己が欲の代償
濃くなった煙の中、シュトラールは自身を自動で援護する光の剣を数本生成する。
「・・・なるほど、この煙は攻撃の為でもあり、私への妨害行為にもなるということか・・・」
彼の作り出した光の剣は、それまでの物よりも密度が薄く、やや光がぼやけてしまっている。
シンのクラスであるアサシンは、視界が鮮明ではない状況でも、辺りを見渡すことのできるパッシブスキルを持っているため、煙の中であればシンだけが一方的にシュトラールを視認できる環境を整えることができる。
そしてシュトラールの言う、妨害行為とはゲームでいうところの、“デバフ”と言われる効果のことをいっているのだろう。
“デバフ”とは、対象の能力を低下させたり、状態異常などを付与することで行動を制限したり、必要行動を増えさせることにより、攻撃の遅延を起こしたりなど、相手の邪魔をする効果を付与することで、このような攻撃をメインにするクラスもおり、そういった者達を“デバッファー”と呼ぶこともある。
この場合、シュトラールは煙の中で、光による能力の低下を受けているため、狭い範囲でしか光の攻撃が届かなくなっている上、光を集約させてもぼやけてしまい、近距離以外では硬度を確保することが出来なくなっている。
「面白い・・・、だが二度目は無い」
首を左右に傾け首を鳴らすと、片腕のシュトラールは格闘の構えのように腕を前に出し、臨戦体勢を取り、シンを待ち構える。
暫くの間があった後、正面から数本の短剣が飛ばされてくるが、これはシュトラールの周りにある光の剣が弾き落とす。
次に彼を襲ったのは、前方そして左右から近づいてくる、煙に隠れた黒いシルエットが近づいてくる。
「前方と・・・左右にそれぞれ気配。 ・・・三人ッ・・・だと?」
相手の数に少し困惑はしたが、彼は取り乱すことなく、前方から向かってくる影に強烈な蹴りと、それに付随して動く光の剣が一緒にその剣先を突き立てる。
正面の影が消えると、彼はそのまま裏拳で左の影を打ち抜き、同時に光の剣が上下に分かれ、左の影を切り裂く。
最後に残った右の影に彼は、腕を伸ばしながら振り下ろすと彼の周りを飛んでいた光の剣が影に向かって飛んでいき、突き抜ける。
「ッ・・・!?」
実体のあるシルエットが、存在しなかったことに驚くシュトラール。
直後、彼の腹部に無音の銃弾が命中する。
「ぐッ・・・、どこから・・・」
彼がゆっくりと下を向くと、地面から光る何かが近づいてくるのに気がつくと、彼はそれが何なのか、瞬時に見抜く。
「これはッ・・・!?」
咄嗟にバク転し、その飛んでくる何かを躱すシュトラールは、それが剣技によって放たれた斬撃であると悟る。
シュトラールが着地をし、その反動で身体を曲げると背後から何者かの気配を感じ、身体の回転を使った強烈な回し蹴りを放つも、その攻撃は影を搔き消し、空を切っただけであった。
「・・・・・」
迫り来る影に攻撃が当たらないことよりも、シュトラールは攻撃が下から来たことに着眼点をおき、下を見つめていると、彼が下を向いたことによって垂れ下がった髪が微かに反応を示す。
何かが来ると悟った彼が、身体を捻りながら上体を反らすと、再び無音の銃弾が彼の下から発射され、彼の胸があった位置へと飛んでいく。
これを避けた彼は、その異様な光景から、ある予想を確定的なものとしていた。
「やはり・・・そういうことか・・・」
不敵な笑みを浮かべるシュトラールは何をするでもなく、その後も更に手数の増えるシン達の攻撃を避け続ける。
「何故だッ・・・何故攻撃が当たらなくなった・・・!? このままではッ・・・」
せっかく訪れた好機に、これと言った痛手を与えられずにいることに焦り出したシンは、スキル【繋影】によって近くの影を伸ばし、シュトラールの影に繋げると、彼の動きを止める。
「ほう・・・。 だが、タイムリミットは近づいている様だぞ・・・。 ラストオーダーはお決まりかな?」
時間が経ったことによって、徐々に辺りを包む煙が薄くなっていく。
それによりシュトラールの光の能力も力を取り戻し、彼が手にした光の剣を足元に突き刺すと、強い光を放ち、繋がれていた影が徐々に引き剥がされていく。
「まだだッ・・・! この好機を無駄にはしないッ・・・!!」
煙が薄れていってはいるものの、まだ外にいるミアやツクヨには中の様子が確認できず、シンを信じて影に攻撃を放つことしか出来なかった。
シンはシュトラールを止めるため、ありとあらゆる影を引き延ばして、シュトラールの影に繋げようと力を振り絞る。
「さて・・・、そろそろ頃合いか・・・」
自身の影から出てくる攻撃を軽快に避けながら、シュトラールが軽く上空に飛び上がると、彼を援護していた光の剣を、着地地点を中央に彼の周りを囲うかのように、五本の剣が地面に突き刺さる。
シュトラールが、その剣の囲いの中に着地すると、それぞれの剣が互いに光の線を放ち、地面に何かを描き出す。
彼が膝を曲げると、自分の影に何かしているのが、シンの目に入ってくる。
その瞬間、シンが使っていた影のスキルが一斉に遮断され、その能力を強制停止させられてしまう。
「ッ・・・!? 何だッ!? 何が起こって・・・」
ミアやツクヨも、自分の攻撃が影に入らず、地面に衝突することに異変を感じる。
「何だ・・・? シンのスキルが途絶えた・・・?」
「どうしたというんだッ・・・? 決着がついたのか・・・?」
一同が事態を把握できないまま、辺りを覆っていた煙が、中の二人を視認できるまでに晴れてくる。
煙の晴れたそこには、特に何事も起きていない様子で二人が立っているだけ。
ミアやツクヨ、そしてシンでさえも何が起きているのか把握出来ず、ただ唖然とシュトラールの方を見ていた。
しかし、異変は突如として、シンに訪れた。
徐々に込み上げてくる痛みと、熱い何かが、身体の中を駆け巡る。
そしてシンは、目や口などから熱く込み上げてくるものを飛沫のように吹き出し、動力を失った傀儡人形のように、地面に崩れ落ちた。
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