隠した刃
しかし、シンの投擲した武器は、卓越したキングのボード捌きによって悉く避けられてしまう。彼の手を離れた武器は、次々に海へと落ちていくが、後方に近づいて来ていたマクシムが、シンの外した武器に鋼糸を伸ばす。
そして拾い上げた武器を利用し、再びその刃に命を灯す。避けたことでキングの意識が、海へ落ちた武器から抜けていた。不発に終わった攻撃に、注意を向け続ける者もそうはいないだろう。
ましてや初見ともなれば、キングであろうと例外ではない。彼もまた、シンが放つ投擲にこそ集中してはいたが、躱した交易にまでは意識が回っていなかった。
息を吹き返したように海面から飛び出す武具の数々。まるで魚の群れのように飛び回り、キングを驚かせた。動揺によりバランスを崩したキングだったが、そこは流石というところか。
幾多にも彼に向けて放たれる攻撃は、直撃するものは一つもな買ったのだ。しかし、いくつかは避けきれなかったようで、彼の身体を掠めた。
思わずそれを嫌ったキングは、その場を離れるように後退していく。ここでもやはり、キングは能力を使わなかったのだ。シンの中で、憶測が確証へと変わっていく。そしてそれを見ていたマクシムもまた、キングの異変に気付き始めた。
「ッ・・・!やってくれるじゃぁないの・・・。流石にちょっと厳しいねぇ・・・」
「あれ程スピードを落とさなかったキングが後退した・・・?奴のスキルがあれば造作もないことなのに・・・。まさか温存してるって訳じゃねぇのか?」
すると、シンは突然ボードの向きを変え、キングの進路上に身を乗り出したのだ。加速し、彼との距離を空けることよりも、それを優先したのだ。僅かに減速したシンを抜き去り、今度はマクシムが先頭になる。
マクシムにはシンの行動が理解できなかった。何故、差をつけるチャンスを作っておきながら、そうしなかったのか。勿論シンも、理由もなくそんなことをしだした訳ではない。
彼の奇怪な行動を見たキングも最初は驚いたが、すぐにその理由に気がつく。それは自らの能力を把握しているキングだからこそ、いち早く気づくことが出来たのだ。
「はぁ〜ん・・・。なるほど考えたじゃない。でも・・・ッ!」
そう言うとキングは、物体を引きつける能力を使って、シンのボードを自分の方へ引き寄せる。意図せぬ減速にバランスを崩したシンへと近づくキング。すぐに体勢を立て直したシンは、再び付かず離れずの距離でキングの前に戻る。
そしてキングの方を気にしながらも、前方を走るマクシムへも攻撃を始める。先程キングにしていた攻撃と同じように、投擲用の武器をマクシムに向けて放つシン。
だが彼は、最も容易くそれを鋼糸で絡め取ると、勢いを殺して海へと落としていく。いくら数を増やし、形を変えようと、シンの攻撃はマクシムに届くことはなかった
「もう協力はお終いか?でも、この程度じゃぁ俺は落とせないぜ?」
「・・・・・」
何も語ることのないシンは、何度失敗に終わろうとも愚直にも投擲を繰り返すだけだった。流石のマクシムも、彼の意味のない攻撃に疑念を抱き始めた。何故こうも、無駄な攻撃を繰り返し続けるのか。
ただ物資を失っていく一方で、シンに何のメリットもないように思えるが、それを理解していないほど彼は、精神的に追い詰められているのだろうか。だが、焦りや混乱で取り乱している人間の表情や動作ではない。
投擲の狙いや角度、タイミングはしっかりマクシムを討ち取ろうと合わせられているのだ。もしパニックに陥っているのなら、これほど精密に狙いを定めることなど出来ない。
マクシムの行き着いた答えは、シンの投擲による攻撃はそれ自体が目的ではなく、何かの準備段階であるのではないかというものだった。
例えば、何か大きく強力なスキルを放つのに必要なものを準備しているような。そんな行動に思えたのだ。
「何だ・・・。何か企んでんのか・・・?」
キングを引率するように前を走るシンと同じように、シンはマクシムの後ろへとつく。左右に進路をズラそうと彼はついて来る。やはり何かを企んでいるとしか思えない。
不気味に思っていたマクシムだったが、そんなことを考える暇もなく、次に順位を上げたのはシンの後ろにいたキングだった。
シンが前を走ると言うのなら、キングはそのまま彼の後ろをピッタリとついて行き、彼の影に隠れるように、限りなく空気抵抗を減らすことに努めたのだ。
そして、シンがマクシムに追いつこうかと言うところで一気に加速したキングは、シンの背後で受けていたスリップストリームを利用して彼を抜き去った。
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