研究施設
何のことか全くわからないシンは、そっとイヅツの近くへと向かっていき、小声でこれから何が始まるのか質問する。
「ゲートって何のことだ?どう見ても普通の扉だけど・・・」
「ゲームとかでよく見るポータルだよ。どういう原理かは俺にも分からないけど、あの装置で普通の扉を別の場所へ繋げるポータルに変えるんだ」
移動ポータル自体は、アサシンギルド内にもあった。しかし、それはドウという人物のスキルによるものだった。よって誰でも扱えるものではなかった。
そもそも、そんなものが現実の世界に存在していたこと自体、シンは知らない。明庵の前から消えた時は、何の説明もないまま白獅に連れ去られただけで、あれが誰かによるスキルなのだとは微塵も思わなかった。
「あぁそうだ。まぁ無いとは思うけど、ゲートを通る時はWoFのキャラであることが必須条件だ。特に俺らはな」
「えっ・・・?」
「何つうかよぉ。生身だと移動できないらしいんだ。別にそれによって身体が保てなくなるとか、死ぬって訳じゃぁねぇんだがな。・・・詳しいことは聞くなよ?さっきも言ったが、俺にも分からねぇんだからよ!」
何となく分かっていたこと、予想していたことではあった。シンやイヅツの様に、WoFのキャラクターデータを自身の身体に投影した者は、これまでとは比べものにならないほどの身体能力や、現実ではあり得ないスキルを撃てたりできる様になる。
それはつまり、彼らの身体は投影をした時点で、現実のモノではなくなってしまっているということなのだろう。一般の人々にその姿が確認されなくなることからも、何かしらの異常が起きていることは間違いなさそうだった。
「お待たせしました。ゲートの準備完了です」
部下らしき男の報告により、休憩をとっていたイヅツの上官、周りの者達に“スペクター“と呼ばれていた男が立ち上がり、扉の方へと歩いていく。
「おい、いくぞ」
イヅツは下に置いていた魔物を拾い上げると、首を扉の方へ振りシンについて来いと促す。安全面での不安はあったが、シンはイヅツの後を追い装置の付けられた扉へと向かう。
装置が起動され、上官の接近に合わせ部下の男が扉を開く。その先は至って変わったところもなく、一見ただの雑居ビルの内部にしか見えない。そして何の躊躇いもなく、開かれた扉の中へ入っていくスペクター。
するとどういう訳か、彼の姿は扉をくぐったところで消えてしまったのだ。思わず周りの者達の反応を伺うシンだったが、誰もそのことについて反応を示してはいない。
次いでイヅツが拘束された魔物と一緒に、扉をくぐる。スペクターと同じく、彼らもどこかへと消えた。イヅツはWoFのキャラクターデータを投影させていれば問題はないと言っていた。
固唾を飲み込み、意を決した様に扉をくぐるシンの視界は、まるで光に包まれるように真っ白になる。あまりの眩しさに目を強くとじ、光を目に入れまいと瞼に力を込める。
薄い皮膚の向こう側に見える明かりが弱まるのを確認し、そこで漸くシンは目を開ける。するとそこには、アサシンギルドのアジトにも似た、見たこともない何処かの研究施設の様な光景が広がっていた。
「ここは・・・?」
開けた空間に大きな機械が複数あり、先に移動していたイヅツが捕らえた魔物を透明なガラスに覆われた装置の中へ下ろしていた。そして、物珍しそうに周囲を見渡すシンに歩み寄り、ここが彼らのアジトだと説明した。
「ここは奴らの研究施設だ。ここでWoFの魔物を使った実験や研究、それに俺達や彼らみたいに異世界へ飛ばされた者や行き来できる奴らの研究をしてる場所だ」
「研究・・・?俺達の・・・」
分からないことが多いのは、何もシン達ばかりではない。彼らにとってもこの現実の世界は奇妙なものであり、何とかして元の世界へ戻りたいと思っているに違いない。
ここで行っているのは、そういった者達自身の研究だった。
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