未知なる存在

 一隻の見覚えのない船が、キングのシー・ギャングの幹部である、ダラーヒムの船団後方に紛れ込んでいた。彼らも気づくことはなく、その船は彼らの船と装飾も造りも違う筈なのに、一切怪しまれることなくそこにあった。


 大きさは彼らの海賊船よりも大分小さく、木造の何とも味気ない見た目をしている。そしてそこには、黒いローブに身を包んだ何者かの影が二つあった。だが、それが果たして人なのかさえ、深く被ったフードのせいで見えない。


 「おい、到着したぜ?やっていいんだな?俺が!」


 「そう急くなよ。アイツら・・・とんでもないモノを送り込んで来たものだ・・・」


 雲海を悠然たる様子で通り過ぎて行くのを、身体を大きくのけぞらせて眺める。荒々しい口調をしている方はその場で座り込み、もう一人の黒いローブの者から出される指示を待っている。


 「さて・・・向こうが俺達を邪魔するってんなら、こっちは元の流れに戻すまでだ・・・。本来いるべきではない怪物を放ち、彼らの中にあるイレギュラーを炙り出そうとしているんだろうが、そうはいかねぇよ・・・」


 もう一人の黒いローブの者が、袖の中から何やら怪しげな光を放つ短剣を取り出す。どこの文字かも分からなものが短剣の表面をゆっくりとループするように回転している。


 「俺が事を成している間、後のことはお前に任せることになるが・・・」


 「任せておけッ!ついでにアイツらの腕前も確かめておかねぇとなッ!」


 好奇心旺盛な子供のお守りをさせられているように、どっと疲れた様子で大きな溜め息をつく。何を仕出かすか心配な気持ちを抱えたまま、そのローブの者は突如として姿を消した。


 お目付役がいなくなったかのように、フードで見えないが恐らくその口元は大いに緩んでいることだろう。やや背の低いローブの男も、先程の者と同じように一瞬にしてその姿を消した。


 その頃、海上に姿を見せていた蟒蛇に砲弾の雨を浴びせている船団がある。バーソロミュー・ロバーツの船団だ。ウォルターの能力で砲弾の残弾を気にすることなく撃ち込む彼らは、その後方から近づいてくる船団に気づく。


 「船長!後方から複数の海賊による連合が近づいて来ます」


 「複数・・・?だがこの状況で、他の海賊を潰すような動きを取ってる暇なんてない筈・・・。まさかデイヴィスか!?」


 思わぬレイド戦の苦戦に、協力は必要不可欠。レース上では互いにライバルであり、個人的な因縁がある者達もいるが、可能な限り力を合わせなければ今回のレイドモンスターは倒せないであろう。


 それはエイヴリーやキングの協力的な動きや、他の海賊を野放しにしていることからも窺える。人間同士で争っている場合ではないのだ。故にロバーツ達も、キング暗殺の計画を一時中断し、巨大蟒蛇の討伐撃退に努めている。


 協力を仰ぐのであれば、接近する前に何らかの動きがある筈だが、そんなロバーツの船団に近づくのは、何組かの海賊が徒党を組んだ連合軍。それだけ信頼を寄せてやってくるのは彼らしかいない。


 「ここは俺に任せて、アンタはその連合軍を確かめに行ってくれ!」


 ウォルターがロバーツ海賊団の船員と協力し、砲弾を強化して蟒蛇に撃ち込んでいく。彼のレヴェリーボマーの能力のおかげで、一撃一撃が本来の砲撃の数倍もの爆発を引き起こしている。


 そして何より、発射から着弾までの間に、砲弾は見えない弾をその周囲に生み出している。ハオランやスユーフのような強烈な一撃、キングの空間すら両断する斬撃。エイヴリー海賊団による万物を溶解せんとする、この戦場における最大火力には遠く及ばない。


 それでも着実に鱗を剥がし、蟒蛇の体表まで到達すると、再生されるまでの間に全力を注ぎ込み、出来る限りのダメージを稼いでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る