ブレイヤール・コシュマール

 気配を悟ったハオランは、後方へ大きく飛び退く。爆発を引き起こしたであろう当の本人は、それを攻撃とも思っていないのか、ハオランヘのダメージや爆発には一切目もくれず、自身の腕を動くのか試すように何度も掌を開閉していた。


 「・・・事前に確認はしている・・・。回数制限や疲労じゃぁねぇよなぁ・・・」


 こちらを見ていないのなら好都合。ハオランは一気に走り出し、ロロネーの背後に回ると素早い回し蹴りを放つ。身に纏う服の装飾に反射した光景に気付いたロロネーは、瞬時に身をかがめ反撃の掃腿をする。つまり、しゃがんで相手の足を払うように蹴る技だ。


 それを飛んで回避したハオランは、そのまま空中で身体を前転のように回転させ、落ちる勢いと回転を乗せたかかと落としをする。低い体勢のままのロロネーは、起き上がり様にその一撃をもらうが、頭を横へずらし紙一重で避ける。


 僅かに擦ったのか、ロロネーの頬からは薄っすらと煙が出ていた。だがこれにより、床に着地するまでの間、ハオランは宙で無防備状態となってしまった。そしてそれを見逃すロロネーではない。


 「あららぁ・・・、そんなに隙見せちゃってぇッ!」


 回転し、顔が下に落ちてくるところを見極め勢いをつけた拳で襲い掛かるロロネー。だがハオランも、それを覚悟していないはずもなく、身体を捻り体勢を変えると、裏拳でロロネーの拳を迎え撃つ。


 激しい拳と拳のぶつかり合いに、周囲に衝撃波が広がる。間も無くして床に足を着いたハオランが組み手のようにロロネーの腕を自らの懐へ引き摺り込み、盛大な投げ技で男の身体を持ち上げ、床に向けて叩きつけようとする。


 ロロネーは、その細腕からは想像も出来ないほど強い力で掴まれた腕を、実体のない蒸気に変える。掴んでいた腕を急に失い、体勢を崩すハオランの首を再び実体に戻したロロネーの腕が締め上げる。


 「くッ・・・!」


 「悪いなぁ、伊達男。サービスはここまでだ。如何やら俺にも不確定なものが出てきちまったようでな・・・。さっさと事を成させて貰うぜぇッ・・・!」


 ハオランの細い首を締め上げながら、ロロネーは何かに急かされるように、自らの能力を出し惜しみなく使い、勝負を期しにやって来た。背後から押さえられ、思うように身動きが取れないハオランは、必死に自らの首とロロネーの腕の間に指を入れ振り解こうとする。


 しかし体格差もあり、振り解くことはおろか、緩まる気配もない。すると、ハオランは振り解くことから意識を変え、反撃に出ようと腰を曲げ足を大きく上へと持ち上げた。


 そこから一気に後方へと足を振り下ろし、それと反対に上半身は前方に倒れるように重心をかける。振り子のように振られたハオランの身体にバランスを崩され、前に倒れ込みそうになるロロネー。


 その勢いは凄まじく、ロロネーの身体を一回転させ床へ叩きつけた。その衝撃で怯んだ隙に、男の腕から逃れたハオランは、仰向けに倒れたロロネーの頭を両手で掴み逆立ちすると、その頭目掛けて膝を振り下ろす。


 ロロネーは何故か、思っていたよりも激しく抵抗することはなかった。そのまま男の頭に膝蹴りを入れると、その一撃と同時にロロネーの身体は全身蒸気の煙となって姿を消した。


 「ハハハッ!さぁ、もういいだろう。一気に終わらせてやるッ!」


 「何を今更ッ・・・!?」


 突然、彼らを乗せた船が大きく揺れ出した。何事かとハオランが周囲を見渡すと、ロロネー海賊団の船と思われる別の船が、この船目掛けて船首から突っ込んで来ていたのだ。


 船体を大きく揺らされ、膝をつくハオラン。再び揺れの原因となる突っ込んで来た船の方に目をやると、いつの間にかロロネーがそちらの船のマストに上がり、彼を見下ろしていた。


 「おらおらぁッ!いつまでもそんな所にいると、沈んじまうぜぇ!?」


 男は彼に、周囲の状況を見てみろと手を大きく広げ、左右に振って見せる。この男の言葉にはもう耳を貸さないとしていたが、この状況で惑わすような事を言う筈もあるまいと、ロロネーの言う通り周囲の海域を見渡すハオラン。


 そこには何と、何隻もの船がハオランの乗る船目掛けて突き進んで来ていたのだ。四方八方をボロボロのロロネー海賊団の船に囲まれ、距離こそバラバラであるものの、速力を落とす事なく、寧ろ上げて向かって来ている。


 「この船ごと潰す気かッ!?」


 「潰すぅ?違うなぁ!海上じゃぁお前が戦いづらそうだからよぉ。足場を増やしてやろってんだよ。・・・まぁ、増えるのは足場だけじゃぁねぇんだけどな」


 ロロネーが口を閉じると突然、ハオランを乗せた船に突っ込んだ海賊船から、無数の雄叫びがすると、霧がかった景色から姿を現したのは、海賊の格好をしたスケルトンや亡霊が群れをなして咆哮する光景だった。

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