残された者の責務

 キングの船団が次々に蟒蛇の第二波を乗り越えて行く。次第に第二波は、蟒蛇により吹き飛ばされていたエイヴリー海賊団の元へもやって来る。キングの船団とは違い、仲間の救援の為、比較的一箇所に集まると言う形になっているエイヴリー海賊団。


 上空ではロイクによる竜騎士隊の援護と、リーズがやや前方に出て、飛んで来る氷塊の弾数を減らしていると言う状況。そしてエイヴリーの居る本隊は、彼のクラフト能力で世界でも有数の硬さで有名な鉱物で出来た船体に組み変えられ、氷塊の衝突から守っていた。


 「船長ッ!また氷塊が飛んで来ます!」


 「何だってんだぁ?いつまでこんなことを続けるつもりだ!?化物さんよぉ」


 いくら硬い素材で船を固めようと、ダメージは無効に出来ている訳ではない。船体の劣化や損傷を抑える為、ある程度の隙を伺い新たに組み替える作業が必要になって来る。


 だが、この大船団を何度もエイヴリー一人のスキルで組み替え続けるのは、長く持つものではなく何れ魔力切れを起こし、それこそ最大戦力である船長が、今後に控える大事な時に戦闘不能になり兼ねない。


 氷塊を撃ち落としながら、エイヴリーの魔力残量に気を配っていたロイクは、今よりも更に高度を上げ、氷塊の攻撃範囲から離れ、戦線を一時的に離れる。彼は身を危険に晒しながらも、雷鳴走る暗雲の中を突き進み、前方で戦うキングの船団の様子を見に行った。


 少しでも有益な情報を持ち帰る為、ロイクはキング海賊団の船団の中でも、最後尾で氷塊を迎撃するダラーヒムの部隊の戦い方を目にする。しかし、情報を得るにはダラーヒムの戦い方と言うものはあまりにもシンプルだった。


 エイヴリー海賊団と同じく、氷塊を受け止める戦闘スタイルのダラーヒム隊では、第二波に紛れる罠に気付くことは出来ない。未だ蟒蛇の第二波に紛れる光弾の存在を知らないエイヴリー海賊団にとって、貴重な情報となる。


 その情報を知っているか否かで、被害の度合いは大きく変わって来る。自分達と殆ど変わらぬ迎撃手段をとるダラーヒム隊の上空を飛び去り、ロイクは更に前へと進む。だが不運なことに、その先にいるスユーフの部隊も、ダラーヒムの部隊と同じく物理攻撃による迎撃をしている。


 天候が悪く、思うように進めない中、上空から見える光景もある程度距離を縮めなければ確認することも出来ない。ここまで来て手ぶらで変えることは許されない。こうしている間にも、仲間達は疲弊し怪我を負っている。


 「クソッ・・・!何も掴めないままじゃぁ、戻れねぇよ・・・。マクシム・・・お前ならもっといい方法を思い付いていたのかも知れねぇな。だからその分まで、俺が俺に出来ることするんだッ・・・!」


 ドラゴンの首を優しく撫で、もう少しだけ頑張ってくれと声を掛ける。ドラゴンもそれに応えるように翼を力強く羽ばたかせる。そして雲の向こうで、大きな水飛沫をあえるような音が聞こえて来た。


 今までとは明らかに違う戦場。そこにはきっと、別の迎撃手段で迎える方法があると信じ、雲の中から高度を下げ、音のする方へ向かうロイク。彼の目に映った光景は、海面より幾つもの水柱が上空へと吹き上げ、氷塊から船団を守るトゥーマーンの部隊が第二波を受け止めていた。


 そしてロイクはその光景である異変に気がつくことになる。それは一部の氷塊らしき物が水柱に命中すると、何故か海面が爆発するような反応が見られたのだ。


 「・・・?あれは・・・何が起きているんだ?」


 ただ氷塊を弾くだけなら、そんな反応は起きない。様子を見る為、更に戦地へと近づくロイク。すると、彼が氷塊だと思っていた物は氷塊ではなく、魔力が大砲のように象られ飛んで来ている光弾であることに気がついた。


 光弾は、トゥーマーンの放つ魔法に反応し、水柱の発生源である海面目がけて形を変え、貫いていたのだった。ロイクの観察はジャウカーンに引けを取らなかった。直ぐに光弾が何に反応しているかを突き止めた彼は、その情報をエイヴリーや仲間の元へ届ける為、無線の届く範囲にまで戻ろうとした。


 だがそこで、ロイクはあることについて思考を巡らせた。エイヴリーの能力であれば、ダラーヒムと同じく、魔力で物の形を変えた後の物なので、直接光弾に魔力が触れる訳ではない。だが、上空でロイクと同じく氷塊の迎撃に当たっていたリーズは違う。


 彼女の迎撃方法は、眷族達を使い氷塊自体を小さく変化させるスキルを用いている。つまり、魔力を直接氷塊に当て大きさを変えているのだ。このまま何も知らず、蟒蛇の第二波を受ければ、彼女は無事では済まないだろう。


 「マズイッ!このままではリーズがッ・・・!」


 ロイクは素早い直進飛行で移動するドラゴンを召喚し乗り換えると、ここまで送り届けてくれたドラゴンに別れを告げ、自分の身体を新しいドラゴンに括り付ける。前線まで辿り着くよりも、更に危険を犯さなければ氷塊の速度は追い越せない。


 蟒蛇のブレスを止めた時、本隊へ合流するのが自分ではなくマクシムであったら。あの時、出来ることを行うことが出来なかったロイクは自分を責め、例え海に落ち絶命しようとも、その前に必ず役目を果たすのだと強い決意を胸に、再び雷光が駆け巡る暗雲の中を戻って行った。

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