小さな救いの手
同時刻、東京セントラルシティ某所。
怪我人を休ませながら、傷の治癒に必要なものを探しに出歩く一人の少年の姿があった。
彼は、常人には見えざる存在のモンスターを探しては、その生命を刈り取る行為を繰り返す。消滅する身体を眺めながら眉を潜ませるその表情には、焦燥の色が伺えた。
「チッ・・・!全然落ちねぇ。早くしねぇと・・・」
そう口にしながら、少年は次なる獲物を探して駆け回っていた。
その頃、少年が連れていた怪我人であるもう一人の少年は、苦しそうにもたれた壁から地面へと崩れ落ちた。傷口は大きく、自然治癒でどうにかなるようなものではない。
出血は激しくないものの、このまま放置していては悪化するであろうことは、素人にも想像がつくほどだった。
傷を負った少年は額に汗を滲ませ、小さく息をしながら周囲の様子を伺う。
大規模停電に見舞われた大都市の中でも、特に暗さを象徴とさせる狭い路地裏で、ひっそりと命の炎を灯す小さな身体は、寒気を感じているのか小刻みに震えていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
少年が地面に伸ばした自身の手へ視線を移すと、そこには目を凝らして辛うじて視認できるほど細い、糸のようなものが結ばれていた。その糸を辿ると、反対側は大通りへと続き道へと伸びていた。
すると、糸が急に何かに引っ張られるように張り始めた。何かの存在を感じ取った少年は息を殺し、壁の方へ転がるとそのまま壁の中へ消えていった。
間も無くして、何者かの足音のようなものが少年のいた場所へ近づいてくる。
「この辺になら居ると思ったんだがな・・・。このままじゃノルマを上げられないッ・・・クソッ!」
現れたその男は、独り言を呟きながら路地裏を調べ、すぐにその場を去っていった。後続の者がいないか警戒しながら壁から姿を現す少年。彼が何者で、何を探して走り回っているのか、今の少年には考えている暇などなかった。
だが、痛みと疲労に襲われていた少年は、注意力が散漫になっていたのか、まだ側に潜んでいたもう一人の存在に気が付かなかったのだ。
「だ・・・誰かいるの?」
「ッ・・・!?」
声は女のものだった。まるで心配でもしているかのような声とは裏腹に、どうやって気配を消していたのだろう。抵抗もできない状態の少年は、死を覚悟しながらも声のした方へ視線を向ける。
暫くすると、その声の主が建物の裏口から姿を現す。不安がるように胸に手を当てながら、地面に倒れる少年を見ていたのは、少年と同じくらいの歳の少女だった。
白く可愛らしいローブを羽織った少女は、傷ついた少年を見つけると慌てて側へと駆け寄ってきた。
少年はこの世界の住人ではない。その姿が見えているということは、ただ少女ではないということだ。戦地となっている東京のセントラルシティで、彼女は敵か味方か。そんな物差しでしか、少年は彼女を判断出来なかった。
弱った身体に残された力を振り絞り、少女に向けて手を伸ばした少年はスキルを放つ。周囲の壁や地面からワイヤーのようなものが飛び出し、少女を拘束する。
「きゃっ!」
「動かないで・・・下さい・・・。手荒な真似はしたくない・・・。何者です?貴方は・・・」
少女が彼にとって敵か否か。それを見極めるまでは気を抜くことが出来ない。だが、少年に残された力は少女を拘束し続けるほどの持続力を持ち合わせていなかった。
身体に走る痛みに少年が身を捩らせると、ワイヤーは力なく緩み簡単に解けて消えていった。
少女自体が脅威というわけではないが、もし少年の組織に敵対する者に通じていたのなら、今の少年に逃れる術はない。もはや動かぬ身体を冷たく冷えた地面に寝かせたまま、顔をあげて少女の動向を最後まで伺う。
拘束を解かれた少女は、少し警戒しながらも少年の元へと駆け寄る。
「痛い?大丈夫。治してはあげられないかもしれないけど、少しは楽になるから・・・」
そう言って少女は、少年の身体へ両手を翳し目を閉じる。すると少女の手から淡い緑色をした光が現れ、少年の傷を塞いでいったのだ。
少女が使っていたのはWoFの回復魔法。強張っていた少年の身体から痛みが引いていく。安堵したかのように力の抜けた少年の頭は、ガクッと地面に落ちる。
急激に襲ってきた睡魔に飲まれ、少年は目を閉じる。危険な状態を脱した少年を見て安堵する少女。しかし、そのまま路地裏に寝かせておくのも悪いと思ったのか、少女は彼の脇から腕を通し、何とか建物の中へと運んでいった。
一方その頃、傷ついた少年の為にアイテムを探していたもう一人の少年は、漸く傷を癒すアイテムを入手することに成功していた。倒した異世界の魔物が、消え去ると同時にその場に淡く光る球体を落とす。
それを手にすると、液体の入った瓶へと変化する。
「よっしゃ!これで瑜那は大丈夫だ。すぐに持ってってやらねぇと・・・!」
瓶をしまい、すぐに休ませている瑜那の元へ帰る宵命だったが、戻ってもそこに彼の姿はなかった。
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