第8話 4時間経ちました

 ジリリリリーン。

 あ、また電話だ!

 きょろきょろと周りを探すと、電話は入り口ドアの左側の小さなカウンターの上に置いてある。

 ジリリリリーン、ジリリ……カチャリ。

 よし、3コール以内、セーフ。

 って、セーフじゃないよっ、何してるの、私!

 伝言、メモ、メモ、紙がないっ!社長っ!電話のある場所にはメモもセットで置かなくちゃダメでしょうっ!

 二階にメモ用紙は置いてきちゃった。受け取り表にサインするためのボールペンだけは手元にある。

 仕方がないので、受話器を肩ではさみ、左手の甲にメモ。

 階段を上り、事務室で先ほどの伝言メモの下に新しい伝言を記入。て、本来は、メモ内容がごちゃごちゃに混じらないように、1要件1枚が鉄則ですが……。逆に枚数あっても、それをまとめて止めておくクリップもないので1枚の紙に書くことにした。

 ちょっとクリップとか文具用品も足りなさすぎっ。

 手に書いたメモを消そうと、ダイニングの奥のキッチンスペースにお邪魔します。

 すいません、手だけ洗わせて……って、流しがっ!

 流しに洗い物たまってる!って、カップばっかりだけど!なんでこんなにカップ?

 社長一人でカップ使って洗わず新しいカップ使って洗わずしてるの?

 ふとダイニングの机を見る。

 8人掛けだし、誰かお客さんが来てお茶を飲んだ後?疲れ切って片付けもままならない?

 ……ついでだ。ごしごしと、スポンジに洗剤つけてカップを洗う。

 ふと視線の端に、湯飲みが二つと、ティーパックの緑茶が用意してあるのが見える。

 う?もしかして、これ、来客用のお茶……面接に来た私に出そうとして準備してたのかな?


 それからいくつかの電話を取る。さすがに、メモをしたものの説明もなしに放置して帰るわけにもいかないと思ったからで……。

 一番初めの電話と同じように社長を心配する電話も多い。

 慕われてるんだなぁ。

 いい人なんだろうな、間違いなく。

 それで、ちょっといい人すぎて不器用な人なのかもしれない。

 ……だってさ……。

 メモを見る。

 伝言頼まれたこのいくつかは、ラインとかメールとかですんじゃう内容じゃないだろうか。

 ああ、そうSNS禁止とか募集にあったからな。ラインもNGなのかな。


 ジリリリリン、ジリリリリン、ジリリリリン。

 ああ、電話が!電話が鳴ってる!3コール、3コールすぎちゃった。

 だって、トイレ、さすがにトイレ入ってたら出られない、急がなくちゃ。だいたい8コール、長くても10コールで切れる可能性が高い。

 ジリリリリン、ジリリリリン、ジリリリ

 音が鳴り止む。

 敗北。

「もしもし。あー、はい、ありがとうございます」

 トイレから出て事務所に戻ると、社長が電話に出ていた。

 カチャリと受話器を置いた社長と目が合う。

「あー!うわ、あああ!ご、ごめんなさい、面接の途中、あれ、今、今何時?このところ仕事が立て込んで、昨日は満月だったし、あの、本当に、すいませんっ」

 いや、満月とか月見でもしてたんですか!社長が非常に取り乱してわけのわからないことを言っている。

 いや、この社長なら月見とかしそうだけど。

「今、17時15分ですね」

「え?じ、17時?面接の約束は13時だったから、えっと、すいません、あの、4、4時間も……その……」

 社長が慌てて立ち上がって、ほぼほぼ垂直に頭を下げた。

「いいえ、あの、それよりもいろいろと寝ていらっしゃるときに連絡がありましたので、勝手に電話とか取ってしまって申し訳ありません。どうしていいのかわからなかったので」

 っていうか、勝手に電話を取ったのは私の左手だけどね!

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