第10話 採用!

 やばぁと思って、社長の顔を見ると、きらきらと瞳を輝かせて私を見ています。

 え?

 あの……。

「すごいっ。たった数時間でこれだけいろいろ改善点を教えてくれるなんて」

 いや、全然すごくないよ。

「あの、前の会社と比較して気が付いたこと言っただけなんで、すごくはないです」

 社長が首を横に振りました。

「すごいですよ。だって、入社するかどうかわからない会社なのに、どうしたらよくなるかって考えてくれたんですよね?それに、面接の途中で寝ちゃうっていう失礼なことしたのに、待っていてくれたんです」

 ニコニコと無邪気な笑顔を向けられ……。

 うっ。心が痛い。

 どうしたらよくなるか考えたというよりは、ダメな点を挙げていっただけなんだけど。

「あ、あの、いつもは違うんですよ、その、人と話をしてる時に突然寝ちゃうようなことなくて……なんでだろう。あの、その……布山さんの声が気持ちよかったというか……」

 は?

 私の声が気持ちいい?

「あ、違う、嘘です、今の忘れて、あの、ごめんなさい、セクハラとかじゃなくて、えっと、あの……ど、どうしよう」

 セクハラ?

 ああ、容姿に関して女性のこと何か口にするとすぐにセクハラセクハラっていうの、ありますよね。会社経営者として、従業員を雇うためにその辺は勉強しているんですね。

「花田さんに言われていたんです。宗太は思ったことすぐに口にするから、セクハラだって訴えられないように気を付けろって。妹にもセクハラとパワハラは絶対ダメだって……ああ、あの、ごめんなさい、えっと、やっぱり会社辞めるとか……」

 ぷっ。

「やめるかどうかは試用期間終わったときに考えます。それから、明らかに馬鹿にしたような発言と、性的な発言でなければ私は気にしませんから。むしろ、私こそ言いすぎてしまうことがあるかもしれませんので先に謝っておきます」

 ぺこりと頭を下げる。

「あ、ありがとうございます。あの、でも言い過ぎとかそれこそ僕は気にしないので。その、いろいろはっきりってくれたほうが助かります。いろいろと常識知らずなところもあるので」

 ぎゅうーっと、頭を下げる社長のおなかが大きな音を出した。

「あの、布山さんこれからお時間ありますか?」

 え?

「今日のお礼と、それから歓迎会と、えーっと、ご飯を、いや、あれ?こういうの誘うのもアウトでしたっけ?えーっと、あ、ちょっと待ってください」

 歓迎会のお誘い?

 バタバタと落ち着きなくドアを出て行った社長。3階へと上がっていく音が聞こえる。

 ものの1~2分で戻ってきた社長は、白封筒を持っていた。

「あの、はい、どうぞ」

 封筒の表には「福利厚生 歓迎会費用」という文字が、「ふくりこうせい、観げい会費用」と書かれていた。

 大丈夫だろうか……。いや、大丈夫じゃないから、こういう事務的なことは私がしっかりしよう。

 封筒を受け取ると、ボールペンを取り出し、封筒の文字に二重線を引く。

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