第12話 歓迎会の始まり

 ぐぅーっ。

 と、再び社長のおなかが大きく鳴った。

「社長、歓迎会ですよね?私を歓んで迎えてくれる会ですよね?私一人では歓迎会になりません、ご飯、行きましょう!」

 社長の手に封筒を戻す。

「え?あ、うん。あ、でも、その、従業員の女性と二人で食事、えっと、あれ?セクハラに……あ、そうだ、時々手伝ってくれる人も呼んでいいかな?」

「二人でもセクハラだなんて言いませんけど、手伝ってくれる人とも顔を合わせられるならそちらのほうがいいです」

 親睦を深められるか不安だけど……人付き合いが苦手で、会社の人間関係がもとで前の仕事やめたくらいだから……。


 お手伝いの人とは現地集合で、この場所なら何度か行ったことがあるから10分か15分もあれば来るだろうとのことだ。

 会社を出て徒歩5分のおしゃれなイタリアン。

 歓迎会って飲み屋じゃないの?と思ったけれど、ご飯行きましょうって言ったのは私か。

 しかし、律儀に本当にご飯だよ。

「何でも好きなもの頼んで!もちろん、福利厚生、会社のお金ですから!」

 よっぽど福利厚生が気に入ったのか社長は笑顔を見せっぱなしだ。

 ああ、本当にいい人だ。周りの人たちが心配するはずだ。いい人すぎて、すぐに騙されそう……。自分の身を削ってまで人に施しそう。

 ……福利厚生って言ったって無限にお金があるわけじゃないんだし、どれくらい会社が儲かっているか知らないけれど……会社のお金だから遠慮なくってわけにもいかない。

 目の前に広げられたメニューを見る。

 パスタ、ピザ、グラタン、ドリアなどの単品メニューから、肉料理メインのコース料理など、メニューは豊富だ。

 値段も700円前後のものから6000円くらいするコースまで幅広い。

 好きなものをって言われるのが一番困るパターンだ。……遠慮しすぎて安すぎてもダメだし、会社のお金だからと一番高いものをっていうのもダメ。

 どうしよう……。

「うわー、お兄ちゃん、だ、誰?」

 20代前半のすごくおしゃれでかわいい女の子が現れた。

 髪の毛はきれいにカールさせてるし、まだちょっと肌寒い4月の初旬だというのにノースリーブの服を着ている。もちろん、カーデガンは袖を通さずに肩に羽織るスタイルだ。

 ……私、仕事しませんって全身でアピールしているようなファッションで私は苦手なんだよね。

「まり、はい、座って座って、紹介するね。こちら妹のまり。時々仕事を手伝ってくれてます」

 あー。仕事を手伝ってくれるのって、妹さんなんだ。アルバイトっていうより家族……。

「まり、こちら、なんと、今日、会社に入ってくれた布山さんです」

 まりさんが、私の顔をじっと見た。

「初めまして、布山と申します。前職で事務全般、倉庫管理、出荷作業補助などいろいろ経験していますのでお役に立てるよう全力で会社のために……」

 と、まだ試用期間後に正式入社するかどうか決めることになっているけれど、だからってその期間手を抜くつもりはないのでしっかりとアピール。

「うっわー、お兄ちゃん、やったじゃない!本当に、人、きたんだ!そうか、事務員さんだぁ。すごぉい!本当に会社みたいになってきたね!」

 まりさんが、肩に羽織ったカーディガンをぽいっとイスの上に投げ捨てて、社長の隣に腰を下ろした。


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ご覧いただきありがとうございます。

毎度のことですが、人の名前を考えるのが苦手です。「涼子さん」はすぐにうかびましたが、後のキャラクターは決まらないまま。というわけで「ツイッター」で案を募集しまして。皆さまご協力ありがとうございます。登場させる枠から、「まり」さんのお名前を使わせていただきました(本人了承済です)。

それでは、引き続きよろしくお願いいたします。

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