すり抜ける悪鬼
デイヴィスを無事に送り届けて暫く。シンはミア達の待つツバキの船へと戻る。そこで、キングの船で出会した彼らの目的の一つでもある、黒いコートに身を包んだ男達のことを話した。
男達は別々にやって来て、一人目の男は明らかにシンに狙いを定め待ち伏せしていた様子だった。シンとデイヴィスは協力し、その男と対峙したが、まるで子供をあやすかの様に弄ばれた。
男は未知の能力で二人を翻弄したが、シンにはそれが何処か、自分のスキルにも似ているように感じた。だが、シンの機転により一矢報いることに成功した二人は、キングの船へやって来た目的を果たすため動き出す。デイヴィスはキングの元へ、そしてシンは男の足止めを目論む。
そこへ訪れたのが、もう一人の黒コートの男。彼は最初にシン達を襲った男とは別行動をしており、違う目的を果たした後だったらしい。明らかにシン達の境遇について何か知っている様子だった二人だったが、シンに何も語ることなく何処かへと去っていってしまった。
結局のところ、彼らがこの世界に転移出来る様になってしまった原因は分からなかったが、漠然としていた目標が一つハッキリとした。やはり黒いコートの者達は、この世界とシン達の現実世界に起きている事態の一端を担っている可能性が高まった。
「何も知らん奴らが、私ら以上に私らのことを知っているというのは、何とも気持ち悪いものだな・・・。奴らが私らの命を好き勝手に出来るのかは知らねぇが、殺しにこないところを見るに、何か目的がある様だな・・・」
「目的・・・?だが、何も聞かれなければ、何もされてもいないんだが・・・」
シンの言う通り、黒いコートの男達は試すようなことをしても、決してシンを殺しにくるようなことはなかった。それどころか、もう一人の遅れて来た男に至っては、エイヴリーやキングですら苦戦していたリヴァイアサンの弱体化を図るなど、シン達には知っても理解し得ないことまでしていた。
「だが、野放しには出来ない。次は見つけ次第、殺すくらいの気持ちで相手しないと、いつこの生活が終わるか分からんぞ?」
「殺す・・・?奴らを?想像できないな・・・。でも、今あるものを失いたくない」
「それにこっちは、死体であっても何らかの情報を手に入れられるかもしれないしな。君の言う、現実世界にいるという白獅って奴とその仲間にな・・・」
彼らは何も、彼らだけで戦っている訳ではない。現実の世界には、ミアの言う通り白獅と名乗る者と、同じような仲間を集めたアサシンギルドがある。WoFの世界とは違って、彼は近代的なテクノロジーを使って、シン達をサポートしてくれようとしている。
二人はこの世界の住人であるツバキに話を聞かれないようにしていた。すると、シンがボードに乗って来た方向の上空に、煙を上げながら飛んでいく信号弾が打ち上げられた。
「何だ!?」
「デイヴィスだと思う・・・。計画実行の合図なんじゃないか?」
信号弾が上空まで上がり切り強い光を放つと、周囲でリヴァイアサンの身体に砲弾や魔法を当てていた船達が、一斉に向きを変えて、信号弾の放たれたデイヴィスのいる、キングの船団へ向かい始めた。
移動し始めた船の群れを避けながら、シン達を乗せた船はリヴァイアサンの身体へと近づいていく。少しでもダメージを稼ぎ、あわよくばポイントによる順位の向上を狙う。
戦闘方法は、それまで戦っていた海賊達が教えてくれた。付かず離れずの距離を保ち、遠距離攻撃で一方的にダメージを稼ぐことができる。果たしてそれがリヴァイアサンに効いているのかは分からないが・・・。
船を一定の場所に留めながら、砲台を設置していない船の甲板でシン達が遠距離攻撃を行い、舵はツバキが担当することになった。波を起こすばかりで、これといって脅威となる攻撃のなくなったリヴァイアサン。
暫くの間、効いているかも分からない攻撃を繰り返していると、キングの船団の周りに群がっていた海域から、数隻の船が逃げるように出てくると、そのままリヴァイアサンのいる方角とは真逆の方へと向かっていく、怪しい船を見つける。
「アイツら・・・何処へ行くんだ?」
「ん?さぁな。戦闘を続行することができなくなって、退避してるんじゃないか?」
数隻の船は、シン達の船の邪魔しない航路で進んでいく。すれ違い様にシンが先頭を進む船に視線を送ると、甲板に立っていた一人の男と目が合う。シンはその男を何処かで見たような気がした。だが、何処で見たのかは思い出せない。
相手の男もシンを知らなかったのか、すぐに視線を前に向け、まるで相手にしていない様子だった。シンもそれ以上、その男と船を気にかけることはなかったが、その人物こそデイヴィスを殺し、アンスティスをも殺した裏切り者、ウォルターだった。
船内からツバキの小言が聞こえてくる。先程の複数の船が近くを通ったおかげで、船が波に揺られ留めておくのが難しくなったからだ。文句を垂れる声を聞いて、ツバキの体調も大分良くなったのかと、一安心するシン。
それから間も無くして、再び船の群れの中から抜け出してくる船団があった。
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