見えぬ略奪の一矢

聖都の宙を飛びながら光の矢を形成し、獲物に向けて放つリーベと、それを追うように、建物を飛び回りながら避けるナーゲル。


二人が攻防を繰り広げている間に、ミアとツクヨは建物の影を移動しながら後を追う。


「ツクヨッ! アンタ遠距離攻撃の手段はあるか? スキルでも道具でも何でもいい」


「残念ながら・・・。 彼女・・・リーベが下に降りてこないと攻撃する手段がない。 或いは、ナーゲル君のように建物に上がって飛びかかるか・・・」


「それは現実的じゃないな。 そもそもアタシらが建物から飛びかかったところで、高度を上げられ矢の的にされるのが関の山だろう・・・」


空はリーベの独壇場になっており、実際ナーゲルも幾度か飛びかかりを試みてはいるものの、一度も届くことはなかった。


「ならどうする? ナーゲルにでも乗って攻撃を仕掛けるか・・・」


「そんな危険な真似はさせられないし、それに・・・」


ミアは、ナーゲルの方へと視線を送り、扱いに困った様子を浮かべる。


「第一、怒りに身を任せた、バーサーカーのナーゲルが人を乗せて戦うほど器用な真似が出来るとも思えない・・・。 だからアタシがやる。 コイツで注意を逸らし、ツクヨの手の届くところまで、リーベを降ろしてやるッ・・・」


手にした銃を見つめながらミアは、覚悟を決める。


ガンスリンガーの攻撃は、相手のヘイトを集めやすく、今でこそナーゲルがリーベの攻撃を一手に引き受けてくれているが、もしミアがリーベを攻撃すれば光の矢の標的にされる。


「避け切れるのか!?ミアッ! 」


ツクヨの心配をよそ目に、ミアにはリーベと戦うための作戦があった。


「そろそろ貴方の相手も飽きてきましたわ・・・。 終わりにして差し上げます」


そう言うとリーベは、動き回るのを止めてその場で高度を少し上げる。


ナーゲルはチャンスと言わんばかりに跳躍し、彼女を追う。


するとリーベよりも下、ナーゲルの跳躍した辺り一面に光の矢が、獲物が飛び込んで来るのを待っていたかのように、その矢先をナーゲルへ向ける。


「何だ!? そこら中に矢がッ・・・。 一遍に出すにはあまりに数が多い・・・」


その様子を見ていたミアは、突如周辺に現れた無数の矢を見て、あるかのうせいに気づく。


「まさか・・・! あの矢は、設置も出来るのかッ!?」


ミアの推測の通り、リーベはただ闇雲に飛び回ってナーゲルの追跡から逃れていたのではなく、要所要所で光の矢を設置しながら移動し、そして最後に設置したトラップの中央で上昇し、取り囲んでいたのだった。


「マズイぞッ! ナーゲルが!!」


光の矢は一斉に宙にいるナーゲル目掛けて発射される。


リーベのいる高度まで届かないと悟ったナーゲルは、飛んでくる矢を弾くことに意識を集中させ、爪による衝撃波で必死の抵抗を見せるも、凡ゆる方向から飛んでくる矢を全て弾くことなどできる筈もなく、次々にナーゲルの身体へと突き刺さっていく。


「がぁぁぁあああッ!!」


彼女の放つ光の矢は、目に見える外傷こそないものの、ダメージは着実に蓄積されていき、その者の体力と機動力を奪っていく。


「・・・!? 矢は命中しているが、血は出ていない・・・?」


「アイツの矢によるダメージは、目に見えない形で対象者を襲う。 だから仲間達や周りの者達には、どれくらい深刻な状態に陥っているのかが分かりづらいんだ・・・。 アンタも、外傷で仲間の状態を判断するのではなく、ちゃんとステータスを見て判断する癖をつけておくんだ」


WoFでの戦闘経験が浅いツクヨには、まだ難しいことかも知れないとミアは思ったが、この戦闘中に成長して貰わなくては、もしミアが矢を受けた場合、突然連携が取れなくなるミアに混乱し兼ねない。


プレイヤー達は、視点の動きでメニューを開いたりアイテムの確認を行ったりする。


しかし戦闘中ということは、常に周りを警戒しなくてはならないため、普段の視点とシステムを操作する視点の切り替えを素早く行わなければならない。


言葉や頭で理解していようと、慣れない者が実際にやろうとすると難しいものがある。


「ステータスで確認って・・・。 こんな事を戦ってる最中にやるのか!?」


「寧ろこれまでよくやってこれたなと感心するよ・・・。 だが、もしちゃんと使いこなせるようになれば、今以上に動きやすく、そして戦いやすくなる。プレッシャーを与える訳じゃないが、アンタの成長で戦況は変わってくるから・・・、期待してるよ」


「いや・・・それ凄いプレッシャーだからね? 君は天然なのかい?」


必死に視点移動と切り替えに慣れる作業をして、冷や汗をかきながら減らず口をたたくツクヨ。


パニックになるかと思っていたが、まだそれだけの余裕があるのが見てとれて、少し安心するミアだった。


「ナーゲルが動けなくなる前に、アタシらも参戦する。 ツクヨは少し離れた位置で、アタシについて来てくれ」


ミアはライフル銃を取り出すと、建物の陰からナーゲルに夢中のリーベへ狙いを定める。


そしてなるべくこちらを向いていない、死角になった時を見計らい、息を止めてリーベの頭部、所謂ヘッドショットを狙って発砲する。


弾丸は大きな音と共に、リーベの頭目掛けて飛んでいき、彼女も音には気づくものの反応に遅れ振り向くこともできない。


それだけ銃弾が標的に向かって飛んでいくのが、如何に一瞬の出来事であるかが分かる。


すると、銃弾はリーベの近辺あたりで何かに弾かれてしまう。


「えっ・・・?」


ミアは思いもよらぬ出来事に驚きを隠しきれない。


何と銃弾を弾いたのは、リーベの周りで待機している次弾の光の矢のうちの一発だった。


「ミアさん・・・。 そんなに焦らなくても、この獣を倒したら次はあなた方の番です。だから大人しくお待ちになって」


彼女は振り向きもしないまま、銃を撃った者がミアであると断定して話し出している。


何故、銃を撃ったのがミアだと断定したのか。


ルーフェン・ヴォルフの隊員や幹部を殺したのであれば、寧ろ狙われるのは彼らによって、と思うのが普通だというのに。


「何故アタシだとバレた・・・? それにこの距離だと音に気づいても、とても避けられるような距離じゃないッ! ・・・それにバリアのような障壁も無い・・・、なのに何故ッ!?」


「ミアッ! 位置を変えよう! ここはもう場所が割れてる。早く立ち去らなければ・・・」


ツクヨは至って冷静に、的確なことを言っている。


こういう時、ツクヨの大人の余裕というものが頼もしく感じる。


彼の場合、抜けているだけなのかも知れないが・・・。


「不意打ちの銃弾をこの距離で弾くなんて、出来ることじゃない・・・。 事前に私達の位置を把握していない限りは」


「バレていた・・・とでも言うのかッ!?」


思わぬ出来事に動揺しているのか、ミアはそんな事などあり得ないといった様子でツクヨにあたる。


「私達が彼女と対峙していた場所から、建物の陰とは言えそれほど離れた位置でもなかった。 ・・・ある程度、予測されていたとしても不思議じゃないよ・・・」


「た・・・確かに、そうかも知れないが・・・」


「だから次は、もっと別の位置の・・・、彼女に視認されないよう、もっと予測されないような場所まで行って、もう一度やってみようッ!」


ミアは不思議とツクヨの言葉に、何一つ疑問に思うこともなく、彼の言う通りだと自分を納得させ、次の手のために気持ちを切り替えていく。

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