封じられる砲火

 彼らが戦況の変化に追われている間、シャーロットは一切戦闘に本腰を入れる気など、毛頭になかったのだ。エイヴリーもジャウカーンも、邪魔する者への対処や、追うものの足を止めさせるということが頭の中にチラつき、一心にゴールを目指すシャーロットに先を越されてしまっていた。


 「ったく・・・。どこまで連れねぇのよ、あの女は。初めから俺達にゃぁ興味なかったってことかい」


 自身が全く相手にされていないことに気がつくと、ジャウカーンも彼女を追いかけようとする意識から、一秒でも早くゴールへ辿り着こうという意識へと切り替える。


 無論、彼らもゴールを目指していなかった訳ではない。要は心の持ちようだった。目的地へ一直線に向かうのと、その途中で何かを成しながら向かうのでは速度に違いが出るということだ。


 エイヴリー海賊団による砲撃に注意しつつも、ジャウカーンはシャーロットに習い相手にすることはせず、また前を進んでいるであろうシャーロットの影を探すことなく、ゴールの海岸を目指す。


 「奴ら、反撃してきませんね」


 「そんな余裕は、彼らには無いのだろう。これが単騎と群れの違いよ。分担できるという事は群れの利点だな」


 船内で落ち着いた様子で話をするアルマン。元より単騎で出馬したシャーロットと、先行してキングの助力へ向かったジャウカーンには、複数のタスクを同時進行することは出来ないであろう。


 だがそれでも、彼らの能力発動しているだけで他への牽制になる。そのおかげもあり、エイヴリー海賊団の攻撃による遅延の影響をあまり受けずに済んでいる。


 「さて・・・。シャーロット嬢の“アレ“は、我々を欺く為のフェイクか、それとも汚れを知らぬ子のように純粋なものか・・・」


 「え・・・?一体、何のことですか?」


 アルマンは口を開いた船員の顔を、信じられないといった様子で見ると、大きなため息を吐いて砲撃手へ指示を出す為のマイクの位置につく。そして彼の言う、シャーロットの“アレ“とやらを狙う指示を出した。


 「海岸へ通じる氷の道を撃ち抜いておけ。それが罠であれ陽動であれ、我々には関係の無いことだ」


 彼らだけに通じる暗号で船首側の砲撃手を特定して指示を出す。アルマンがシャーロットのアレと称していたのは、ゴールの海岸に向けて作られた氷の道だった。


 しかし、アルマンの危惧している通り、あまりにもあからさまに増設された道は、如何にもこれからここを通ると言わんばかりの目立つものだった。


 当然、そんなものを目にすれば迎撃されることは目に見えている。それを予測出来ないシャーロットではないと、彼は考えていた。


 あれは陽動で、実際は他のルートを築いているのか。将又、裏をかいて正直にその道を突き抜けてくるのか。見えぬところで彼らの策の探り合いという戦いが繰り広げられていた。


 彼の指示に従い、砲撃手がレーザー砲により氷の道を撃ち抜く。すると、それを合図にしたとでも言うかのように、周囲に幾つかの氷の道が一斉に生成されていった。


 あみだくじのように張り巡らされた氷の道に驚きを隠せない一同。やはりカモフラージュに使っていたのだろうか。これではシャーロットが何処を通りゴールへ到達しようとしているのか分からない。


 「たッ隊長!」


 「構うことはない!それならこちらも、物量で飲み込むまでよぉ!」


 そう言うとアルマンは、レーザー砲につく砲撃手達を使い、見事なまでの采配で指示を出し、次々に新たに生み出される氷の道を破壊していく。


 だがそれにより、再びジャウカーンへの攻撃が手薄になる。その隙に彼は、水を得た魚のように速度を上げ、何故かエイヴリー海賊団の船へと近づいた。


 遠距離攻撃を行う者が嫌がること。それは大抵の場合、手が届くほどに近づかれることだろう。それぞれのクラスや職種には、得意な距離がある。邪魔な砲撃を受けぬための対策だろうか。


 妙な行動をとる彼の思惑は、すぐに如実の分かることになる。


 エイヴリー海賊団の振るう兵器のその殆どは鉄製で出来ていた。鉄という物質は個体の中でも熱伝導率が高く、人の体温も伝わりやすい。寧ろ、奪われているとすら思うほどだ。


 これが一体エイヴリー海賊団にどういった事をもたらしたのか。ジャウカーンの熱を纏った船が近づいたことで、彼の船の熱が兵器に伝わり、高熱を帯びたのだ。


 それこそ、人が触れていられないほどに。


 「熱ッ・・・!何だ、急に砲台が熱く・・・」


 「船長、兵器の様子が・・・。と、いうより何か・・・身体が熱く・・・」


 エイヴリー自身も気温の変化には気がついていた。しかし、それまでの変化と違い、急激な温度の変化が彼らの船を襲った。すぐに身を乗り出し周囲を確認すると、エイヴリーの乗る船のすぐ側に、ジャウカーンの船が並んでいるのを捉える。


 「野郎・・・わざわざ近づいて来るたぁ。全く、自分の能力をよくわかってるじゃねぇか」


 「シャーロット嬢、これで借りは返したぜ。だがレースのn順位は別の話だ・・・!」


 兵器に伝わった熱はそう簡単には冷めない。ジャウカーンの残した熱でエイヴリー海賊団の手が止まる。その隙に速度を上げて前に出るジャウカーン。恐らくシャーロットも、このチャンスを見流さないだろう。

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