土地神と巨人と戦闘③
それは、致命傷だった。
一瑳の腹を穿ったその槍は内蔵を抉り、骨を砕き、背中へと突き出てしまっている。
もう助からない。ハルが一目でそう悟る程の惨い一撃だった。
「……………………」
魔物は頭部が無いはずだが、少し驚いた様子で一瑳を一瞥するように首を動かし、何かを言いたげに首を振るい、穂先から一瑳を引き抜いた。
彼の肉体は力なく落下し、その真下にあった水溜まりに落下する。
松葉の浮いた泥水に赤が溶けて混じっていく。
それをただ見ている事しか出来なかったハルは、懺悔と後悔の念に押し潰されそうになりながらも、怒りと妖力を全身に滾らせ吼える。
「貴様ァ!!!!」
あの邪悪を許してなるものか、存在も行動も、心も、その全てを否定し切り刻んでやると、ハルは刀を杖にし立ち上がり魔物へ斬りかかる。
だか、魔物は先程までの獰猛な様子から一変し、ひどく冷静な物腰でハルの攻撃を避け、いなし、刀を槍で絡め飛ばして、ガラ空きになった腹に拳を入れる。
「がっ!!」
打撃をモロに受けたハル、だが体勢だけは持ち堪えると、再び斬りかかる為に刀を引き寄せ一歩目を大きく踏み込んだその時、彼女の体はガクッと力無く崩れ落ちた。
「えっ………………」
彼女は思わぬ現象に呆気にとられる。しかし、こうなる事は必然だった。
なにせハルは一夜の戦闘で既に幾度と限界を超えている状態だった。その肉体は芯から朽ちた樹木のようなもの。力を込めれば、あるいは風が吹けば崩れる脆い肉体と化していた。
バランスを大きく崩し前傾に倒れの込もうとしているハル。そこを見逃すはずもなく魔物はハルの胸部に蹴りを入れた。
「ぐあっ!」
魔物の蹴りはハルの骨を砕き、内蔵を破裂させ、肉体を吹き飛ばす。ハルは吐血を撒き散らしながら宙を舞い、数本の松の木をへし折った後、地面へと激突した。
既に死に体。たが、それでもとハルは立ち上がる為に踏ん張るが、血反吐を吐いて再び崩れ落ちた。
「………………」
魔物は倒れ伏すハルに近寄り、首を掴むと腕を伸ばして吊り上げる。
「くっ……あ……あぁ……」
ハルはせめてもの抵抗で魔物の腕を掴むがビクともしない。反対に魔物は最後の力をも奪わんと、首を掴む力は次第に強めていき、ハルは言葉を紡ぐ事も難しくなっていく。
「き、さま、何者だ。先程までのヤツとは違う…………その肉体を操っている貴様はいったい………………!」
魔物はハルの疑問に答えない。ただ槍を元の腕に戻し、首の断面をクルリとなぞると肩を竦めた。
「口が無いのに聞いてどうするのかね」そう言いたげにオーバーなアクションでハルを煽る。
「き…………」
ハルは腹立たし気に口を開くが、言葉を発する前に魔物は「黙れ」と首を絞める力を更に強めた。
「………………!!」
手には刀も銃も無い。妖力を練ろうにも意識が今にも消えそうな事に加え、魔物が掌から魔力を流し込んで操作を妨害している。
魔物は左腕を横に広げ、更に形を変化させる。それは細身の大剣。それを抵抗する力も失ったハルの片腹に斬れない程度の力でトントンとリズムよく当てる。
捕らえた獲物を弄ぶ肉食獣のような行為。
だが、もう彼女には抵抗する術はもう無かった。
「ごめ……みん……な………………」
ハルは瞳を濁らせボロボロと涙を流し懺悔する。
それは、今も必死に戦っている友や配下の者達、そして、何より最後に自分を助けてくれた少年に対してのもの。
たが、魔物に情は無かった。
魔物は躊躇う素振りも無く左腕を伸ばし、ハルの腹へ目掛け振りかぶった。
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