散策再開

 一度自宅に帰ってから考えたいと言い出したRIZAのことを心配するにぃな。現実よりもゲームに費やす時間の方が多かったシンにはあまりよく分からない感情だったが、友人と他県にまで遊びに行くような、恵まれた環境で生きる彼女にとっては、日常に別れを告げる気持ちの整理も必要なのかもしれない。


 そう考えると、シンに彼女を引き止めることは出来なかった。友人だと思っていた人物に裏切られてからというものの、他人の顔色やどんなことを思っているのだろうと考えるようになってしまったシンは、あまり人に深く関わろうとしなくなってしまった。


 人に近づくことで、酷い目に遭ったり辛い気持ちになることを恐れてしま雨ようになり、人との距離を必要以上に取るようになった。


 だが、そんな彼の心もWoFの世界で経験してきた数々の出来事の中で、少しずつ変化が見えてきていた。


 本当は心の中で思っていても、実際には行動に移せなかったことも、キャラクターに成り切ることで気持ちが前向きになり、心のままに動けるような気がしていた。


 そこに口を挟んでくる者はなく、誰もそれを馬鹿にしたりしない。偽善だと笑うもの、無意味だと呆れる者も、誰も・・・。


 「本人の気持ちを優先しよう。彼女が何を選ぶのか、それくらいは自分で選ばせてあげなきゃ・・・。ただでさえ俺達は、急にこんなことに巻き込まれたんだから」


 「それはそうだけど・・・」


 「俺達の仲間ならここの人達がいる。友好関係を深める意味でも、コウ以外にも他の人達と会っておこう」


 そう言ってシンはにぃなを説得し、RIZAにWoFの機能でもあるフレンド登録を提案する。東京に帰って仕舞えば、シン達がすぐに駆けつけることは出来ないが、アドバイスや近くにいる謀反チームのメンバーに救援を頼めるかもしれない。


 彼女も、彼の申し出を断る理由はなく、これを承諾。シン達とRIZAはそこで別れ、彼女はキャラクターの投影を解くと、一般人達の見てる景色へと戻っていく。


 周りの光景に溶け込み、不自然な格好の二人の方を振り返り、少女は軽く会釈すると、そのまま友人達の居るであろうところへ戻っていった。


 「さて・・・。さっきのモンスターのこと、コウにもメッセージで伝えておこう」


 「そうだね。東京ではあんなモンスター見たことなかったけど、ここでは当たり前に居るのかもしれないし、その辺も聞いておこうよ」


 シン達にとって初めての経験である、こちらの手法を学び対策をしてくるモンスター。神奈川に来て初めてのモンスター戦だったが、彼らにとって初めてであっただけで、ここではこれが日常なのかもしれない。


 その真相を確かめる意味でも、二人は今の出来事をコウへ報告する。そこにはRIZAという少女と出会ったことと、もし助けを求めてくるようであれば、手を貸してやって欲しいという内容も添えられていた。


 「まぁ、RIZAとはフレンドになったんだ。ここに居る限りはすぐに合流できる。今はこのリゾートの探索をしよう」


 「うん・・・そうだね。今は楽しまないと・・・」


 にぃなの楽しむという言葉に首を傾げながらも、漸く普段の彼女に戻ったと安心するシンだった。


 探索といっても、まだ一割もプレジャーフォレスト内を巡れていない。しかし、フィアーズから下された任務に時間制限もない。故に急ぐ必要はなく、彼女のいう通りここ最近の気の張りようを考えると、休息も兼ねて楽しんだほうが得かもしれない。


 二人は次に、大きな建造物が目につく遊園地エリアを目指すことにした。楽しむのならやはり乗り物のアトラクションだろうと、意気投合したシン達はリゾートの案内図が立体のホログラムで表示されるパンフレットを手に、ゆっくりと歩き出す。

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