対サイクロプス
巨人は三叉の槍を手にし、友紀の歌うステージ目掛けてそれを投げはなった。アサシンの投擲スキルのように、大きな槍が空を切り会場に迫る。
すると、会場を守るように大きな盾が出現する。そう、会場には彼らの仲間である親衛隊の一人、ケイルが守りを固めていたのだ。
「ケイルだ!よかった、無事だったんだな!?」
「アイツの守りは強力だ。相手が如何に大かろうが、そう簡単には崩されない・・・」
「それ故に、彼はステージ付近から動けない。あくまで戦闘を行うのは僕らになるね」
避難していた蒼空達が、赤レンガ倉庫の二号館の方へ到着し、手持ちのアイテムを用いて傷の治療と、消費した魔力の補充を始める。
その間にも、一号館の方では巨獣達による攻撃がなされていた。
弾かれた槍は宙を舞い、上空へ回転しながら打ち上がる。巨人はそれを手にしようと飛び上がる姿勢に入る。
しかし、巨人は突如バランスを崩し地面に膝をついた。整備された地表が砕け、まるで大岩が落ちてきたかのような穴が開く。
巨人の足には、周囲から伸びている黒い影が縄のように巻き付いていた。
「上空のモンスターは蒼空達に任せよう。俺達にアレを引き摺り落とす手段はない。ならば・・・」
「私達が相手にするのは巨人の方だね!」
「でもこんな巨体に、俺達の攻撃が通用するんですかねぇ!?」
地上には、蒼空達が一号館の外壁を駆け上がって行った際に、別ルートで移動を始めていたシン達がいた。彼らは赤レンガ倉庫内から外に出ると、地上から巨人の動きを止めていた。
だが、シンの影による拘束は、巨人の動きを邪魔することは出来ても縛り付けておくことは出来なかった。
まるで、足に絡まった蔓を引き千切るように影を振り解くと、巨人は地上組の方を振り向き標的を彼らへと移した。
「よし、狙い通りだ。あんなもの二体も同時に相手には出来ないからな」
彼らは巨人にちょっかいを出すことでヘイトを稼ぎ、上空の龍との分断を図っていたのだった。そして狙い通り、巨人は目的の邪魔をするシン達を先に排除せんと、彼らの方へ動き出す。
「どどどッどうするんですか!?あんなでかいの!?本当に俺達だけで何とか出来ますかねぇ!?」
「大丈夫、大型のモンスターとの戦闘はWoFの中で何度か経験してる」
「でもそれって、WoFでの話だよね!?私ないよ?レイドとかの経験!」
「直接攻撃をするのは俺がやるから、二人は援護を頼むよ」
そう言ってシンは、向かってくる巨人へ、一人立ち向かっていった。
にぃなとマキナには、事前に幾つかの指示を出していた。細かな内容やタイミングはメッセージ機能を使い連絡を取り合うこととなる。大型のモンスターとの戦闘では、声による合図はかき消されてしまう場合が多い。
その点、メッセージ機能ならば任意のタイミングで内容を確認できる他、もし相手に知性があった場合、作戦の内容や合図のタイミングを気取られることなく遂行できる。
ただそれにより、シンとにぃなが組織の外部の人間とやり取りをしたというログが残ってしまうことになる。彼を危険に晒してしまう可能性もあったが、今は四の五の言っていられる状況ではない。
今、何も出来ずに死ぬより遥かにマシだと、マキナもそれを承諾。それに彼も、この一件が済んだらこれで終わりというの、不安だったのだろう。同じ境遇の仲間達がいるのなら、そこに身を寄せたいと思うのは自然なことだった。
巨人は素早い足で向かってくるシンに狙いを定め、拳を地面へ向けて振り抜く。シンはそれを身軽な動きで避け、巨人の腕に飛び乗ると一気に顔の方へと駆け上がっていく。
腕に感じる気配に、巨人は反対の手で宛ら身体に登ってきた虫を払うかのように、シンの道を断とうとする。
だがそこで、彼らの目論みが動き出した。シンに気を取られている内に、巨人との距離を縮めていたにぃなは、魔法の射程距離内に入ると、巨人の眼前に強烈な光を放つ魔法を撃つ。
その魔法に攻撃の効果はない。所謂一種の目眩しのようなものだった。しかし、自身の腕を駆け上る小さなものに焦点を合わせていたせいか、突如目の前で起こった強烈なフラッシュに、思わず攻撃を中断し、目を覆うように手で光との間に遮蔽物を作る。
巨人は気づいていなかったが、この間にシンは巨人のまさに目の前にまで近づいていた。
彼は巨人の払い除けようとする反対の手へ素早く移動すると、にぃなの放った光に乗じ巨人自らシンを眼球の元へと運んでいたのだ。
光の裏側にいるシンの元には、巨人の手によって出来た濃厚な影が作り出されている。
一方、地上にいたマキナは巨人の後方へ回り込み、にぃなの魔法による光で伸びる巨人の影に向かって銃を構える。
「この“影“を撃ちゃぁいいんですよね・・・!」
巨人の影の中に、一際色濃く地面すら伺えないほどに黒い、底なしの穴のような部分が現れる。マキナが事前にシンから知らされていたこと。それは巨人の背後に回り込み、攻撃せずに中距離くらいの距離感をキープすること。
そして、にぃなの光を合図に生み出される影の澱みの中へ、対象に弱点を付与する“ウィーク弾“を撃ち込むということだったのだ。
彼はシンに言われた通り、影の中にある澱みの中へ銃弾を撃ち込む。すると、影は銃弾を飲み込み、シンのいる巨人の手の影へと移動し、僅かに開いた巨人の眼球に命中する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます