魔物の群れ
手始めに、最寄りのエリアにあるアトラクションを目指し、端末でプレジャーフォレストの案内マップを確認しながら進む。人混みを気にすることなく歩けるというのは便利なものだが、ついついすれ違う人を無意識に避けてしまう。
その様子を見て、にぃなは笑った。
「それ、私も昔よくやってた」
「・・・ん?」
「人、避けてるでしょ?この身体でいる時は認知されないし、ぶつからないのに」
「あぁ・・・。こんなことも癖になってるんだ・・・。視界に入るとついつい身体が勝手に避けちゃうんだな」
ほんの些細なことでも、生活や日常が変わればおかしく思えることが見えてくる。手元のスマートフォンに視線を向けていても、その視界の端に映る物や人を無意識に避けるように歩いている。
これも生活の中で身に染み込んだ習慣というのだろうか。小さい頃は難しいと感じていた自転車の運転を、どうやって乗っているのか上手く説明できないように当たり前になっていた。
「俺達ってこのままアトラクションとかに乗れるのかな?」
「どうだろう・・・。でも車とか乗れてるからね。・・・ねぇ、試してみよっか!」
「そう・・・だな。自分達のことももっとよく知っておかないと」
異変に巻き込まれてから、あまり気の休まることはなかった。休息があっても、心のどこかで自分はどうなってしまうのか、このままおかしな状態のまま生きていくことになるのかなど、不安は常に付き纏ってくる。
恐らく他のユーザー達もそうだろう。本当に命の危険を体験すると、それがトラウマになり無心と呼べる時間が極端になくなってしまう。その影は、ふとした瞬間に訪れ、心や思考を覆い尽くしていくように侵食し始める。
前向きに生きようとしても、ネガティブなものはポジティブよりも強力な因子なのだと、つくづく思い知らされる。一体いくつのポジティブがあれば、一つのネガティブを忘れることが出来るのか。
それが今はどうだろう。不安は確かにある。だが、不思議に興味を持ち始めるということは、ポジティブな気持ちにならなくとも、悪い思想を忘れさせる要因にはなるのかもしれない。
ウキウキと歩くにぃなの姿を後ろから見ながら、シンは少しだけ穏やかな時を過ごしていた。
が、突然近くの施設の中から大きな物音と、人の悲鳴のようなものが聞こえてきた。
驚いてもの音のした方へ視線を向ける二人。周りの人々は全く意に介せずといった様子でリゾートを満喫している。それだけで二人は、すぐに異変に纏わる事件であることを悟った。
目を丸くして振り返るにぃなに、シンはすぐに様子を見に行こうと真剣な顔色で頷く。
アトラクションへ向かう時とは逆に、今度はシンが先陣を切って現場へと向かう。すると、建物の中から人が後ろ向きで壁を透過して飛び出してきた。
そのままその人物は転んでしまい、建物の方を怯えた目で見つめながら後退りしていた。
「誰かッ・・・!何これ、嘘でしょ!?あり得ないってッ・・・!!」
「おい、どうした!何があった!?」
そこにいたのは、ボーイッシュな格好をした十代くらいの女の子だった。シンの呼び声に反応し、涙を浮かべた瞳でこちらに助けを訴えかけていた。地べたについたその腕には、鋭利なもので切られたような傷がついている。
「なっ中にゲームのモンスターがッ・・・!居るの!ここに居るの!!何で!?」
それを聞いたシンは、いつでもすぐにスキルを放てるように準備をして、彼女の指差す建物の様子を伺う。
シンもにぃなも、内心ホッとしていた。モンスターで良かったと。もしフィアーズの誰かや、別の交戦的な人間の方がずっと厄介な相手だからだ。
遅れて彼女に駆け寄ったにぃなが、すぐに傷を癒す回復スキルを使用して当てする。淡い緑色の光と共に、腕につけられた傷がみるみる治癒していくのを見て、彼女は痛みが癒えていくことよりも、目の前で傷が何事もなかったかのように消えていくことに驚いていた。
彼女の飛び出して来た建物から、唸り声と共に複数の二足歩行をした爬虫類の見た目のモンスター、リザード種の群れが姿を現した。その中には、後方で大型のリーダーらしき個体が、武装をしてこちらを静かに睨みつけていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます