辿って来た道

 故郷の友人達に、外の世界と物語を見てきて欲しいと言われた少年は、彼等の言葉の意味を再度心の中で吟味する。


 少年であるヘラルトの過去の話が故、当時の彼は更に幼く、そこまで難しいことを考えて発言していたとは思えない。


 それでも、事情により故郷を出られずにいた彼の友人達が、故郷を出ていく彼に託した言葉には彼が思っている以上に強い願いや想いが込められていたに違いない。


 自分に出来ないことを成そうとする人に、自分の想いを託す時、人はどんなことを思って言葉を贈るのだろう。当時のヘラルトは、彼等の言葉をそのままの意味で受け取り、それを成そうと一生懸命だった。


 しかし、外の世界は彼等の想像する以上に広く、一人の人間が全てを見て回るには人生は短すぎた。そんな時ヘラルトが目をつけたのが、故郷の友人達も大好きでよく一緒になって夢中で読んでいた本だった。


 そこには想像もつかないような景色や、夢のような光景が描かれていたり、中にはとても現実的で身近な描写のものもあり、自分の身の回りと比較し、よく恐怖やドキドキで心が満たされていたものだ。


 幼き頃は、それが世界の何処かにあるのだと信じていたし、彼等の身の回りの大人もそうだと笑顔で語っていた。故郷を離れたヘラルトは、外の世界で読んだ本や故郷で見にした絵本などが、誰かによって創造されたフィクションである物もあることを知る。


 だが、誰かの夢物語だと思っていた本の景色が、彼と同じくその本を読んで感銘を受けた人によって、現実のものとなった景色もいくつかあったのだ。


 エイヴリーの言う通り、人は時を重ねることで成長し進化していくもの。その当時では実現など不可能と言われたものも、その先の未来では可能になっていたり、当たり前の光景だったりする。


 当時の本の作者が、その光景を目にしたらどう思うだろうかと想像することもあった。もし彼等がその時代に生きていたら、また更に新しい夢物語を描いてくれたのだろうかと。


 そう思うと、彼等の夢見た光景が未来の人々の世界を新たなものへと押し上げる原動力になっているのではないかとさえ思えてくる。


 外の世界に加え、更に彼等のような幻想の世界を創り出す者達の世界も加えれば、それこそヘラルトだけでは網羅し切れるものではない。そう思った彼は、例えその書物が史実でなくとも、ありとあらゆる世界を見て回ろうと、伝承から神話まで様々な書物を集め始めた。


 そしてヘラルトは人に目を向ける機会が少なくなっていき、行き着いた都市や街で書物を買い漁り、移動中の馬車や船で読むと言うのが彼のルーティーンになっていた。


 資金源が尽きた彼が目をつけたのは、大海原を横断しながら大陸間を移動し、世界中を旅する海賊だったのだ。

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