嘘か誠か

 二人の乗っていたゴンドラを離れ、ドラゴンは徐々に前へ進むために前傾姿勢へと移行した。ここまで同行していた家族に優しく手を振るにぃな。腰に回る腕の感触から彼女の動きを察して、アナベルが後ろを振り向き、彼女の微笑ましい行動に優しい笑みを浮かべる。


 「これは驚いたぁ。思いの外、君は純粋だったようだねぇ〜」


 「えっ?思いの外って如何言う意味ですか!?」


 「いやぁ、こんな状況下で男と一緒なんて、姫プでもしてるのかなって思ってぇ・・・」


 「そんな心の余裕なんて、ありませんよ!・・・もう」


 不貞腐れるにぃなに、大人の余裕を見せるアナベル。冗談を交えつつも、にぃなはアナベルの事に尋ねる。


 彼女は何故ここに居るのか、如何やって異変に巻き込まれたのか。そして、如何やって現実世界での戦い方を身につけたのか。


 アナベルは、特に隠す様子もなく彼女の質問に答えていった。だが、こうも素直に答えられると、疑い深くなっているせいか、にぃなはアナベルが本当の事を語ってくれているのか、分からなくなっていった。


 彼女曰く、プレジャーフォレストには少し前に来たらしく、モンスターに乗っていた彼女は、シン達と同様にここに拠点を構える者達による攻撃を受けたそうだった。


 アナベルが訪れる以前に、彼らはモンスターに襲撃されており、そのモンスターを従える彼女からの疑いの目は、なかなか払拭することが出来なかったのだという。


 旅をするように各地を転々としていたアナベルは、次の拠点に景観の気に入ったプレジャーフォレストと決めていたため、彼らの護衛をするという条件のもと、彼らがそれぞれ担当するエリアからやや離れた遊園地エリアに隔離される形で居座らせてもらったそうだ。


 約束通り、アナベルは上空からの偵察による仲間の救助や、異変に目覚めた者の保護を迅速に成し遂げていく。その功績は、既にプレジャーフォレスト内随一の働きとなり、アナベルは彼らにとってなくてはならない存在へとなった。


 しかし、元より自由奔放な性格の彼女は、先に彼らに対しいつ居なくなるか分からないことは伝えておいた。故に、組織の中で彼女の存在は大きくなってはいたが、依存はしていなかった。アナベルもそれを望んでいたのだそうだ。


 誰かに期待されることを、彼女は何よりも嫌った。


 アナベルが異変に目覚めたのは、大分前の事らしい。その為、いつ頃であったか、どんな状況であったかなどはあまりハッキリとは覚えていないと語った。


 ただ、彼女が目覚めた時はモンスターの襲撃や、ゲームのキャラクターの姿をした人間などは見かけなかったという。目覚めた場所も運が良かったのか、彼女は穏やかな中でゆっくりとキャラクターの投影について、独自に身につけていったのだという。


 シン達も知っている通り、WoFへログインしてから自分のキャラクター画面へ進むと、普段表示されない項目が追加されている事に気づき、現実の世界をWoFのキャラクターで動き回れることを知った。


 しかし、異変に巻き込まれるようになってから、WoFを起動する人間がいると言うのはごく自然なことのはず。それにしては、モンスターに襲われた際に戦えない人間が多過ぎるとは思わないだろうか。


 それもその筈。その項目は、まるで隠しコマンドのように誰かに教えて貰わなければ、なかなか気付けるものではなかったからだ。


 その証拠に、シンもイヅツもWoFを長時間遊んでいた筈なのに、誰かに教えて貰うまでその項目に気づかなかったのだ。


 そこに少し、アナベルに対する疑問が生まれたのだった。襲われるような状況下になく、たっぷりと時間があったとはいえ、そこに気付けるものだろうか。


 あまり追求して、彼女の怒りを買わぬようにと、にぃなはそれ以上追求することはなかった。


 「ん〜何だか話し疲れちゃったなぁ〜。今度は君の話を聞かせてよぉ〜」


 「私の話・・・?」


 「そ。君の話。君が如何やって目覚めたのか、如何やって今まで生きてきたのか。なぁ〜に、そんなに詳しくなくていいよ。どうせ覚えられないし」


 「え、それってどういう・・・」


 「深い意味はないさ。もうすぐ私の根城だから、それまでの間、物語を聞かせてくれないかい?」


 一方的に聞いたばかりでは流石に彼女の気が引けたのか、にぃなもアナベルに聞いた内容と同じことを簡潔に語り始めた。その中には、当然の如く現実世界でのことは語られなかった。


 話を聞くアナベルも、それを察してか口を挟む事なくただただ黙って聞いていた。


そして、二人の声はドラゴンにぶら下がる籠にいるシンには聞こえる筈もなく、彼だけは風を切る音と共に景色を呑気に堪能していた。

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