氷と炎と弾丸と
氷を溶かすような熱い熱と共に、轟音を響かせながら迫るのは見覚えのある炎だった。相手にされず、取り残されたことを根に持っているかのように、先を行くエイヴリー海賊団とシャーロットを攻め立てる。
「おいおい、連れねぇじゃないの!そっちから誘っておいて、一緒に踊ってくれないのかい?シャーロットのお嬢様よぉ」
「招待状だけで浮かれていたのは、貴様であろう?まだ踊るには早かったんだよ、坊ちゃん」
大きな火球は、シャーロットの作り上げた氷の森林を焼き払い、その軌道上の氷を溶かし尽くした。炎の影に隠れ、シャーロットの姿を見失ったエイヴリー海賊団は、その銃口を向けるべき相手を探していた。
「船長!氷のお嬢の姿がッ・・・」
「狙うのはどっちでも構わねぇよ。俺らの邪魔をする奴ぁ全員敵よぉ。あのガキも蜂の巣にしてやれ!」
シャーロットを見失ったガトリングとレーザー砲の銃口は、それぞれ引き続き彼女を探す者と戦場に復帰したジャウカーンを狙う者に分かれ、標的を分断した。
エイヴリー海賊団による手数が減った隙に、氷の木々の中へ身を隠しながらゴールへと向かうシャーロット。それとは逆に、派手な登場でヘイトを集めてしまったジャウカーンは、銃弾の雨の中を素早い動きで掻い潜りながら、海上に張った氷の景色を溶かしていく。
ツバキのボードほど小柄ではないジャウカーンの船。故にガトリングでも決して捉えられない速度ではなかった。銃口は弾を吐きながら、動き回るジャウカーンの船に照準を合わせていく。
そして船に弾丸が命中しようかというところで、狙いを定めていた船員が異変に気づく。
「何だ・・・?弾は確実に当たっている軌道の筈・・・。なのに・・・」
船員の口にしている通り、ガトリングの弾の軌道は確実にジャウカーンの船に命中している筈だったのだ。しかし、その音も痕跡も確認出来ないのだ。当てている筈なのに当たっている感覚がない。
指で物に触れている筈なのに、その物の感触が伝わってこないというよう感覚が彼らの中に広がり、不安を煽っていた。果たしてこのままジャウカーンを狙っていてもいいのだろうか。
そもそも、何故彼の船に弾が命中した痕跡が無いのか。その様子は船内にいるアルマンが、船体に取り付けられたカメラから映像を見て把握していた。映像を解析する中で、ジャウカーンの船体付近が高温で包まれているかのような反応が出ていた。
「これは・・・。まさか熱で身を守っているとでもいうのか?それでは呼吸すらままならない筈・・・。一体どうなっている?」
「隊長、どうしますか?このまま攻撃を継続させますか?」
それぞれの砲台にエイヴリーがクラフトを施す際に、一緒にマイクを作っていた。砲撃手へ一斉に指示を出すには、船内の機材を使うしかない。前線に出たエイヴリーに代わり、砲撃手への指示を任されていた彼は、ガトリング砲についている船員に攻撃を中止するように指示を出す。
「ガトリング砲についている者は攻撃を中断し、氷像の景色に隠れたシャーロット嬢を炙り出せ。火を吹く船はレーザー砲についている者達で狙え」
レーザーとは、単一波長の電磁波によるもので、エネルギー構造を持っている媒体として、光や電気、化学反応などで行われる。物体である弾丸が通用しないのであれば、実体のないレーザーであれば炎の鎧を撃ち抜くことができるかもしれない。
アルマンの指示に従い、船員達はそれぞれの標的へ銃口を構え攻撃を始める。姿を眩ませたシャーロットを炙り出す為、ガトリング部隊は引き続き氷で生成される木々を撃ち抜き、薙ぎ倒していく。
レーザーを用いた攻撃を受けたジャウカーンの船は、アルマンの予想通り炎の鎧を突き抜け、船体を突き抜ける穴を開けられていた。
「何つうモンを携えてやがんだ、あいつらッ!こりゃぁお嬢も手を焼く訳だな」
思ったより冷静なジャウカーンは、レーザーによって開けられた穴を溶接するように自身の炎で塞いでいく。注意すべき攻撃を見定めた彼は、同じ轍を踏まぬよう徹底的にレーザーによる攻撃を躱していく。
同時に、ジャウカーンが近づく氷の景色は軒並み溶けていき、元の海の様子へと変わる。それだけではなく、海水を蒸発させているのか、彼の船の周りには蒸気の霧に覆われ、蜃気楼のような歪みも見える。
手当たり次第に弾丸を撒き散らすガトリング砲。それはジャウカーンにとっても決して無視できるものではなかったようで、集中砲火されている場所を避けるような動きでシャーロットを追っていた。
「弾数に上限はねぇのか、全くッ!・・・だが、お嬢の奴ぁ一体どこまで・・・」
彼が氷の奥に視線を送ると、そこには既にゴールの海岸にまで氷の景色が広がっていた。
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