届いた一報

 彼らを乗せたドラゴンは徐々に高度を下げ、遊園地エリアの名物でもマッスルモンスター付近に広がる木々の中へと降りていった。そして少し開けたところへ降りて来ると、シンの乗った籠をゆっくりと地面に下ろし、アナベルとにぃなも着地したドラゴンの背中から降りた。


 「ご苦労さん。ゆっくり休んでおいで」


 ドラゴンの首元を優しくさすりながら、アナベルはドラゴンを刺激しないよう優しく小さな声で語りかける。首を数回叩いた後、彼女が離れるとドラゴンは土煙をあげて飛び去っていった。


 アナベルはシンの方へ近づいてくると、二人を自分の居住地という小屋へ案内した。宛らアスレチックのように組み立てられた、大木に組み込まれた木造の階段を上がっていくと、異変に目覚めた者にしか見えない、木々の匂いが香る自然豊かな景色が一望できる建築物へと入る。


 「適当に座ってぇ~」


 ウェイターのように席へ案内された二人は、これまた木々で作られた立派なソファーに腰掛ける。


 「これは貴方が・・・?」


 「いやぁ、違うよ。私に建築の才能はないんでね。ここのクラフターの人に作って貰ったんだぁ。イメージとかこだわりとかを伝えてね」


 アナベルが森に構える住居は、プレジャーフォレストに集う仲間の一人に依頼して作って貰ったのだという。自身で建築することは出来なくとも、素材を集める事に関しては、モンスターという便利なお供のおかげですぐに集まった。


 クラフターといえば、シンはWoFの世界で出会った海賊の事を思い出した。ヘンリー・エイヴリー。三大海賊団の中でも特に大規模な船団を構える彼も、クラフト系統のクラスに就いていた。


 しかし彼の場合、クラフトマスターという最上級の称号を持つ、マスターの付いたクラスであるため、無から有を作り出すことは出来なくとも、あらゆる素材の省略し、僅かな素材を別の物へと作り替えてしまうほどの能力を持つ。


 それにより彼の船は、木造の普通の海賊船からまるで近未来の戦艦かと言わんばかりの変貌を遂げた。


 エイヴリーが異常だっただけで、本来はクラフト作業というものは多くの素材が必要となる。アナベルの話で、本来の感覚を取り戻したシンは、何が目的でここに留まっているのかを彼女に尋ねる。


 「ん~・・・。目的って程のものはないよぉ。ただ、自然の中での暮らしって奴に憧れただけなんだよねぇ~」


 「そんな楽観的な・・・」


 「じゃぁ聞くけど、君は何が目的でここまで来たのかな?シン君」


 フィアーズのことはあまり公言しない方がいいのかもしれない。咄嗟にそう思ったシンは、彼女の質問に口をつぐんでしまう。チラリとにぃなの方へ視線を向けると、彼女は一瞬だけ険しい表情をした。喋らない方がいいというのは、どうやら懸命な判断だったらしい。


 「まぁ、話さなくてもいいよぉ。私もあまり他人の事情に足を突っ込みたくはないからねぇ~」


 まるで試しているかのような、相手の出方を伺う喋り方なのは彼女の癖なのだろう。思わず心を開いてしまいそうになる喋り方と、彼女の持つおっとりとした雰囲気が、相手の心と口を開かせるのかもしれない。


 「目的なんて言えるものじゃないけど、人が多く集まる場所なら、同じ境遇の人がいるんじゃないかと思ったんです」


 「ふ~ん、確かにそうだね。私も出会いを求めるなら、手っ取り早く人が多いところに行くかな?ただ、そういう所っていうのは・・・」


 アナベルが何かを言おうとした時、彼女の目が少しだけ大きく開き、何かを聞いているかのように沈黙する。その様子を見て、何事かと顔を見合わせるシンとにぃな。


 そして暫くすると、二人の元へ一通のメッセージが届く。送り主は、プレジャーフォレスト内で初めて出会ったWoFユーザーのコウからだった。


 如何やら、ホビーエリアと呼ばれる場所で新規のWoFユーザーを発見したとの事。しかし、その匂いを嗅ぎつけたのかモンスターの襲撃を受けているそうだ。


 現場付近の仲間が応戦しているが、苦戦しているのだという。遠くのエリアで持ち場を離れることが出来ない者達に変わり、協力関係でもあり自由の身でもあるシン達に、急遽救援要請が出されたのだ。


 「君達のところにも連絡がいったかい?」


 「はい。新しいユーザーが発見されて、近くで警戒にあたってた人が応戦していると・・・」


 二人が既に事態の詳細を知っていることを確認すると、アナベルは席を立ち、何やら準備を始める。そして二人に尋ねるのだった。


 「ここで明確な防衛エリアを定められていないのは、私だけなのよねぇ~。そ・れ・に。便利な足があるのも私だけ。だからこれから、ちょっと様子を見に行こうと思うんだけどぉ~・・・。君達もどう?」


 丁度リゾート地を巡ろうと思っていたシン達にとって、彼女の使役するモンスターに乗せてもらえるのなら、これほど美味い話はない。上空からであれば、周りの状況を把握しながら現場へ向かうことが出来るのも利点だった。


 「ベルさんが良いというのなら、是非!」


 にぃなは、また彼女のドラゴンに乗れるのかと思い、目を輝かせて返事を返した。無論、シンも向かう事には賛成だった。RIZAのように、まだどこにも属しておらず協力者になり得る存在は貴重だ。


 その人物がここに残ったとしても、既にプレジャーフォレストの者達とは協力関係であるため、みすみすこれを見逃す手はない。


 「よぉ~し、決まりだねぇ。今度は一人の利用の子を用意するから、しっかり付いてくるんだよぉ~?」


 「え?でも私達、ドラゴンの乗り方なんて・・・」


 WoFのゲーム内であれば、一部の所属や地域でモンスターに乗れる場所があるのだが、それはあくまでAIに制御された自動の運転や、簡易操作による移動に過ぎない。


 実際にモンスターを乗りこなすなど、テイマーのクラスでもない限り難しいのではないだろうか。急に不安な表情を浮かべる二人に対し、アナベルは二人の困った顔を見て笑っていた。


 「冗談だよ。ちゃんと私について来るように指示しておくから大丈夫。けど、無闇に手綱を引かないでね。ビックリしてどっか行っちゃうかもしれないからさぁ~」


 彼女の冗談に振りまわされるのは、最早デフォルトになっているようだ。

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