第11話 幸せにしてあげますっ!

「ふくりは、福利……は、幸福と利益、こうせいは、厚生、健康で豊かな厚みのある生活をすること」

 漢字を書きながら、意味を添える。

「かんげいは、観光とかの見る意味の観じゃなくて、よろこぶという意味のある方の歓。こっちの欠の部首はあくび。口を開ける様。歓んで口をあけてるイメージで、歓迎の迎は迎える……」

 あ、また、やっちゃった。

 頭でっかち女。

 知識をひけらかして優越感を持ってる痛い人間。

 ちょっといい大学出てるからって周りの人間を馬鹿だと思ってるいやな奴。

 人を見下していい気持かな?最低女。何度も言われたことがあったはずなのに……。

 違う。違う。違う。そうじゃない。

 見下してなんかないし、自分が頭がいいとも思ってない。

 いろいろ知ることが楽しくて「あーそうだったんだ」って思ったことが気持ちよくて……。

 今の福利厚生の話も入社して先輩に教えてもらって「福利厚生って、社員の幸福と利益と健康で豊かな厚みのある生活のためのお金って考えるとすごいでしょう?会社が、お金だけじゃなくて、幸せまで考えてくれるのよ?」っていう話がとてもよかったから。

 だから、その……。ついほかの人にも教えたくなっちゃうんだ。

 思ったことはすぐに口にしちゃう社長と同じ。

 いいえ、違う。もしかすると、後輩たちが言っていた「教えたがり」は図星なのかもしれない。

「すいませんあの、偉そうに……その、知識をひけらかすとかそんなことじゃなくて、えっと、私は、教えてもらった時にうれしかったので……」

 と、慌てて言い訳してみたものの、よく考えると教えてもらってうれしかったからって何?だよね。

 誰もが同じように知らない話を聞いて「へー」って思うわけじゃない。

 馬鹿にしてるのかっていらだつ人のほうがきっと多いだろう。……こちらにそんなつもりはなくても。だから、あまり言わないようにしてたのになぁ。

 なんか、社長の顔を見てると、つい、いろいろ教えたくなっちゃうっていうか……。

 でもさすがに誤字の訂正はやりすぎた気しかしない……。

 視線を挙げて社長の顔を見る。

 むっとしていない……。

「すごい!福利厚生って社員のために使うお金って……社員を幸せにしてあげるお金なんだ。すごい……」

 目を輝かせて封筒の文字を見ている。

 ほっ。よかった。

「なんか、福利厚生って何なのかわからなかったけど、そうか、いいですね、福利厚生って。今まで社員がいなかったから使う機会もなかったけど」

 社長が封筒の文字から視線を上げた。

「これからいっぱい幸せにしてあげますっ」

 まっすぐ目を見て微笑まれる。

 うっ。

 ぐっ。

 言葉に詰まるしかないでしょう。

 社長が社員の幸せを考えることはとてもいいことなのは間違いない。

 けど、なんかプロポーズみたいで、言葉に詰まるっての!もちろん社長にそんなつもりがないことはわかってるけどっ!

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