スポーツの神様

  ダック・レイカー(著)

 小島幸恵(訳)


  ミュンヒハウゼン新書


   野球、サッカー、ラグビーにテニス……プロアマ、メジャーマイナーを問わず、多くのアスリートが好成績を得るために日々、トレーニングに汗を流してい

ます。

 しかしながら、どのジャンルのスポーツであっても、トレーニング・コーチングのメソッドはこれが確実、と呼べるものが確立されているわけではありません

。選手の身体的特徴、メンタル等が個々人により異なるため、どの選手にも当てはまる究極の練習法のようなものは存在しない、というのが、コーチたちの共通認識であり、常識として認識されています。


 こうした考えを思考停止に繋がる惰弱極まりないものだとして批判したのが、本書の著者であるダック・レイカーです。究極の練習方法は存在するとして以下の持論を繰り返し述べています。


「それぞれのスポーツに従事するプレイヤーやコーチたちが、究極の練習方法に到達できないのは当然の理屈である。なぜなら彼らは、各々が所属するスポーツの枠にとらわれて自由な発想を失っているからだ。究極の練習方法とは、『サッカーにおける究極の練習法』『ホッケーにおける究極の練習法』というように個別のスポーツに分かれるものではなく、あらゆるスポーツに適用できる、恒常的なノウハウである必要があるからだ」


 ようするに、「あらゆるスポーツのトッププレイヤーになれる究極のトレーニング法」が存在するはず、という発想です。一読すると荒唐無稽とも思われるこ

の主張に説得力が宿っているのは、ダック・レイカー自身がトライアスロン・オリエンテーリング・ボーリングという三つのスポーツにおいて好成績を残したア

スリートであったからでした。


「これらのスポーツでトップ争いを繰り広げていた際、私は一種のトランス状態を複数回経験している。現代スポーツでいうところの『ゾーン』と呼ぶべき状態に自らを誘導することができれば、おそらく種目に関わりなくメダルを得られることだろう。精神の解放。脳細胞の解放こそが、勝利への近道であると信じる」


 しかし、ここからがいけません。上に記した精神の解放状態に達するために必要なものとして、ダックが挙げたものはドラッグや麻薬でした。もちろん、そのようなものを日常的に摂取していては、ドーピングに引っかかってしまいます。ダック曰く、ドラッグを使用してトランス状態に入ったとしても、そのようにさせているのは脳そのものの働きであるはずなので、一度その感覚を掴んだら、以降はクスリなしでもトリップできるそうなのです。



「ゆえに、私は若いアスリート達に推奨する。弱めのドラッグで身体を慣らした後、強力なクスリで一発、頭をがつんと殴りつけてみたらいい。そのとき訪れる精神の自由を活用すれば、君の人生はメダルとトロフィーに不自由しないものとなるだろう」


 残念ながらこの信念をコーチングにおいて実践してしまったため、2002年、ダックはスポーツ界から永久追放されてしまいました。現在でも本書は書店でスポーツコーチング関連の書棚に見受けられますが、これはその効果を評価しての扱いではなく、指導者を目指すものに対する反面教師の書として読み継がれているようです。




(このレビューは妄想に基づくものです)

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