少年作家の救出案

 第二波の氷塊が群がる蝙蝠の中へ入る。中ではリーズの生み出した眷族の蝙蝠が群がり、彼女の能力を伝達させ氷塊を縮小させる。その中心ではリーズが、小さくなった小石のような氷塊を足で蹴り、外へと弾き飛ばす。


 そこへ、蟒蛇の仕掛けた光弾がやって来る。リーズと眷族は何も知らずにそれを飲み込み、氷塊と同じくリーズのタクティシャンのスキルを伝達させ、縮小させようとする。


 しかしロイクが危惧していた通りの展開となってしまう。光弾は突如形を変え、レーザー状になると、真っ直ぐリーズに向けて放たれる。その刹那の輝きに気付いた時には遅く、レーザーは彼女の腹部を貫いていく。


 咄嗟に身を捩らせたことにより、致命傷に至る損傷にはならなかった。迫る何かを視界に捉えたリーズは、それが何かも解らぬままダメージをくらい、口からどろりとした鮮血を吐き出す。


 頭の整理が追いつかない。その瞬間にも次から次へと氷塊はやって来る。リーズは傷口に手を当て、もう一つのクラス“インキュベータ“のスキルで、失われた細胞の代わりにまだ傷を負っていない細胞を増殖させて肉体の再生を図る。


 回復魔法のような即効性のあるものとは違い、彼女の身体に空いた風穴は直ぐには塞がらない。激痛に耐えながらも、眷族達に能力の伝達を行わせ、氷塊の迎撃を続けるリーズ。


 一体何にやられたのか見当もつかない。そして次の光弾は、そんな彼女の準備が整うのを待ってはくれなかった。


 困惑しながら、身体の修復を図る彼女に次の光弾がやって来る。無論、リーズや眷族にその光弾の特性など分かる筈も無く、再び取り囲みタクティシャンのスキルを放ち、縮小させようとしてしまう。


 そして、再び彼女の視界に閃光が走る。光弾は群がる蝙蝠を貫通し、リーズに向かって飛んで来る。何が飛んで来ているのかは、視界に捉えることが出来る。だが彼女に出来るのはそこまでなのだ。見えていても、身体が動かない。脳からの指令を身体に伝達するよりも早く、光弾はレーザーとなり向かって来る。


 「ッ・・・!何だってんだ一体ッ・・・!?」


 瞬間、彼女の身体は別の方向から飛んで来た何かに弾き飛ばされ、偶然にもレーザーを回避することが出来た。氷塊同士がぶつかり弾け飛んだものが来たのか、外で誰かが弾いたものが飛んで来たのかは定かではない。


 だが、宙に浮く彼女の身体を支える何かがある。衝撃と先ほど開けられた風穴への痛みから目を開けると、そこには見知った顔の男がドラゴンに乗り、彼女の身体を支えていた。


 「よかったッ・・・!間に合ったか」


 「もうちょっと早く来てくれた方が、もっとカッコ良かったんだけどねぇ・・・?」


 「これでも飛ばして来たんだ。許せ・・・」


 リーズを間一髪のところで救ったのは、前方でキング海賊団の戦闘の様子を見に行っていたロイクだった。蟒蛇が第二波に込めた光弾というトラップを見破り、その情報を自軍の元へと持ち帰ったのだ。


 到着はやや遅れたが、大きな被害が出る前に戻ることが出来た彼は、彼女を抱えながら全軍に向けて通信を入れる。


 「氷塊の中に、魔力に反応する光の弾が紛れ込んでるッ!魔力による直接攻撃は避けるんだ!術者やスキルの発動箇所に向かって攻撃が来るッ!」


ロイクの声に耳を傾ける船員達とエイヴリー。彼の生存を喜び、命からがら持ち帰った蟒蛇のトリックの種を聞き、それぞれの部隊で魔力を直接ぶつける迎撃手段を止め、別の手段を取り始める。


 エイヴリーのクラフトで強化された装甲を持つ船は、そのまま氷塊と光弾の両方を受けながら耐えぬいていく。ロイクの報告から、外装を襲う攻撃の答えを聞き、喉につっかえていたものが取れたアルマンは、その光弾の性質について再びぶつぶつと独り言を始めてしまう。


 「船長!ここは僕に任せてくれませんか!?」


 エイヴリーの元へやって来たのは、海賊の船には似つかわしくない小さな少年だった。何もエイヴリーとの体格さ故に小さく見えるのではない。単純に彼がツバキと同じくらいの背丈をした少年。


 その少年は僅かな間とはいえ、シン達と行動を共にしグラン・ヴァーグの街までやって来たヘラルトだったのだ。彼はその手に大きなスケッチブックと筆を持ち、自分の身体の数倍はあろうかという、大男の前に悠然と現れた。


 「ほぅ・・・外がどんなことになってんのか、お前知ってんのか?」


 「勿論です。アルマン氏の分析は極めて正確でした。光弾の変形条件こそ突き止めることが出来なかったものの、それ以外のところではまるで見て来たかのように状況を当てて見せました。後は僕の能力で誘導をかけることが出来れば、皆さんはこれまで通り氷塊の迎撃に集中出来ます!」


 珍しく口を開いたと思ったら、その熱弁はアルマンの影響だろうか。彼が正しかったことを証明するように、次から次へと少年の口から言葉が弾丸のように飛び出して来た。うんざりしたエイヴリーは、何か提案をするヘラルトに、現状装甲を開けることは出来ないのだと話す。


 「いいか?今の状況でお前を外に出すことは出来ねぇ。装甲を外せば氷塊が中へ飛んで来る。お前のちっぽけな命一つじゃ済まねぇんだぞ?」


 「勿論、心得ています。それに・・・僕のスキルは扉の隙間程もあれば、外に向けて放つことが可能です」


 少年は大きなスケッチブックを掌で叩き、バンバンと音を立てる。エイヴリーはまだ知らないが、ヘラルトはそのスケッチブックを使って独創的なスキルを発動することが出来るのだ。

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