一難去ってまた一難

 そのまま突進を避けることは容易に出来る。だが、それでは龍の身体で岡垣友紀のステージが破壊されてしまう。三人とも避けるつもりなど、甚だなかった。声を合わせるでもなく、彼らはそれぞれ動き出し、龍の突進の進路上に身を乗り出す。


 最前線は言わずもながら、巨人の攻撃からステージを守ってみせた峰闇。どれだけダメージを抱えているのかも分からない傷だらけの身体のまま、彼は位置をややズラし誰よりも早く龍と対峙する。


 「俺が下から打ち上げスキルを入れますッ!蒼空さん、援護お願いしますッ!!」


 「分かった、任せてくれ!」


 MAROの式神による最速の四足獣で、瓦礫の散らばる屋上を駆け抜ける。そいて蒼空を乗せた式神は峰闇を飛び越え、龍の前へと躍り出る。


 式神を巻き込まぬよう気を使ったのか、蒼空は式神の頭部に顔を近づけ小さく感謝の言葉を送る。直後、彼は式神の背中から飛び上がり、龍の頭上を飛び越えるような高さで飛び上がる。


 式神はまるで、何か重いものでも積んだかのようにガクッとしたに落ちると、途中でその見えない重荷がなくなり、屋上へと着地するとMAROの元へと戻っていった。


 「さて・・・。峰闇君の覚悟を見せられちゃぁ、僕も多少のリスクを冒さないとなッ!」


 そう言って、稲妻が駆け回る龍の身体へと飛び乗った蒼空の身体にも、龍の身体に走る稲妻が流れる。


 直前、蒼空は懐から取り出した小瓶を手にすると、頭上に軽く投げてそれをナイフで両断した。中に入った液体を被ると、彼の身体に龍の稲妻が流れる。


 普通なら峰闇の鎧のように黒焦げになったり、感電によるショックで死に至るものだろうが、蒼空の反応は宛ら高温の直射日光に晒されているのかというくらいで済んでいたのだ。


 彼が使ったのは、雷耐性を上げるアイテムだった。だが、あくまで耐性を上げるのみ。決して無効化できている訳ではなかった。それに加え、魔力を帯びた雷属性の雷とは違い、自然現象の雷。


 WoF内で体験する雷とは、少し仕様が違うのか思っていた以上に継続的なダメージを受けてしまっていた。


 「これはちょっと想定外だったな・・・。峰闇君・・・悪いけどチャンスは一度きりになりそうだ・・・」


 大粒の汗を流しながら、痛みに耐え強がる蒼空が龍の頭部付近に手を触れると、龍の軌道がガクッと下に落ちる。


 しかし、このままだとステージへの直撃は免れない。それどころか、この巨体がそのまま赤レンガ倉庫を食らってしまう勢いで突っ込んでいく。


 「いい角度だぜ・・・蒼空さん。あとは任せてくれよなぁッ!!」


 足場に突き刺した黒い剣の柄を力強く握る峰闇。そして足場を抉るように、全力で斬り上げ、向かってくる龍の顎に合わせる。


 タイミングはバッチリ。角度も蒼空の決死の行動により、何とか届く範囲にまで落ちてきている。


 「紫黒一閃ッ!!」


 彼の振るう剣からは、火花の代わりに紫黒の靄が噴き出す。景色を縦に両断するかのように、紫黒の衝撃波が龍の下顎へと飛んでいく。いくら斬撃をも通さぬ強固な鱗で覆われていようとも、顔までは覆いきれない。


 迫る斬撃に気づいたのか、もう避けている時間はないと悟った龍は、衝撃に備えるように目を瞑る。


 峰闇の放った斬撃は、会場に突っ込む直前の龍の下顎を突き上げ、紫黒の靄を周囲へ撒き散らす。両断するまでには至らなかったが、強烈なアッパーカットが見事に命中し、龍の突進の軌道を大きく上空へと打ち上げた。


 龍の会場への突進が阻止され、その動向を窺っていた巨人がバックアップへと動き出す。


 やっとの思いで一難を退けた三人だったが、巨獣達にとってこれらは何ら造作もない攻撃の手段の一つに過ぎなかった。


 斬撃を撃ち放った峰闇は、魔力も体力も大きく消耗し立っているのがやっとの状態に。そして峰闇の斬撃を、龍の頭上でアシストしていた蒼空は、攻撃が直撃する寸前に飛び降り、屋上へと戻ってくるも、身体に走る電流のせいで思うように身体が動かせずにいた。


 これ以上の奮闘は見込めぬと、MAROは式神を放ち仲間達を回収させると、一旦態勢を立て直すと共に、もう一体の巨獣サイクロプスの動きを見る為退避する決断を下す。


 一時的に退けた龍も、今は上空をフラフラと泳いでいるものの、いずれは復帰して戻ってくる。峰闇達の連携による強烈な一打も、動きを止めるだけの決定打にはなり得なかったのだ。


 巨人は数歩後ろへ下がると、地面から何かの武器の柄だろうか。巨人の下げた手の位置にまでみるみる伸びていき、大きな手はそれを握りしめると、一気に地面からその獲物を引き摺り出す。


 姿を現したのは、独眼の巨人と関連性の深い、三叉の槍だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る