村の秘密
シンとサラが進んでいく後ろを、少し遅れて歩き出したミア。
3人はグラテス村へと続くエリアを進んでいく。
道中にはパルディア周辺に出てくるような、序盤のモンスターをいくらか見かけた。
このクエストの謎である冒険者が帰らない理由に、この辺りのモンスターは関係なさそうだった。
マップを開いて、サラに案内をしてもらいながら歩いていくが、グラテス村に近づくにつれ徐々に日が落ちていく。
サラが村の側の丘を指差して、何かを訴えている。
そこには廃屋があり、丘の上からは少し遠いが村が見渡せるくらいの高さはあるだろうか。
3人は一先ず、その廃屋で朝待つ事にした。
と、いうのにも理由があり、廃屋着いた後シンとミアは丘から双眼鏡を使って村の様子を伺っていた。
「村には人型のアンデットしかいないか・・・」
村の中を動く影はアンデットモンスターくらいで、とても人が住んでいる様には見えなかった。
村の様子を伺っていたのは、夕方から日が沈むまでくらいの間、2人はアンデットが住み着いているという手掛かり以外掴めないまま、引き上げようとしていた。
「シン、待て! 何か奥から出てくる」
村の中腹より少し奥のところ、建物の影から人型ではない者のシルエットが姿を表す。
「・・・!?」
それは序盤のエリアにいるはずのないモンスターの影、こんな者がいたのなら冒険者が帰らないというのも納得出来るという程の衝撃だった。
「アンデットデーモンだ。 かなり上級のモンスターだぞ! 何でこんなのがこのレベル帯のエリアにいるんだ・・・」
シンの額からは汗が滲み出ていた。
自分達が首を突っ込もうとしていた案件には、このレベル帯では到底勝ち目のない上級モンスターが関わっているという事実。
そして未だ謎のままである、帰らぬ冒険者達の話。
あんなモンスターを見かけたのなら手を引くのが普通だろう、明らかに設定ミスかの様なモンスター配置なのだから。
しかし誰一人帰らないということは、帰れない理由があったに違いない。
つまりシン達に待ち受ける衝撃は、これだけではないという事が直感でわかった。
「取り敢えず一旦廃屋に戻ろう。 もしかしたら夜だから湧いたモンスターなのかもしれない」
ミアの声で我に帰る。
2人は気配を殺しながら静かに廃屋へと戻っていった。
古びたドアノブが回り、扉が開く。
「ただいま、サラ。 異常はなかったか?」
サラは頷いた。
シンとミアが村の偵察に行っている間、サラは廃屋の片付けをしていた。
暫く誰にも使われていなかったので、使えない物や古びた食材などもあり、来た時は少しカビ臭かったが、サラの掃除や換気のお陰で今はだいぶマシになっていた。
「村の調査へは明日向かうことにしたよ。 だから今日はもう休もう」
村にいたモンスターについて、サラには明日実際に見てもらって確認することにした。
そして翌朝、問題が起きた。
部屋の中で争っているかの様な大きな物音がする。
シンは物音で目を覚ました。
部屋に射し込む朝の日差しで、瞼が思うように開かない。
ただ事ではない音に、重たい身体をゆっくり起こし、物音がしていた方へと向かう。
そこには恐ろしい形相をしたミアが、サラを床に押し倒し、銃口を額に押し付ける光景があった。
「ミア!? 何をしているんだ!」
止めに入ろうと、銃口を構える腕に触れようとしたが、振り払われてしまう。
「何って? アンタも自分の姿をよく見てみろ!」
何のことだか分からなかった。
シンは窓に映る自分の姿に目をやる。
そこには、いつもの姿よりも青ざめた肌と目の下に隈の様なものがあり、仄かに腐敗臭のような臭いがした。
顔の前に両手を開き、表裏を見て左右の腕も確認する。
裾を上げて両方の脚を確認した後、服をめくり上げ身体を見た。
頭から足の先まで同じ様な状態になっている。
その姿はまるで・・・。
「な・・・、何だこれは!?」
自分の状態にシンは驚いた。
「アンデット化だ。 寝てる間にアンタも私もアンデットにされてた」
ミアは既に状況を理解している様だった。
「何で!?」
それにひきかえシンは、今ようやく自分の置かれている状況を理解し始めたところだ。
「さぁな、だがコイツは何か知っていたんじゃないか?」
ミアは銃口を額に押し付けたまま、もう片方の手で、仰向けに横たわるサラの腕の包帯を破って見せた。
「コイツもアンデット化している、それも私らよりも進行している。 既にアンデットになってるのかもな」
「ま、待ってくれ! アンデット化は感染するのか? それに村のモンスターの可能性だって」
シンの疑問は最もだが、話はミアによって遮られた。
「もう確認したさ! この廃屋に近づいた様な痕跡はなかった。 それに私らのクラスは相手をアンデットにするスキルなんかない」
ミアの言う通り、シンのアサシンもミアのガンスリンガーもスキルでアンデット化させる様なものはない、道具を用いて攻撃なら可能かもしれないが、そんなことをする理由もメリットも2人にはない。
「コイツしかいないんだよ!」
ミアのいうことは最もで、否定出来なかった。
それでもシンは、サラの仕業であるとは思えなかった。
依頼を受けると言った時、彼女は泣いていた、その涙が嘘だったなんて思いたくなかった。
「うっ・・・・」
何か他に、最もらしい理由を言ってミアを説得しようとするが、何も浮かんでこない。
また俺は騙されたのか?
シンは過去の出来事と重合わせてしまう。
信じていた人による裏切り、こんな子供でもきっと、裏切りに歳など関係ない。
老若男女、人は都合の悪い場面になったり、窮地に陥った時、他人のせいにして身を守る。
そんな場面を何度も見てきて、何度も味わってきた。
変わろうと勇気を出して踏み出せば、必ず同じ壁に阻まれる。
しかし、1度目の失敗は答えに辿り着けずとも、別の道を導き出すことは出来る。
「い・・・今その子を殺しても何の解決にもならないぞ」
咄嗟に出た言葉にしては、ミアの殺意を削ぐには中々の効果があった。
「よく聞くようなセリフだな・・・、だが確かにそうだ。 少し冷静になれたよ」
ミアは銃口をサラの額から退けると、そのまま立ち上がり廃屋を出て行こうとドアを開ける。
「私はこの件から手を引くよ。 シンもそいつを信用し過ぎない事だ、何を企んでいるか分からんからな」
そう言い残すと、ミアは廃屋から出て行ってしまった。
シンは内心、不安になっていた。
きっと1人では解決できないかもしれない。
しかし、何か情報くらいなら手に入るかもしれないと思い、当初の予定通り村の様子を見に行くことにした。
床に倒れたままのサラに手を差し伸べる。
「起きれるか?」
彼女の目からは諦めのようなモノを感じた。
この目をシンは知っている。
苦しくて辛くても、誰にも助けを求められず自分の力だけではどうする事も出来ない、八方塞がりの状況。
またか・・・と、心が冷め、何もしたくない虚無感に見舞われる、そんな目だった。
「サラ、俺が最初に言ったこと、覚えてる?」
力の抜けたサラの身体を起き上がらせ、側にある椅子へと座らせた後、シンは椅子に座るサラの前にしゃがみ、話し始めた。
「俺じゃ解決は出来ないかもしれないけど、力になりたいんだ。 この気持ちは嘘じゃない。 だから最後までちゃんとやり遂げるよ」
きっと彼女もいろんな人に、辛い思いをさせられてきたんだろう。
彼女の今の状況が、かつての自分と重なる。
「これだって君がやったんじゃないんだろ?」
両手を見せたり、顔を触ったりとジェスチャーをとる。
「でも俺だけじゃダメだ、君の力が必要なんだ。 俺を信じてはくれないか?」
シンの説得で、サラの瞳に光が戻る。
抜け殻の様だった身体に活力が戻る。
そしてサラは、小さく頷いた。
廃屋を後にした2人は、いよいよ本題の村の調査を始める。
昨日、ミアと一緒に双眼鏡で眺めていた丘へと行き、もう一度村の様子を伺う。
前に見たときとは打って変わって、人影やアンデットの影はなく、驚異だったアンデットデーモンの姿もない。
「明るい時間帯には湧かないのか?」
一度双眼鏡を覗くのを止め、サラの方を見る。
「なぁサラ、村がどうなっているのか、君は知っているのか?」
素朴な疑問だった。
彼女は自分の村がどういう状態なのか知っているのだろうか。
話せない彼女に質問したところで、彼女には説明のしようがないが、何人も冒険者がこのクエストに挑んで、村まで辿り着けないなんて事があるだろうか。
このクエストを受けてここまで来たからこそ分かる事がある。
村までは苦もなく来れているという事、きっと何かあるとするならばこれからだ。
質問に対してサラは頷いた。
そして村の方を指差した後、彼女は歩き出した。
やけにあっさりとしていたので、シンは呆気に取られてしまったが、直ぐにサラについて行った。
村の側まで来ても、人やモンスターの気配は感じない。
日が出ていれば安全なのだろうか、そう思った矢先だった。
建物の陰から大きなシルエットが姿を表す。
「サラ! 下がれ!」
アンデットデーモンだ。
昼だろうと夜だろうと関係なかった。
そして冒険者達が戻らないのは、こいつに殺されたからだとシンは確信した。
サラの腕を急いで掴み、自分の背後へと引き寄せると同時に短剣を構え、戦闘態勢を取る。
きっと勝てはしない、この場から逃げなければ、いろいろと思考を巡らせるが良い未来が思い浮かばない。
「サラ、1人で逃げるんだ。 俺が時間を稼ぐから」
背後にいる彼女に小さく囁く。
彼女は驚いた表情のまま固まってしまった。
アンデットデーモンが咆哮する。
ビリビリと響くその覇気に圧倒されて、身体が動かなくなる。
そして、シンの前に驚く光景が映る。
サラがシンの前で、彼を守るように両腕を広げ、アンデットデーモンと対峙している。
「何をしてるんだーッ! 早く逃げろ!」
シンが叫び、サラを退けようとした時だった。
「サラ・・・カ・・・?」
「!?」
アンデットデーモンが喋ったのだ。
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