そして、巨人の手から離れその眼球へと飛び掛かる。


 勢いそのままに、空中で体勢を変えたシンは両手に短剣を握り、着地と同時に十字の斬撃で、水の上に敷かれたシートのようにややブヨブヨとした潤いの残る眼球を斬りつける。


 ただでさえ、皮膚よりも直にダメージを入れやすい部位である上に、弱点まで付与されているのだ。如何に巨人にとって小さき人間の攻撃であっても、驚きや痛みによる反応が表れた。


 すぐに力強く閉まる巨人の瞼。シンは巻き込まれぬよう、すぐさま巨人の身体にかかる影の中へと飛び込み、姿を消した。


 巨人は片手で目を押さえながら、フラフラとしながら払うように何度も反対の腕を振るい暴れる。


 体勢を整えようと踏ん張る足が地面を踏みしめる度、人間の敷いたコンクリートの大地を砕き、大きな揺れを起こす。無作為に振り回す腕は、誰に当たる訳でもなかったが、にぃなやマキナの方に振われると、台風のような暴風が巻き起こった。


 「ひぃぃぃ〜ッ!かえって凶暴化しちゃったんじゃないんすか!?」


 「口開いてると舌噛むよッ!?」


 どこに足を振り下ろすかも分からなくなった今、二人はなるべく距離を取ろうと駆けていく。


 影の中を移動し、巨人の身体を足の方へ向かって伝って行ったシンは、地面についたタイミングで影の中から飛び出すと、にぃな達と同じく一旦様子を見るために距離を取る。


 その頃、龍を退けた蒼空達も回復を終え、再び一号館の方へと移動を開始していた。そこには、それまで一号館に張り付いていた巨人がやや離れた位置へ移動しており、何やら暴れ回っている様子が飛び込んできた。


 「なっ何だ!?一体何が起きてやがる?」


 「シン君達の姿がない・・・。あれは恐らく僕の仲間の仕業だね」


 MAROの鳥型の式神に乗った蒼空は、一号館の屋上と周辺を見渡し、ついさっきまで一緒にいた筈のシン達がいないことに気づく。


 「彼らがサイクロプスの方を引き剥がしてくれてる内に、僕らはあのでっかい龍を何とかしよう!」


 龍は依然として雷を身に纏っており、接近するには何か別の手段を考えなければならない。先程の無茶な突撃はもう出来ない。


 蒼空達もシン達のように、何とかして龍を会場から引き離せないかと考えていた。だが、こちらはサイクロプスとは違い、見るからに物理タイプというよりは、雷や風を用いた謂わば魔法タイプ。


 不用意に近づくのは危険だった。だがこちらにも、遠距離で戦える上に戦力を増やせる者がいる。恐らく戦闘の基盤になるのは、式神を使うMAROになるだろう。接近しなければ能力を発揮できない蒼空と、攻撃に自身の受けたダメージや自傷を伴う峰闇では、探りを入れる余裕はない。


 「あの雷、何とかならないか?」


 「封印の結界を展開してみます。蒼空さんと峰闇にも、もう一度個人用の式神を用意するから、離れて様子を見て下さい!」


 MAROは左右に式神を出現させると、二人ともそれまで乗っていた大きな鳥の式神から移り、言われた通り彼の元から離れ封印の結界が張られるのを見守ることにした。


 「頼んだぜ、MARO。頼りにしてっからよ・・・」


 「何言ってんの。こっちの攻撃は峰闇、お前に掛かってるんだからな?」


 互いに発破をかけた二人は、それぞれの役割を果たさんと動き出す。蒼空はそんな二人のやりとりを見て、自身の気を引き締める。アタッカータイプではない蒼空も、攻撃は峰闇に頼らざるを得ない。


 会場に集まったWoFのユーザー達は二手に分かれ、それぞれの巨獣を各個撃破しに掛かる。彼らの話では、今回の襲撃は異例の事態となっているようだ。


 何故今回に限って、これ程までの大型モンスターが二体もやって来たのか。連携するくらいの知性を持ち合わせているとはいえ、些か不自然でもあった。

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