第7話 面接 3

「お電話ありがとうございます。株式会社……異世界商事でございます」

 少々早めに、定型句を口にする。会社名で若干つっかえたのは、流れで前の会社名を口にしそうになったからですよ。

『あれ?あれ?君、誰?』

 誰と言われても。電話口から戸惑いの声が聞こえる。

『もしかして求人出してるって言ってたけど、君が新しい子?』

 若い男性の声だ。とても砕けた話し方をしている。社長の親しい知り合いだろうか。

「で、電話番です」

 嘘ではない。頼まれたわけではないけれど、現状社長は寝ちゃったのだから、電話の番を自主的に……その……いや。勝手に出ちゃったんだけど。

 私がじゃない。

 勝手に出たのは、私の左手だ!わ、私は悪くない……。遠い目。

 そう、電話の受話器は左手で取るの! 右手は常にメモを取るためにあける。

 って、メモ、メモ。

 机の上には、メモ用紙がない。

 信じられない!電話がかかってきたらメモは必須なのに、電話の近くにメモがないなんて!

 何かメモを取る必要があるとわかってから紙を用意するなんて時間の無駄だし、メモを取らずに話を進めるのなんて危険なのにっ!記憶違いでは済まないし、何度も相手に聞き返すのも失礼になるのに……!

 カバンからごそごそと手のひらサイズのメモ用紙とペンを取り出す。

『そっか、電話番かぁ。宗太さぁ、人がいいから、何でもほいほい頼まれて、仕事増やして、無理してなんとかしようとして、睡眠時間削って、人を雇えよって俺、さんざん言ってるんだよ。いつか倒れるぞって』

 人がいいのか。

 ……周りの人が心配しちゃうって。人望もあるのかなぁ。

『じゃぁ、伝言頼むよ。えーっと、頼まれてた姿見、半分は用意できたから発送準備してるって。残りの半分はもう少しかかるって』

「はい。かしこまりました。注文した姿見の半分は準備が整い次第発送していただけるということですね。残りの半分は後日ということですね。お名前をうかがってもよろしいでしょうか」

『あ、ああ。花田硝子だ』

「花田硝子様ですね。布山が伝言を承りました」

『ぷぷっ。ちゃんとした会社みたいだな。うん、伝言頼んだ。それから、宗太……いや社長のことも頼んだよ、布山さん』

 笑い声とともに電話は切れた。

 ちゃんとした会社みたい?

 いやいや、ますます、やばい会社みたいです。今まではちゃんとしてなかったってことじゃないですか。

 いや、でも、一人で企業してずっと一人でやってきて、スーツさえまともに着られないならそんなものなのかな。

 求人情報を思い出す。給料は……月給は大卒初任給程度だから悪くはない。ただ、ちょっと怪しい記述が……。

 月給プラス、現物支給のボーナスあり。

 ……現物支給のボーナスってなんだ……。時々大手企業の工場だとテレビだとかエアコンだとか工場で作っている製品が現物支給されると聞いたことはあるけれど……。姿見を10個現物で支給されても困るよね……。

 謎だらけの会社だ。やっぱり就職はやめよう。

 トントン。

 今度はノック。思わず出ちゃった。出ちゃったよ。

 何してるの、私!

「荷物のお届けです」

 受け取りますが、えーっと、いいんですよね?受け取って?

 ちらりと後ろでいびきをかいたまま微動だにしない社長を見る。

「では、いつものように運び込みますんで、確認お願いします」

 え?いつものように?確認?

 配達の人が、階段を下りて行ったので、確認するためについていく。

 いったん外にでて、倉庫のドアを開く……鍵はかかってない。物騒だな。顔を上げると、監視カメラに気が付いた。ああ、防犯はしているんだ。

 ……これなら、荷物を受け取って、たとえ荷物が紛失したとしても責任を問われることはなさそうかな……。

 って、そうじゃない。なんで私、こんな勝手なことをしてるんだろう。つい、うっかりじゃないよ。

 倉庫のドアを開けると廊下になっていて2つの扉があった。

「第一倉庫あて、2つ、第二倉庫あて4つ、第三倉庫に1つ」

 と、配達員さんは、段ボールをそれぞれの扉の前に積んだ。

 一番左の扉が第一倉庫、真ん中の扉が第二倉庫、一番右の扉が第三倉庫……。

 って、わざわざ分けてるのか!っていうか、シャッターを全開にしても、その中に扉があったら、大きなもの運び入れられないですよね。何、この不便なつくりの倉庫。

 ビルの大きさとしては、庶民の一軒屋3つ分くらい。だから、この倉庫一つ分が20畳前後って感じなのかなぁ。大きなものは取り扱わないってことかな。一人で切り盛りするには、動かせる量にも限りがあるってことかなあ。

「はい、確かに受け取りました」

 布山とサインを受け取り伝票に記入していく。

 何、やってるんだろう、私。

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